JR東日本第2弾!客に愛され、地域に愛されるポッポ屋へ!/読んで分かる「カンブリア宮殿」



強みは地域との信頼関係~JR東日本の観光列車

青森から岩手の海沿い、JR八戸線を走る白い列車。「東北エモーション」というレストラン列車だ。

車内に腕利きのシェフが乗り込み、その場で作りたての料理をふるまってくれる。その味わいは本格派。この日は岩手で育てられた「ホロホロ鳥のモモ肉」。とろけるような柔らかさが客をうならせていた。2時間、様々な料理を楽しめるコースのランチが付いて7900円(運賃を含む)。お値打ち感も人気の理由だ。

さらに客を魅了するのは、突如現れた、旗を振り列車を出迎える大勢の人たち。週に4回、「東北エモーション」が通るたびに大漁旗を振っているのは地元の人たちだ。ボランティアとして集まってくるのは、「津波で被害を受けたので、鉄道が廃止になると思っていた。JRに対する感謝の気持ち」(地元の漁師)からだという。

JR東日本は、そんな存続の危機にあったローカル線を人気路線に変えるべく、20もの観光列車を走らせてきた。

新潟の田んぼを走るのは「越乃シュクラ」。のどかな景色を眺めながら、地元の酒が味わえる。酒どころを走る日本酒列車なのだ。地元の味わいの食事に大吟醸までついて、総額7600円(料金はコース、季節によって変わる。運賃を含む)だ。

一方、一度は乗ってみたい寝台列車がJR東日本が誇る「四季島」だ。食材は、旅で回る地域に徹底的にこだわったものばかり。料金は1泊2日で1人32万円~。

JR東日本の観光列車には原点とも言える存在がある。それが1997年、秋田~青森間の五能線で運行を開始した「リゾートしらかみ」だ。当時、五能線は廃止が囁かれていた。ところが今、「リゾートしらかみ」の停車駅はにぎわっており、ローカル線ランキング1位(楽天トラベル調べ)に選ばれ、日本で一番人気のローカル線となった。

「リゾートしらかみ」の最大の魅力は、海岸線ギリギリを走る五能線の絶景だ。だが、感動はそれだけではない。途中で乗り込んで来た2人組によって始まった津軽三味線に、客は思わず身を乗り出す。この土地ならではのサプライズ。飛び入りの演奏者たちは地元の人だ。そのひとり、佐々木賢一さんは「『これが楽しみで乗った』というお客さんもいるんです。そのひと言でテンションがバンバン上がる」と笑った。

次に乗り込んできたおばさんたちも地元から。津軽弁で昔話を披露する。

JR東日本は、こんな地元との楽しいタッグで客を増やしてきた。五能線を復活させるためのJR東日本と地元との連携は、すでに20年になる。その信頼関係こそが最大の強みだ。鶴田町企画観光課の佐藤一人さんは、「スクラムを組んで取り組んできたことが今に続いている。ありがたいと思っています」と言う。



駅ナカを稼げる場所に~女性目線で駅を変える戦い

客の心をつかむため、常識にとらわれず戦ってきたJR東日本。その結果の成長は、驚くべきものだ。現在、JR東日本が1年間に運ぶ乗客は64億人。これは世界最大の数字だ。民営化後30年で、ついに年商は3兆円に迫った。

立役者のJR東日本会長・冨田哲郎は、「国鉄時代の最後の10年で、国鉄に対する信頼は地に落ちたと思います。それを回復させるのが“鉄道の再生”。お客様目線で、使いやすい駅を作っていく」と言う。

冨田が女性たちと行ったのが、国鉄時代、男性客で溢れかえっていた駅構内を一変させた駅ナカの改革だ。

例えば今、立川駅の改札内を見てみると、ホームのすぐ脇には乗り換え客が手早く立ち寄れるデパ地下顔負けの総菜売り場が広がっている。その向かいで行列ができているのは「ラ・ブランジュリ・キィニョン」。おいしいと評判の地元の焼きたてベーカリーだ。改札内は、女性に嬉しい店ばかりになっている。

この駅ナカは、その上のフロアも女性客をつかむ店がひしめきあっている。例えば本と雑貨のおしゃれなセレクトショップ「ペーパーウォール」。ここで売られているアロマは、立川駅構内のトイレで実際に使われている香りだという。

改札内に革命を起こした、この駅ナカこそ、JR東日本の「エキュート」だ。その店作りのコンセプトは、まさに駅の常識を変えるものだった。

「『エキュート』の歴史をさかのぼると、立ち食いそばなど男性がメインで使っていた。もっと女性の方に、明るく華やかなイメージでくつろいでいただきたいという思いで作られました」(エキュート立川・伊藤由衣)

2005年に駅ナカのブランドとして発足した「エキュート」。女性をトップに据えたプロジェクトとして始まった。当時のJR東日本ステーションリテイリング社長・鎌田由美子は「『この程度でいい』と思った時点で、改革はできないし、新しい道は開けない」と語っている。それは、駅を女性目線の場所に変える戦いだった。

それから13年、「エキュート」の女性社員の格闘は続いている。

スイーツ担当のエキュート立川・小谷舞子は、探し出した新たなショップをエキュートに加えた。黒糖スイーツの「黒糖DOKORO九六一八」だ。「基本的に若い女性がターゲットになっているのですが、シニア層の方にも買っていただきやすいと思って」と言う。

さらに最近、女性目線で力を入れているのが、小分けした袋で販売する商品だという。

「孤食で食べられるものや、自分へのご褒美として買いやすい値段の商品を提案していただくことも多いです」(小谷)

駅ナカを稼げる場所に変えたのは、女性たちによる店作りだったのだ。

「自分がこの仕事でなかったとしても、『立川に住んでいて良かった』と思えるような駅にしたいです」(小谷)



悲しい事故を忘れない~5年で1兆円の安全対策

山手線の終電が終わる頃、JR東日本の重要な仕事が始まる。毎日の保守点検だ。

東京駅の近くであるチームが始めたのは、レールを動かすポイントが日中の走行で微妙にずれていないか、糸を張ってミリ単位での計測。一方、走ってきた特殊な車両が始めたのは架線の点検だ。どれも異常を見落せば大惨事につながるシビアな作業である。

さらに大勢の作業員が格闘していたのは、傷んだレールの交換だ。レールの移動は人力。高温で2本のレールを溶接し、凹凸が出ないように丁寧に仕上げていく。

JR東日本管内では深夜、想像できないような数の人員が鉄道の安全を守り続けている。

一方、運転士たちの詰所に置かれていたのは最新鋭の運転シミュレータ。電車運転ゲームのようなものかと思いきや、突然警報音が鳴った。運転士はすぐに電車を停車させる。画面を見てみると、目前の踏切を車が渡っていた。千鳥足の酔っ払いがホームにいるような場面もある。

これは「トラブルを体験するための」シミュレータ。JR東日本は、実写にCGを合成した圧倒的にリアルなこのシミュレータを、勤務の合間にいつでも訓練ができるよう、管内すべての詰所へ設置する予定だという。

安全運行のための最新技術は山手線の車両にも設置されている。特別に見せてくれたのは、車両の下に取り付けられた箱型の「線路設備モニタリング装置」だった。すぐ下のレールをよく見ると、なにやら赤い光が見える。

「この装置からレーザーが4本出ていて、走りながら線路のゆがみを測定します」(設備部・嘉嶋崇志)

さらに奥には特殊なカメラも搭載。画像解析で線路の異常を自動的に検出するという。従来、目視で確認していたレールの保守点検が、営業運転をしながらできてしまうのだ。

「山手線ですと、1日に10~20周するので、1日で高頻度のデータが取れることになる。まさに技術革新のひとつだと思います」(嘉嶋)

2014年からの5年間で、JR東日本が安全のためにかける資金は1兆円。列車の安全運行に執念を燃やし、自ら現場に足を運んできた冨田が掲げるのは「究極の安全」だ。

「鉄道会社の最優先課題は“安全”。安全にはゴールがないんです。見えないリスクはたくさんあり、そこに落とし穴がある。安全は“守るもの”ではなく、“作るもの”だと、いつも社員の皆さんに話しています」(冨田)

その背景には、冨田が対峙してきた様々な事故の記憶があった。2005年に山形羽越本線で起きたのは、吹雪で車両が脱線した痛ましい死亡事故。2015年には山手線でラッシュアワーの直前に電化柱が倒壊、危うく大惨事となるところだった。

冨田は二度と同じ事故を繰り返さないよう、究極の安全を目指し、投資を続けてきた。

そんな冨田の肝入りで、社員のために作られた施設がある。福島県白河市にある「JR東日本車両保存館」。館内に展示されているのは様々な事故で破壊された実際の車両だ。

東日本大震災の被災車両や、2004年の中越地震で脱線した上越新幹線の実物。モニターからは、震災で津波を体験した車掌の生々しい証言も流れている。

訪れた社員からは「私がこの場面に直面したら、どういうことができるのか。いつも考えながら仕事をしなければならないと感じました」といった感想が聞かれた。

一歩でも究極の安全に近づくために、悲しい事故を胸に刻み続けるのだ。

一方で、様々な事故から学び、磨き上げた安全な運行システムは、JR東日本の海外展開の強力な武器になっている。2017年、イギリス・ウェストミッドランズ鉄道の運営権を取得したJR東日本は、日本の鉄道会社としてはじめて、海外での鉄道運営に乗り出した。中国と競って勝ち取ったインド高速鉄道(2023年開業予定)の運行システムの受注も、JR東日本の安全技術が評価されたからだ。



駅弁を本気で海外へ~JR東日本の新たな挑戦

千葉県のJR新習志野駅にとんでもない列車がやってきた。一見、ありきたりの車両に見えるが、行き先が「ジャカルタ」となっている。「日本の中古車両で、これから海を渡るんです」と、見物に来た鉄道ファンが教えてくれた。

インドネシアの首都、人口1000万人のジャカルタ。コタ駅のホームに入ってきた色鮮やかな列車は、JR東日本の武蔵野線で使われてきた中古車両だ。JR東日本は、使わなくなった車両を活用してもらおうと、現地の鉄道会社に格安で販売してきた。その数476両。この鉄道会社の車両は実に6割がJR東日本のものだという。

車両を輸出しているだけではない。地元のマンガライ車両基地を覗いてみると、最新鋭の機器を導入した高度なメンテナンス技術を、JR東日本の社員がつきっきりで指導していた。今までまともに車両整備してこなかったこの鉄道会社では、これによって飛躍的に列車が長持ちするようになったという。安全技術の輸出だ。

JR東日本はさらに驚くべきものを輸出しようとしている。

ロンドンで開かれていたのは日本の様々な文化を伝えるイベント。そこに客が殺到するブースがあった。圧倒的な集客を見せていたのはJR東日本の「EKIBEN」だった。駅弁が飛ぶように売れていく。

「今まで駅弁販売は台湾とフランスで行ってきました。イギリスは初めてですが、鉄道文化がしっかりある国で販売したく、チャレンジしました」(ロンドン事務所・名川進)

JR東日本は本気で駅弁の海外進出に打って出ようとしている。実際に去年、駅でテスト販売をしてみたフランスでは、すでにそのおいしさが知られ、話題となった。

「エキベンジャポン」という試食イベントでは、東北の駅弁メーカーが出来たてを提供していた。「この機会に岩手県の弁当をフランスの方々に紹介しようと思って頑張っています」と、斎藤松月堂の熊谷昭宏さん。会場にはフランス国鉄の関係者の姿もあった。ドミニク・トラミニさんは「フランスには駅弁のような食事が今までなかった。フランスで作るのもいいかもしれない」と言う。

一方、おなじみの「キオスク」でも、今までにないチャレンジが始まっている。

JR東日本は今、キオスク改革の真っ只中だ。JR日暮里駅の「キオスク」。かつて店の前を占めた新聞や雑誌は隅に置かれ、代わりに主役となったのは、高級おにぎりや、他にない「ボンカレーおにぎり」、さらに、岡山で発見したおいしい「生クリームパン」などという商品もある。女性の心をつかむべく、必死で挑んでいた。



~村上龍の編集後記~

東日本大震災、営業中の新幹線は一両も脱線しなかった。驚くべき技術だと思った。だが、そんな技術が一朝一夕に生まれるわけがない。

JR東日本は88年の事故を深刻に受け止め、翌年から5年間で4000億円の安全投資を計画し、高機能な自動列車停止装置の設置工事を、前倒しして実施した。「安全」には、時間もコストもかかる。

取材で尾久車両センターを訪れ、久しぶりに間近で「線路」を見た。まさに「鉄路」だった。旧国鉄は、非効率の代名詞と化したが、培われた「鉄道マン魂」は、受け継がれ、進化し続けている。

<出演者略歴>

冨田哲郎(とみた・てつろう)1951年、東京都生まれ。1974年、東京大学卒業後、国鉄に入社。1987年、国鉄分割民営化、JR東日本入社。2012年、代表取締役社長に就任。2018年、取締役会長に就任。

(2018年10月25日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)