賃金の伸びはウソだった──厚生労働省が毎月調べている「勤労統計」が、実際は低い数字なのに高く公表されていることがわかった。最近、政府の統計調査に誤りが目立っているが、事もあろうに働く人の賃金が実際より高い数字に公表され、あたかも景気は順調に推移しているかのような印象を国民に与えていたのだ。
毎月発表する厚労省の勤労統計は従業員500人以上の全事業所が調査対象となっているが、東京都部分については04年から勝手に3分の1しか行なっていなかった。
この結果、例えば18年6月の名目賃金の伸び率は3.3%増で21年5カ月ぶりの高い伸びになったと報告された。安倍政権は賃金アップを訴える〝官製春闘〟を働きかけていたが、伸び率の大きさに疑問を持たれ再集計したところ2.8%増だった。また4月は発表した0.6%増がギリギリの0.2%増しかないことなどもわかった。大企業の賃金は高めに出るので操作したのではないかとみられ、外部有識者による特別監察委員会が再調査を行なったのだ。ただ04~11年のデータは廃棄されていたし、再調査も僅か1週間だった。
根本厚労相は「組織的な隠蔽はない」と釈明したが、過少給付となっている雇用保険や労災保険などの対象者は延べ2000万人で過少分は564億円だったとし、3月にも適正な給付を始めると約束した。一方、政府が特に重要と位置づける56の基幹統計を総務省が点検した結果、約半数の22統計に31件の不適切な間違いなどがあることもわかった。
さらに厚労省は客観的な検証のため特別監察委員会を設置したと述べていたが、37人の聞き取りのうち17人分は身内の厚労省が担っていた。有識者が担当したのは局長・課長級の20人だけだったことも判明した。いかに杜撰な特別監察委員会だったか、ということだ。
安倍政権になってから財務省の森友文書の改ざんと撤去費そそのかし、文科省の加計学園関連の省内メール隠蔽、防衛省の自衛隊イラク・南スーダン派遣隊の日報隠蔽、厚労省の裁量労働制の調査票隠蔽、内閣の加計・日報問題、福田淳一財務次官のセクハラ疑惑、各省庁における障害者雇用の水増し発覚──等々、中央官庁の不祥事は後を絶たない。
今回の厚労省の統計の不正調査問題は、国民生活に関わる統計でテーマとしては地味ながら、政府統計の信頼性に関わるうえ、国民一人一人の保険の支給額に関係するなど不利益になるケースも多いのだ。結局、再調査することになったが当然だろう。
政府統計のあり方を根本から見直すべきだ。
【財界 2019年3月12日号 第490回】
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子どもの頃から科学が好きで理系大学を卒業後、新聞記者になった意外な理由や、記者の仕事について、最近の科学界について感じることなどにつきお伺いする予定です。
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