「マグロな彼」 石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』Vol.032

石田衣良ブックトーク

『小説家と過ごす日曜日』

2016年10月28日 Vol.32

【ごあいさつ】



本を書くのが作家の本業だけど、もっとライブに新しい発信はできないか?

世界は日々動いているのに、一冊の本をつくるまで2年はかかってしまいます。

このメルマガは、ぼくが考えたこと、感じたことをありのままに伝える新しいメディアです。

この国の本の世界をすこしでも変える第一歩になれば、最高にうれしいです。

感想、反発、いい素材、どしどしメールしてください。

明日は誰にもわからない、それなら笑っていきましょう。 石田衣良



今週の目次

00 PICK UP「マグロな彼」

01 ショートショート「音楽が始まるまえに」

02 イラとマコトのダブルA面エッセイ〈32〉

03 “しくじり美女”たちのためになる夜話

04 IRA'S ワイドショーたっぷりコメンテーター

05 恋と仕事と社会のQ&A

06 IRA'S ブックレビュー

07 編集後記



00 PICK UP「マグロな彼」

最近こういう男性が増えているみたいです。

マグロとかクラゲのまま、一生生きるっていう手もあるけど、もうちょっとがんばってほしいよね。

▼Q▼

私の彼は30代なのに女性経験が少なく、エッチのときはいつもマグロです。ホテルでは、前戯もろくにせず仰向けになっているだけ。最初はこちらが奉仕していましたが、だんだん面倒くさくなってきました。ビンタして「下手くそ!」とか「マグロ!」とか罵声を浴びせたいくらいですが、彼がショックでEDになりそうなので、実行に移せません。

【A】

ははは(笑)。いや、その彼、ちょっと風俗経験が長すぎるんじゃないですかね。基本的にああいうお店は至れり尽くせりなので、全てサービスしてくれますから。

でも実際にエッチって2人で作り上げるものだよね。急にビンタするのは厳しいので、お酒を飲んだときに、「たまには役を交代して、いろいろ試してみようよ。あなたのエッチもすてきだけど、ちょっとマンネリ化してきたと思うんだ」みたいなこと言えばいいじゃない。「じゃあぼくががんばる」って話にならないかな。あるいは逆に、マグロの顔に馬乗りになるとかどう? マグロだけに、こちらから沖締めにしちゃうとか(笑)。

でも、そういう悪い傾向はあるよね。男性の草食化と同時に、セックス自体の淡泊化も進んでいるじゃないですか。AVだったり風俗だったりの悪い影響で男の人が能動的に動かない。「相手がいま何を感じているのか」っていう、セックスの最中に大切な想像力や感受性を働かせる力が衰えているって感じますね。

そういう部分って、実はセックスだけじゃなくて仕事でもすごく大事じゃないですか。彼自身の今後の人生を考えた上でも、マグロを脱した方がいいっていうのを教えてあげるべきなんじゃないかな。お酒でも入れて、きちんと話をした方がいいと思います。



01 ショートショート

このところ再びオーディオがブームなのだとか。

先日もぼくの仕事部屋にテレビの取材がやってきた。

こんなにおおきな機械が音楽を聴くために必要なんですか。

そういう点にまず疑問があるらしい。

そこで今回は中学生から始まるぼくのオーディオ遍歴をここに書き残しておきたい。

いや、音楽もオーディオもなかなか素晴らしいものです。

みんなもデスクにのるようなちいさなコンポから始めてみては、いかが。

たのしい音楽とオーディオの泥沼が待っていますよ。



音楽が始まるまえに    石田衣良

今は遥か昔、もう紀元前にさえ感じる70年代初頭、ぼくは音楽を発見した。

もちろんそれまでにも音楽の授業やテレビの歌謡ショーなんかで、音楽を耳にしたことはあった。けれど、自分からすすんで聴くということはなかったのだ。

東京下町の区立中学2年生のクラスで、なぜか欧米のポップスが流行り始めたのである。当時はまだ日本のロックは存在しないに等しかった。人気はカーペンターズやエルトン・ジョンで、歌謡曲にはないリズムやハーモニーがとにかく新鮮だった。

そのころはスピーカー一発のトランジスタラジオで、飽きることなく「全米TOP40」を聴いていたものだ。ノートに毎週ヒットチャートを記録し、それがどんどん分厚くなっていく。目を閉じるとDJのケーシー・ケイスンの声が浮かぶなあ。チャートのなかでも、激しいロックや黒人音楽が好きなんだなあと、ぼくは気づき始めていた。

クラスのなかでは、ポップスの流行と同時にラジカセブームが起きていた。誰がどのメーカーのラジカセをもっているか、仲のいい男子はみなしっていたものだ。ぼくが父に買ってもらったのは、今でも覚えているサンヨーのREC8000というモノラルモデル。このラジカセが生涯続くことになるオーディオ趣味のスタートの一台だったのである。



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