2025年の私たちの生活はどうなるか/書籍『ワーク・シフト』の紹介(結城浩「本をめぐる旅」)

『ワーク・シフト』という本。この本は、2025年になったとき、私たちがどんな職業生活を送っているだろうかを書いた本です。

結城はあまりこういう本は買わないのですが、ふと立ち寄った書店でベストセラーになっていたので、手にとって読み始めてしまったのです。

そして、非常に心ひかれるものを感じました。内容もさることながら、もっとも心ひかれたのは「物語を使って説明されている」という形式です。といっても『数学ガール』のように全編が物語というわけではなく、未来の生活の一シーンを切り取って、パターンごとに描いているのですが。

第2章のジルは2025年のある日、分刻みの忙しい生活を送っていました。メールやネットに追い立てられ、じっくりと自分の能力を磨く学びの時間を取れません。

第3章のローハンは脳外科医、アモンは有能なフリープログラマでした。彼らは専門性を生かし、世界を相手に仕事をしていました。しかし、人と直接に接する機会はほとんどなく、コンピュータのスイッチを切ったらひとりぼっちになります。

第4章のブリアナとアンドレは先進国に生まれながら、グローバル化する人材市場から取り残されてしまいます。これまでは生まれた「物理的な場所」が経済的な繁栄を決める主要因だったのですが、未来は「才能とやる気と人脈」が主要因になります。

……と書いていくと暗い物語のようですが、そればかりではありません。

第5章のミゲルは、高度な問題解決のために世界中の多様なチームとやりとりをします。ひとりひとりが他人との競争することを目的とした時代から、他の人の多様性を認め、逆にそれを生かして協力するという時代へ移る(可能性がある)ことを示唆します。

第6章のジョンとスーザンはボランティアとして定期的に遠い国の手助けをします。彼らの子供たちは学校に通っていませんが、一日数時間ネットで在宅学習し、残りは両親と共に援助活動を手伝います。彼らは仕事・社会奉仕・育児・地域活動のバランスを取ろうとしています。会社の給与は高くないけれど、時間の裁量の幅が広いために、社会奉仕や育児にも多くの時間を割けるのです。彼らはどのようなことに自分の人生を使うかを主体的に選ぼうとしています。

第7章のシュイ・リーは、ミニ起業家です。どこの会社にも勤めず、自分のビジネスをします。自分が夢中になれる対象を仕事にする人が増え、テクノロジーや社会の変化がそのようなミニ起業家を後押しします。お金を儲けることを主に据えるのではなく、自分の創造性を発揮する仕事を求めて生きる人たちです。

ここで描かれている物語は、とっぴょうしもない未来像ではなく、現在もあちこちでその萌芽が見られるようなワークスタイルですよね。『ワーク・シフト』の本の中では、2025年の生活が「どんな要因によって」そうなるのかを考えています。それを以下のような「五つの要因」としてまとめています。

 五つの要因

 ・テクノロジーの進化

 ・グローバル化の進展

 ・人口構成の変化と長寿化

 ・社会の変化

 ・エネルギー・環境問題の深刻化

そして、そのような要因が導こうとしている未来に立ち向かうために、ワークスタイルを「シフト」させる必要があるのでは、と述べます。それが以下の「三つのシフト」です。

 三つのシフト

 ・「ゼネラリスト」から「連続スペシャリスト」へのシフト

 ・「孤独な競争」から「協力して起こすイノベーション」へのシフト

 ・「大量消費」から「情熱を傾けられる経験」へのシフト

五つの要因と三つのシフトは、いってみればいずれも「どこかで聞いたことはあるなあ」という気がしますが、このように改めて並べてみて、さらに物語を通してその情景を見ると、自分の未来、子供の未来についても考えさせられます。

自分や子供は2025年の時代に……

 ・どんな道具立てを使い(テクノロジーの進化)、

 ・どこの国の人を相手にして(グローバル化の進展)、

 ・何歳くらいまで(人口構成の変化と長寿化)、

 ・どんな人たちとともに(社会の変化)、

 ・何を制約条件として(エネルギー・環境問題の深刻化)、

……働くのだろうか。

一つ一つの物語が、『ワーク・シフト』の述べる五つの要因と三つのシフトをわかりやすく描いています。『ワーク・シフト』は「未来の仕事」という内容を考えさせられる本であり、それと同時に「物語を使って実感させる」形式を考えさせられる本でもあります。

 ◆『ワーク・シフト』(Kindle版)

 ◆『ワーク・シフト』(単行本)

結城メルマガVol.036より)