"自国第一"主義が世界を揺るがし始めている。トランプ・アメリカ大統領の"アメリカ・ファースト"の思想と政策が、EU各国をはじめ世界に伝染し始めているからだ。グローバル化、IT化などが進む中で各国とも中間層の二極化、没落が目立ち社会に不満が高まっている。
そうした社会不安をすくい上げる言葉として「自国第一」というフレーズは受けが良くナショナリズムを刺激し、ポピュリズム(大衆迎合主義)に発展しやすい。
トランプ大統領は、アメリカ・ファーストの中味としてTPP(環太平洋戦略的経済連携)からの離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)の破棄、環境の新枠組であるパリ協定への不参加、多国間より二国間で貿易交渉を進める、軍事費を大幅に増額、反イスラム主義――などを強調してきた。
一方、EUでもフランスのルペン国民戦線代表もやはりフランス第一、反グローバル主義、反テロを掲げて4月の大統領選に向けてトップの支持率を保っている。ドイツではメルケル首相がトランプやルペンの考え方に反対しているが野党の「ドイツのための選択肢」のペトリー共同党首やオランダ自由党、オーストリア自由党は移民やEU負担の増加に反発し、反テロ、反イスラム主義を掲げ過激派集会にはドイツ、フランス、オランダなどの右派党首が集結しているのだ。
またハンガリーのオルバン首相は、反難民入国の急先鋒となり国境に有刺鉄線を張り、催涙ガス、放水などで難民を追い払っている、ルペン党首たちは扇動的な演説などで既存の体制を批判し、一般大衆の不満と願望をすくいあげることによって人気を高めている。ただ、具体的政策には乏しく、もっぱら過激な発言で注目を集めているのが実態ともいえる。
こうした中で3月のオランダの下院選挙では排外主義を叫んでいた反イスラム、反移民の極右・ウィルダース氏の自由党は5議席増としたが第一党にはなれなかった。しかし、与党(中道右派)も左派も大幅に議席を減らしており、決してポピュリズムの火が消えたわけではないのだ。
今後EUでは4月に注目のフランス大統領選があり、ドイツの連邦議会選挙(9月)などが続く。第二次大戦後、EUでは3度目の大戦は決して起こさないことを誓って欧州経済共同体からEUへと発展させ、政治、安保を含めた"ヨーロッパ合衆国"を築いてきた。その牽引役が大戦前の仇敵フランスとドイツだった。
そこへかつて欧州の盟主として長く君臨していたイギリスがEUから離脱する。一方、東南アジア共同体も分断状況を呈し始めた。こうした中で日本はどう動くのか、軸がみえない。
【財界 2017年4月18日 第445回】