唯一無二!感動接客でリピーター続出!~お家騒動を乗り越えた家電チェーンの舞台裏/ノジマ/読んで分かる「カンブリア宮殿」

一緒に商品を選んでくれる~ファン殺到の家電販売店

ライバルとは違う戦い方で注目を集める家電販売チェーンが、いま業績絶好調のノジマだ。業界6位ながら、去年、過去最高の売り上げを記録した。その理由は、他にはない熱烈ファンの存在にあるという。

家電はどこで買っても値段に大差ない。にもかかわらず、ノジマをわざわざ選んで買いに来る熱烈ファンが多い秘密は、その接客にある。

ノジマ流接客術1「メーカーへの忖度なし」

ライバル店でよく見かける家電メーカーから派遣された販売員だが、ノジマにはそうした販売員が一人もいない。接客するのは全員ノジマの従業員。だからどのメーカーにも遠慮せず、客が求めている商品を的確に提案できるという。

藤沢市の藤沢店。ドラム式洗濯機を見に来た客に店員の神山和也が声をかけた。実は同じ洗濯機でもメーカーによって力を入れているポイントが違うのだという。パナソニックなら洗いから乾燥までの早さ、東芝なら音の静かさといった具合だ。東芝「ザブーン」は音が他社の半分程度。だから早朝や夜洗濯する人にお勧めだという。

続いて紹介したのは日立の「ビッグドラム」「日立さんとかは、温風と一緒に時速300キロの風をプシューっと出すことでシワを伸ばしていく」と言う。いいことだけを言うわけではない。「洗いから乾燥まで(標準で)165分」もかかるのだそうだ。

メーカーに忖度することなく、いいも悪いも説明してくれる。そんな正直な接客を求めて、客はノジマにやってくる。

ノジマ流接客術2。「お客のベストを一緒に探す!」

加湿もできる空気清浄機を探しにきた客と会話し、「花粉対策もしたい」と聞きだすと、店員が吸い込み口の位置を説明しはじめた。裏から吸い込むタイプと、吸い込み口が前面下側に付いているタイプがある。そのうえで、「花粉は結構重たい分子で、すぐ下に落ちるので、前面から吸い込むものがより適しています」と言う。客が何を重視して使うのかを聞きだし、商品を絞り込んでいくのだ。

さらに手入れの状況を聞き、店員が勧めたのはダイキンの「ストリーマ」空気清浄機。フィルターやタンクに水垢が付きにくい特殊な工夫がされており、掃除がしやすいという。

ニーズに合ったものを一緒に探してくれるから、この客は販売員が勧めるダイキン製を買うことに決めた。客にベストな商品をとことん一緒に探す。これこそ他社がまねできないノジマの「コンサル接客」なのだ。

神奈川を中心に250店舗を展開するノジマ。相模原市の相模原本店にはコンサル接客の原点となった売り場がある。そこに並んでいたのは2000点以上のオーディオ機器。ほかの家電量販店にはないマニアックな品揃えが特徴だ。例えばドイツ製の真空管アンプ。大音量にしても耳に心地いい、艶のある音を奏でるという。値段は164万円だ。

高価なオーディオの音を実際に聞ける視聴室もある。さらに、気に入った高い商品を試すために自宅まで持ってきてくれるサービスも。もちろん買う、買わないは関係ない。

客に納得して買ってもらうためそこまでやる。このオーディオ売り場の接客法が、他社と一線を画す「コンサル接客」の原点なのだ。



客の喜びを徹底追及~驚きコンサル経営の秘密

社長の野島廣司(70)は「お客様の話を聞いてコンサルティングをして、お客様に喜ばれて、リピーターになって頂くのが、当社の基本的な考えであります」と言う。

ノジマがコンサル接客を始めたのは40年以上前。以来、量を売るのではなく、客が本当に欲しいものを売ることを大切にしてきた。

ノジマの創業は高度経済成長期の1959年。東京電力を脱サラした野島の父が母とはじめた町の電気屋さんだった。長男の野島が入社したのは73年。オイルショックで物価が高騰し、物が売れない時代だった。しかも経営方針をめぐって両親が対立。父が店を離れると、従業員も辞めていき業績は悪化。倒産寸前に陥った。

「売り上げがどんどん右肩下がりで落ちますから、運転資金も無くなるし、そういう点ではすごく悪い状態でした」(野島)

野島が家業を立て直したいと悩み続けていた頃、世は空前のオーディオブームだった。セットステレオから、気に入ったアンプやスピーカーなどを自由に組み合わせて楽しむマニアが増えていた。ブームに目を付けた野島はなけなしの金をはたいて、店の2階にオーディオ専門フロアを作った。

「お客様に喜ばれることによって口コミで増えて、毎月毎月、少しずつ伸びる、右肩上がりで伸びていきました」(野島)

そんな頃、「コンサル接客」の原点となる運命的な出会いが訪れる。「噂通りすごい品揃えだね」と野島に声をかけてきたのは、オーディオ御三家のひとつ「トリオ」を立ち上げた業界のレジェンド、春日仲一氏だった。興奮した野島が「たくさん売らせていただきます」と言うと、春日氏からは「たくさん売らなくてもいい。売るのは3ヵ月に1台でいいから、本当のオーディオファンを増やしてください」という言葉が返ってきた。

「ハッと気が付いて、量を売ることではなくて、お客様が喜んで、ファンをつくることがいいことなんだと感じました」(野島)

客が喜んで買ってくれるものを売る。これこそが商売を長く続ける本質だと確信。以来、接客を向上させてきた。そしてあらゆるジャンルの商品に精通した販売のスペシャリスト「エースコンサルタント」を育て上げた。

その1人、キャリア18年の外山典子は他とは全く違う視点で接客をしている。

「カタログを見れば機能は書いてありますが、その機能がお客様の生活をどう変えるかを話さないと、お客様の本当に10年に1回の買い物で感動は呼ばないと思います」(外山)

この日、外山が接客したのは洗濯機を買いにきた母娘。「私たちは年をとっていくので、より手間が省ける(商品)がいいな」という母親の声を聞いて外山が勧めたのは、洗濯物の量に合わせて洗剤を自動投入してくれる日立の「ビッグドラム」。タンクに洗剤がボトル1本分入るから、毎回入れなくてもいい。年配の人にはありがたいという。

さらに、普通は説明してくれない、排水口についている「糸くずフィルター」を取り出した。他社製品は日立のものと比べると長さが長い。この違いについて外山は「あたかも長い方がたくさん取れるような感じがするけど、実際には糸くずや埃が絡まるのは先端の部分だけなんです」と説明する。

単に長ければいいというわけではない。フィルターが短い方が、本体側の掃除も楽になり、年を取った人には使い勝手がいいとアドバイスした。

10年先の生活を考えて商品を提案する。これが外山の接客だ。客からの信頼は絶大で、外山に説明してもらうためにわざわざ待っている客もいるほどだ。

ノジマには外山のようなエースコンサルタントが現在71人。それぞれの店で熱烈なファンを増やし続けている。こうした独自の戦略で、ノジマは街の電気屋から年商5000億円の企業へと成長を遂げたのだ。

「単に量を売ってお金を儲けることよりも、お客様に喜ばれて初めて会社は伸びる。売り上げも僕は日本一になると思っています」(野島)



買いたい商品が見つかる~個店主義の家電チェーン

「大事なのは、「数字」ではなく客に喜ばれること」。その実現のためノジマが打ち出したのが、社員1人1人に権限を与え新しいものに挑戦させる「全員経営」だ。

2ヵ月前にオープンした埼玉・上尾市のイオンモール上尾店の店長は入社5年目の髙橋広樹。ノジマは「店長はその店の社長」という考えで、店長に大きな権限を与えている。

「今ネットで家電を買う人が増えているが、実際に届いて、思っていたものと違うとか、使ってみて違うと思うことは誰しも経験があると思う」と言う髙橋。そこで上尾店は、ネットショッピングの不満を解消し、「客が納得して買い物できる店」を目指した。

例えばマッサージ機のコーナー。髙橋はエクササイズ・マシンから肩もみ器まで、52種類もの商品を店内で試すことができるようにした。

掃除機コーナーでは、客が試してみたいというと、店員がゴミ代わりの粉をまいて、その場で試してもらう。一台一台の「吸引力」や「軽さ」を実際に比べて、納得した上で選べるようにしたのだ。

冷蔵庫まで体験できる。例えば、野菜から出るエチレンガスを分解し、鮮度を保つ機能がついた日立の「冷蔵庫HWタイプ」。その中には9日前にラップをかけずに入れたホウレンソウが。他のメーカーの冷蔵庫にも同じように入れてあるから、比べることができる。

髙橋が店長の権限で作ったのは実際に比較や体験ができる店。ネットにはないリアルな店舗の強みを生かし、オープン早々から客の支持を集めている。

一方、東京・目黒区のセレブな町にある「プライムセレクション恵比寿店」。品揃えが郊外にあるノジマとはまったく違う、ちょっとおしゃれなものばかりだ。

この店は初代店長の木村和徳が3年前に企画したいわば家電のセレクトショップ。ライバル店にはあまり置いていない、おしゃれで高機能、でもちょっとお高い商品を選りすぐった店に作り上げた。例えばキャンドルのような「グラスサウンドスピーカー」。ライトの周りのガラスが振動して、音が360度すべての方向に広がる。

木村イチ押しの商品はアメリカ生まれの「バイタミックスシリーズ」。一見よくあるミキサーだが、「リンゴとかレモンも半分に切って、種を取らなくてもスムージーにできるので、食物繊維をたくさん取ることができる」という。「バイタミックスPRO750」には、食材を混ぜる時に出る摩擦熱で温かいスープも作れるという機能もついている。

その地域のお客が喜ぶ店づくりを目指す店長たちの挑戦。それがライバルと差別化されたノジマを作り上げているのだ。



母と弟によるクーデター~前代未聞!お家騒動の真相

若き日の野島は人の意見は聞かず独断専行、ワンマン経営者の典型だった。しかも、母親が社長とはいえ単なる課長の身分だった。当時から勤めている営業開発部の入江裕一は、「ほぼ全てのこと、商品の仕入れ、店舗開発、経理まで、全て野島さんがメインでやっていました」と、振り返る。

そんな猛烈な働きぶりで、倒産寸前の会社を年商100億円を超えるまでに急成長させた。だが1991年、野島に思いもよらない出来事がふりかかる。

それは取引先を集めた経営方針発表会の場だった。社長である母と弟が結託し、突如、組織の改編を発表。弟が会社の全部門を掌握し、野島から経営の実権を奪ったのだ。

「もう本当にびっくりしました。やはり私に権力が集中しすぎて、母親も弟も気分的にも決して心地いいものではなかったのかなと」(野島)

さらにショックだったのは、自分を信頼していると信じてきた古参の社員まで反旗を翻し、母と弟の側についたのだ。

「(私が)いなくても大丈夫だという気持ちがみんなにあって、非常に寂しい気持ちでした」(野島)

野島はスタジオで当時のことを、「それまで社員は私の指示を聞いてくれて、トップダウンで会社は伸びてきたわけですが、社員との間に考え方の差がずいぶんあったんだなと。自分が悪かったんだと思うようになりました」と語っている。

反省はしたものの、権限を奪われた野島は、会社にも行かず、数ヵ月の間、自宅に引きこもる。すると、野島がいない会社の業績はみるみる悪化していった。店長会議で「もう一度やってほしい」という話になり、野島の自宅に迎えが来たという。



JAL、ANAの社員が活躍~雇用を守るノジマの秘策

コロナ禍の中で去年、ノジマが打ち出したのが「従業員シェア」。長引く欠航で業績不振となった日本航空や全日空の従業員、最大300人を、ノジマが一時的に、出向として受け入れると発表したのだ。

「従業員シェア」はこれまで製造業では時々見られたが、サービス業で、しかもこれほど大規模なのはほとんど例がない。

「今までも、内定採用を取り消しされた人を採用したり、できる限り社会に貢献しようと受け入れさせていただきました」(野島)

出向者はすでにさまざまなノジマで働いている。調布市の調布パルコ店で接客に当たるのは、JALから出向してきた岩﨑美由樹さん。猛勉強して家電の知識も身につけ、いまではお客から「接客の素晴しさに感激いたしました」という手紙をもらうまでになった。

思わぬ形で訪れた変化を、岩﨑さんは前向きにとらえている。

「この変化をチャンスに変えていければ、いつか戻った時に、この経験をグランドスタッフの職場に生かしていければなと思います」



~村上龍の編集後記~

ノジマを象徴するのが、小さな電器店の中に生まれたオーディオ売り場だ。買ってもらいたいものは何か、考え抜いた。答は、自身もマニアだった高級な単品コンポだった。当時のオーディオブームで御三家と言われた一人が来店して、「張りきって売らせていただきます」と頭を下げたら、「そんなことはいい、3ヵ月に1台でもいい、本当のファンになってくれる客を増やしてほしい」。身体に電気が走った。量を追いかけない、納得して買ってくれる客にいいものを売る、ノジマの原点になった。そんな物語を持つ電器店は他にない。

<出演者略歴>

野島廣司(のじま・ひろし)1951年、神奈川県生まれ。1973年、中央大学卒業後、野島電気商会(現ノジマ)入社。1994年、社長就任。

(2021年2月18日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)