家に眠る不要品がお宝に~驚きの買い取りビジネス
千葉県船橋市にある一軒のお宅。お住まいの大野美和子さん(70歳)が荷物の整理をしている。娘さんも独立し、5年前に定年退職したご主人と二人暮らし。そこで元気なうちにと、生前整理を始めていたのだ。
そこにエコリングのスタッフがやって来た。家に入るなり白手袋をつける。いらない物でも買い取ってくれるという。
まず査定するのは、長い間タンスに眠っていた着物。処分に困っていた着物が4000円で売れた。
気をよくした大野さんは、古いアクセサリーをたくさん持ってきた。中にはイミテーションやメーカー製ではない時計も。ガラクタのようなものでも、業者はていねいに一つ一つ査定していく。イミテーションのアクセサリーとノーブランドの時計は合わせて1500円に。さらに片方だけのイヤリングが5200円。「18金だから」だと言う。
この日は全部ひっくるめて4万円になった。「この辺のものは全部捨てようと思っていましたが、ビックリしました」と、大野さんも驚く。
エコリングは全国に85店舗、年商120億円を超える急成長中のリサイクルショップ。何でも買い取るのがモットーだ。
店に持ち込みのお客さんもいる。ある家族が持ってきたのは、子供が履き古したスニーカー。他にも20年前に買ったクリスマスツリーにお母さんが愛用していたハンドバッグ……。どれもこれも普通なら捨てるような物ばかりだ。
だが、なんとすべて買い取りで総額630円に。履き古したスニーカーにも50円の値がついていた。持ち込んだ少年は「エコだから、ムダにならないからいい」と言う。
人気の新世代リサイクル~買取品はこうして売る
エコリングは買い取り専門で店に売り場が無い。兵庫県姫路市にある5階建ての本社の中は、大量の段ボールで埋め尽くされていた。全国の店で買い取ったもののうち、ブランド品は全てここに送られてくる。
中にはだいぶ年季が入ったものも。そこで社内には中古品をよみがえらせる専門部隊がいる。独自開発した企業秘密の漂白剤を塗っていく。バッグは裏返して隅まできれいに掃除。化粧直しが終わったら、今度は写真撮影。全体だけではなく細部も入念に撮っている。「汚れや傷を優先して撮っています。『こんなに汚れてると思わなかった』ということにならないように、あえて汚い所を優先しています」と言う。
撮った写真はネットにアップ。エコリングの最大の売り場はネットオークションなのだ。
2万6700円で買い取ったルイ・ヴィトンのバッグを1円からオークションにかけると、2日後、落札価格は4万2519円になっていた。ただ、全てがうまくいくわけではない。落札価格が仕入れ値を下回って大赤字になることもある。だが、たとえ赤字でも2日で売り切るのがエコリングのルールだという。
「いつまでも抱えていたら、赤字になるからって抱えていたら、次が買えませんよね。だから売り切ってしまう」と言うのは、エコリング代表の桑田一成。創業15年で年商120億円企業へと急成長させた。
エコリングにはネットオークションでは売れない品も多く持ち込まれる。何でも買い取るのだから、店の奥にはそうした品がたまっていく。
例えばブランド物じゃない古着は「ウエス屋に電話して、『いりませんか』と」(桑田)。
第二の売り先は専門の業者になる。「ウエス」とは雑巾のこと。業者は古着を買い取って裁断、工場などの油ふき用として販売しているのだ。
それでも売れないものはどうするのか。埼玉県にあるエコリングの倉庫には、関東地区の17店舗で買い取ったクタクタの中古品が集まる。使い古された食器、バラバラのおもちゃ……。こうしたものがまとめて箱詰めされる。
送り先はタイの首都バンコク。エコリングは5年前にタイに進出、5店舗を展開している。タイの店舗は日本の店と違い、商品が並んだ売り場がある。
第三の売り場は海外。日本では買い手がつかない中古品でも、海外では欲しがる人がおり、けっこう繁盛している。
日本から段ボールが届いた。中身は大量の中古靴。その中には、家族連れで店に来ていた少年から買い取ったスニーカーもあった。買い取り価格は50円だったが、売り値は何と300バーツ(約900円)。それをタイの女性客がお買い上げ。「日本の中古品は質が高いからいいのよ。ジョギングに使うの」と言う。
日本では行き場のない物も、ところ変わればまだまだ需要がある。「世の中の商材の価値を見つけ出す。我々が見つけ出すんです」と、桑田は語る。
急成長リサイクル店の秘密は「高速回転」
東京港区のオフィスビルに、エコリングの第2の売り場がある。看板にはオークションの文字が。会場は異様な熱気に包まれていた。
セリにかけられているのは中古のブランド品。業者向けオークション「ハッピー東京オークション」には、リサイクルショップや質屋などが参加している。エコリングはこのオークションの1割以上を出品するという。オークションを実施している「ハッピープライス」の沼山英樹さんは「店舗数が多いので商品量が多い。かなり助かっています」と言う。
全国で買い取るから品数が多いし、状態のいいものを出せる。そんなエコリングが出品した商品がどんどん売れていく。エコリングが在庫として抱えるのは8日。とにかく早く売り切るビジネスモデルなのだ。
「高速回転ですね。うちは(小売平均の)3倍から6倍の早さで売っていく。逆に言えば利益水準は3分の1、6分の1の利益で運営できる。買い取りもおのずと高くなる」(桑田)
買い取りに特化した経営センスを培ったのは、桑田の異色の経歴だった。
1968年、兵庫県姫路市に生まれた桑田。少年時代の母とのやり取りが、桑田の人生を左右することになる。ソロバンを習いたいという桑田に、母は「やめとき、これからはパソコンの時代や」と言って、中古のパソコンを買って来てくれた。
まだファミコンもなかった時代に、桑田少年は夢中でプログラミングを覚え、パソコンのとりことなった。
「ゲームを作り友達に配布したりしていました。でももう本当に単純なものですよ」(桑田)
“元官僚”社長の壮絶人生から生れたビジネスモデル
1993年、日大農獣医学部を卒業するが、当時は就職氷河期、働き口が見つからなかった。そこで国家公務員試験を受けてみると合格。旧郵政省の役人となった。得意のパソコンのスキルを武器に、出世コースを駆けのぼっていく。だが郵政事業の民営化が現実味を帯びて来ると、将来に不安を覚え始めた。
「不安があった、民営化されるかされないか。実はプログラマーとして生きていける自信もありました」
時はITバブル真っ只中。桑田は、郵政省を辞めて、ソフトを開発・販売する会社を起業。しかしあえなく失敗に終わる。「ジリ貧ですよ。お金がなくなって、闇金から金を借りた」(桑田)と言う。
桑田は生きるため、衣類や家電など身の回りのものを次々と、ネットオークションで売った。手元に残ったのはパソコンだけ。そんな生活の中で、桑田は「いまや家財の切り売りが一番の収入源。これをビジネスにできないか?」と、考えるようになった。
運も味方した。これを最後にと開発していたプログラムが、ある企業に2200万円で売れたのだ。それで借金を完済し、残った資金で設立したのがエコリングだ。
お金が足りなかったから売り場はなし。何でも買い取る店にしたのは、自分もそれで助かったから。買い取った品物を人気になり始めていたネットオークションにかけると、どんどん売れていった。
売り先をさらに求めて、桑田は日本を飛び出した。中東のアラブ首長国連邦・ドバイに進出した桑田が売り込んだのは、中古の自転車だ。「日本語が書いてあると、高く売れる。品質がいい証拠になるんだ」と、現地の販売店店員は言う。中東に日本の「ママチャリブーム」を起こしたのだ。
さらに桑田はアフリカのウガンダへ。持ち込んだのは古着だった。珍しいのか冬物が人気となった。
どんなものでも買い取れば必ず欲しい人がいる。桑田がどん底生活でつかんだビジネスの核心だ。
鑑定士VSニセモノ~偽ブランド品を見極めろ
夜8時半、閉店後のエコリング浦和店には、まだスタッフが大勢残っていた。カウンターの上には、ルイ・ヴィトンやグッチなどブランド品がズラリ。偽物を見極めるためのトレーニングが、鑑定士デビュー前の若手社員たちに対して行なわれていた。鑑定士はエコリングの社内資格。社員の7割は鑑定士だという。
千葉県出身の外戸口友希(21歳)は5ヵ月前に入社し、日々練習に励んでいる。「地元でお店を開いて店長やりたいという夢があるので、充実した毎日を送っています」と言う。
偽物だというルイ・ヴィトンのバッグだが、どこで判断するのか。ポイントは金具の部分。本物は角が丸いが、偽物は角張っている。さらにラベルに押された刻印。偽物は「R」のマークがつぶれていた。
リスクと隣り合わせの鑑定士になるには通常、10年はかかるとされる。しかし代表の桑田は、経験や勘を補う独自の鑑定士育成法を開発した。1年程度で一人前にすることができるという。
「僕は元公務員だから、文章化が得意。世の中の職人さんがやっていることは、けっこう文章化できます。ニュアンスまで文章化できると思います」(桑田)
桑田が行ったのは鑑定のマニュアル化だ。500万点以上の商品データを蓄積し、バッグや時計など商品ごとに、偽物を見分けるポイントを写真つきで解説。また、商品の相場を一覧表にし、データを常に更新し続けている。
後日行われた試験に合格し、外戸口も鑑定士に。さらに勉強や経験を積んで一人前の鑑定士を目指す。
さらに桑田は得意のパソコンで、遠隔サポートシステムを作り上げた。インターネットを通じて大阪にいるベテラン鑑定士が、店にいる若手鑑定士にリアルタイムで助言するのだ。
「お客様にも『ベテランの鑑定士が見ています』とお伝えすることができる。その意味では安心感につながっていると思います」(遠隔サポート担当の籠谷知浩)
さらに桑田は鑑定のハイテク化も進めている。今、開発しているのが、「自動ニセモノ判定機」。時計などの品を機械にセットすると、本物か偽物かを判定する。
「時計に含まれている成分値を測ります。正規品と偽造品のデータを集めて、その違いを法則化しシステム化したものです」(籠谷)
詳細は企業秘密だが、金属の成分を分析して判定しているという。
不要なモノはない~世界で活躍する日本の中古品
タイの首都、バンコク郊外の貧しい地域にある小学校。そこにエコリングのトラックがやってきた。
箱の中身は日本からの中古品。子どもたちが行列して待っていた。古着が配られると、子供たちがつぎつぎと手を伸ばしていく。エコリングタイの支社長、伏見太一は「寄付です、全部。無料で差し上げて。子どもたちに使ってもらうという形で協力させて頂いてます」と言う。
野球のグローブにサッカーボール、様々な文房具……。教室では鉛筆が1本ずつ配られた。文房具さえ満足に買えない子も多いのだという。日本では不要となったモノでも、ここでは、まだまだ役に立つ。
桑田はこの寄付活動を、4年前から続けてきた。
「向こうに持って行って、子供たちが喜んでいる。それだけで十分じゃないですか。世の中、ムダなものはないと思います」(桑田)
ムダなものはない。このことについてスタジオで桑田は次のように述べている。
「ずっと給料が上がっていく、だから消費していくという世の中から、ひとつひとつのものを大切にしていこう、再販したらちょっとでもお金になるようにしていこうという側面を担っていくビジネスだと思っています」
~村上龍の編集後記~
桑田さんは、不思議な人だった。とらえどころがない。
農獣医学部出身、PCが普及するはるか前に、プログラミングを習得、元郵政省公務員、そして、身の回りのものを、はじまったばかりのネットオークションで売って生活。
「節約とか、そんな生き方をするんだったら死んだほうがまし」と宣言して・・・
やがてエコリングを立ち上げ、創業15年で、年商100億円の会社に成長させた。一見、脈絡がないが、不自然ではない。
人生に無駄な時間はなく、世の中には、不必要な資源はないことを、身をもって、しかも軽やかに示している。
<出演者略歴>
桑田一成(くわた・いっせい)1968年、兵庫県生まれ。日本大学農獣医学部卒業後、1993年、郵政省(当時)入省。2000年に退省し、ITベンチャーを起業するも失敗。2001年、エコリング創業。