「応援購入」でヒット連発!話題のマクアケ~もっと日本からワクワク商品を生み出せ!/読んで分かる「カンブリア宮殿」

新商品を最速で買える~魅惑&絶品だらけの異色サイト

人気急上昇中の通販サイト、マクアケ。常時掲載するのはおよそ1000点の商品。どれも他ではちょっと見ない、思わず欲しくなるものばかりだ。

例えば切子細工が空中に浮いたような美しいグラス「Fuwan-浮碗」(1万3200円/2個セット)。熱いものを入れても持つことができる優れものだ。他では買えないこだわりの熟成赤身肉ジンギスカン「あびじん」(3000円(250g×3パック)~)は北海道産の羊肉から脂や筋を丁寧に取り除いた、ほぼ赤身だけという贅沢な味わいだ。

これまで総額で90万円ぐらい購入してきたという東京・杉並区の安藤顕司さんはその魅力を「マクアケでなければ生まれてない商品がたくさんある。「一般販売前」に手に入るものもあるので」という。

マクアケでは商品を買うことを「応援購入」という。普通の「購入」と違うのは、マクアケで扱うほとんどの商品が、新たな商品を世に問うための試験販売だからなのだ。

その仕組みは、まずメーカーが売ってみたい商品の企画を試作段階でマクアケに掲載。期限を切り、購入したい人を募集する。そして「いい商品だから応援したい」と感じた人が先に代金を払うことで、メーカーは製造資金を確保。実際に商品を作るという仕組みだ。

これなら在庫のリスクはゼロ。マクアケには売り上げの20%を支払う。そんな試験的商品の販売サイトだから、ユニークな商品がたくさん掲載されているのだ。

マクアケの力に驚かされたのが、大阪・松原市にある社員18人の「村岸産業」。創業90年の化粧筆を作るメーカーだ。安い海外製に市場を奪われていく中、熊野筆の技術で今までにない商品を作りマクアケに打って出た。それが化粧筆の作り方で作ったボディーブラシ。0.1ミリの極細の毛を15万本と贅沢に使用。細かい泡立ちで洗い心地も抜群だ。

この「ロタンダ」(1万6500円/ロングタイプ)を去年、マクアケで試しに売ったところ、「4700万円いった、みんなびっくりです」(村岸直子社長)。

そんな成功はマクアケでは当たり前にある。先述のジンギスカンに集まった金額が148万円なら、切子のグラスは目標の25倍、1200万円以上を集めた。

「村岸産業」も第2弾を準備していた。「今度は顔に特化した洗顔筆です、柔らかいが毛穴の中までしっかりきれいに汚れが落ちます」(村岸社長)。まるでホイップクリームのようなきめ細かい泡が作れてしまう。この洗顔筆「ボリューム」(4785円~)をマクアケに掲載すると、開始わずか15分で目標の50万円を突破。その後も応援購入が続き、たった1時間で124万円に達していた。

「会社の中が幸せになる。マクアケがあって良かった、感謝です」(村岸社長)



応援するから買う~中小企業からヒット続々の秘密

設立8年で取引総額250億円を超えたマクアケの本社は東京・渋谷にある。ほとんどの社員が応援購入のグッズを使っていた。

「直接付き合っているメーカーなので、製品に対する思いやストーリーを聞くと応援したくなっちゃうんです」というのは社長の中山亮太郎(38)。作りたいのは、チャレンジしたいメーカーと消費者とをつなぐ今までにない買い物体験の場だという。

「わくわくしたり、趣味や嗜好を豊かにしていく。これからの時代をつくるインフラになっていくことを目指しています」(中山)

初めて商品を掲載しようと準備するメーカーを訪ねた。滋賀・米原市にある創業30年の「ナンガ」。防寒性能の高いアパレル製品などを手がけている。こだわり抜いた何種類もの羽毛を使い分ける高度な技術力で、エベレストなどに挑む登山家にも愛用されている。

「ナンガ」が今回マクアケで挑戦するのは寝袋。ユニークな工夫が詰まっている。まず、広げれば正方形になり毛布のように使うことができる。さらに羽毛の位置を変えられるように縫製、温度の調整ができるようにした。

「温度と体感で調整できるのはメリットがあると思います」(横田智之社長)

自由に形状を変えることができ、さまざまな用途に使える寝袋なのだ。

「ナンガ」と二人三脚でヒットを支えるマクアケのキュレーター・松岡宏治。すでに3ヵ月、どんな商品ならより客の心をつかむのか、さまざまなアドバイスを行ってきた。その技術力や商品のストーリーをサイトに表現するため、キュレーターと呼ばれる担当者が徹底的に指導を行うのだ。「ナンガ」のスタッフと話し合いながら、マクアケのサイトに商品の魅力を伝えるさまざまな情報が書き込まれていく。

マクアケを利用する会社の9割は中小企業。商品を売るノウハウが少ない中小企業をマクアケのキュレーターが丁寧にサポートすることでヒットを生み出すのだ。

三重・四日市市の加工メーカー「中村製作所」が開発中なのはユニークな機能を持つ調理器具。「ぴったりくっつく密封性もありながら器でもあり調理器にもなる」という。実際に調理をしての試食会にはキュレーターの武田康平も参加して、商品づくりに寄り添っていた。

「開発から売るための仕組みまで、ありとあらゆる相談に乗ってもらえる。新しい風を起こせます」(山添卓也社長)

この日、「ナンガ」の寝袋がマクアケに掲載された。応援購入の目標金額は50万円に設定した。公開すると1分とたたないうちに応援購入の総額が56万円に。そして30分後には400万円を超えていた。

そんなマクアケで発表される商品は急拡大、ついに累計1万1000件を突破した。



iPhoneを日本から~倒産危機からものづくり革命へ

コロナ禍の銀座を歩くのはマクアケのキュレーター部門トップ、坊垣佳奈。坊垣は今、外食の危機に挑んでいる。やってきたのは人気の寿司店「銀座鮨はっこく」。坊垣が仕掛けたのは「マクアケ限定はっこくランチ」(会員制1万円~)だ。絶品のネタで味わうランチを新商品としてマクアケに掲載してみた。すると応援購入で270万円分が売り切れた。

「やって良かった。本当にありがたいと思います」(大将・佐藤博之さん)

新たな挑戦に坊垣も手応えを感じていた。

「マクアケを使ってもらいやすくする工夫をもっとしていきたいです」(坊垣)

坊垣は中山、木内文昭とともにマクアケを立ち上げた3人の共同創業者の一人。創業以来、絶妙のコンビネーションで協力し合いビジネスを拡大してきた。その坊垣は中山について、「いい意味で“天然”なところがあります。私も木内も現場を見ているので、どちらかというと現場積み上げのほうが思考として強くなる。経営のバランス的に、社長が少し“飛んで”くれているくらいの方が、ホームランの時があります」と言う。

しかし、中山にとって、マクアケ成功への道のりは驚くほど厳しいものだった。

中山は1982年生まれ。就職先に選んだのは当時ネット業界で拡大していた、サイバーエージェントだった。様々な事業を経験した入社8年目のある日、中山に大役が巡ってくる。当時流行り始めていたクラウドファンディングを新たな事業として立ち上げることになり、社長の藤田晋からそのトップに指名されたのだ。

「元々の発想がCSRのような位置付けだったので、中山は結構理想が高く“夢見がち”な感じがしたので、クラウドファンディングに向いているかなと。理想を夢見ているタイプ。“お花畑”みたいと言いたくなるくらい楽観的に見えた」(藤田)

中山は実際に大きなビジョンを描く。ネットで資金を集めるクラウドファンディングを日本メーカーの商品作りに役立てないかというものだった。

「なぜiPhoneのようなヒット製品が日本から出てこないのだろう。日本はこのまま右肩下がりになるのではないかという危機感を感じていました」(中山)

その危機感の裏には、以前赴任したベトナムでの子会社時代の光景があった。街角で見かけたのは中国や韓国製の家電製品ばかり。日本のものはなかった。「日本製は高いからか」と思っていたが、後日、驚くべき事実を知る。現地で知り合った若者が10万円もするiPhoneを買っていたのだ。「月給の3倍したけど、どうしても欲しくて親に借金して買った」と言う若者を見て、「日本は本当に魅力的な商品を生み出せていないんだ」と思った。

マクアケを立ち上げた中山は早速、商品作りに資金の足りないメーカーを訪ねて回る。だが、400社を回ったが、全滅だった。経営は危機的状態に陥った。

「10ヵ月ぐらいで黒字になるだろうという見立ては大きく外れ、資金が会社からどんどんなくなっていきました」(中山)

大逆転のきっかけが、ようやく見つけた参加企業、新興時計ブランド「Knot」。当時、ユニークな新商品の案をマクアケに掲載した遠藤弘満社長の「お客様に発売前に直接問いかけることができる。商品の生産に入る前にできることにものすごくメリットを感じました」という反応だった。

これで中山は気づく、マクアケは資金集めの場ではなく、メーカーと消費者を結びつける今までにない場。そんな中で考え出したのが「応援購入」という言葉だったのだ。

日本のものづくりを元気にしたい。そんな中山の思いは実現し始めている。

和歌山市のベンチャー企業「グラフィット」。「いろいろなご意見をマクアケのユーザーにもらって、それを元にたくさん改良しました」と語る社長の鳴海禎造さんは2017年5月、自転車のようにも使える電動バイクを考案。マクアケに掲載した。

「1億3000万円が集まり自分たちもびっくりしました」(鳴海さん)

その資金で念願の会社を設立。今や社員を15人抱えるまでに成長した。

「あの時の成功がなかったら会社は設立できていませんでした」(鳴海さん)

大ヒットした電動バイクはその後、全国の量販店などで販売を開始。すでに4000台が売れている。



キヤノン、ミズノ…巨大メーカーを裏で支える

マクアケがヒット商品づくりを支えるのは中小企業だけではない。

この日、マクアケのR&Dプロデユーサー・北原成憲が向かったのは、年商3兆円を超える巨大メーカー・キヤノン。360度撮影できる小さなカメラ「PowerShotPICK」をマクアケで発表する準備を進めていた。動く被写体でもカメラが自動的に追尾し撮影してくれる。置いておくだけで勝手にカメラが動き、いい構図となった瞬間に撮影することができるのだ。

キヤノンはすでにマクアケで幾つかの新商品を販売している。録画できる望遠鏡型カメラ「PowerShotZOOM」は、およそ1000台が一気に完売した。

大企業のキャノンがマクアケを使って商品を出す理由は、確実に売れるものしか商品化に至らないその体制にあるという。

「いいアイデアがたくさん出てくる中で、残っていくアイデア、商品ができるものは一握り。マクアケでテストマーケティングを行った方が商品化のハードルが下がります」(キヤノンマーケティングジャパン・駒井裕士さん)

今やマクアケの応援購入の仕組みが大企業の商品戦略を支えているのだ。

別の日、北原がリモートでミーティングしていたのはスポーツメーカー・ミズノの研究者たち。ミズノは培ってきたカーボン技術を別の商品づくりに活かせないか、マクアケに相談しているのだ。この日はカーボンを編み上げる極秘の技術について意見交換した。

ミズノには商品化されず眠る技術が膨大にある。

「なかなか持っている技術で商品を提案してものにするのは、今までできていなかった。マクアケさんと一緒に取り組みができるのは非常にやりがいがあります」(ミズノテクニクス・近藤慎さん)

マクアケは大企業の研究部門にまで入り込み、商品作りを支えている。

「研究開発技術がもっと世に出ることで世の中は豊かになる。前例のない商品や世の中にない価値を生み出していけるのではないかと思います」(北原)



ヒット商品で地方を元気に~消費低迷に挑むサイト

マクアケの坊垣がやってきたのは東京駅の百貨店「大丸」。苦境に立つ百貨店と組んでマクアケのサイト上で「催事」を開くという。特設サイトを作り、販売するのは、全国の菓子メーカーから集めた自慢の味わいの数々だ。

「マクアケのサイトでより多くのお客に新商品を知ってもらいたい」(大丸松坂屋百貨店・小林伸之さん)

この日は、福井県の海鮮煎餅メーカー「タキダエンタープライズ」の滝田真也社長が販売開始に立ち会った。出品するのはホタルイカ丸ごとの煎餅「煎餅食べ比べセット」(2375円~)だ。公開するとあっという間に応援購入が集まり始めた。

このマクアケパワーで今、地方に大きな変化が起きている。

マクアケのキュレーター・松岡が訪ねたのは、大阪が地盤の池田泉州銀行。マクアケは今、地銀と手を組み、地域の中小企業のマクアケデビューを後押ししている。地銀の情報網を駆使し、マクアケで商品を売れば元気になりそうな会社を発掘しているのだ。前述した熊野筆のボディーブラシの村岸産業もこの地銀からの紹介だった。

「お客の本業の支援と地域の活性化につながるので、非常に意義のあることだと考えています」(池田泉州銀行・谷川雄紀さん)

マクアケは全国100社を超える地銀と提携。既に900を超える商品が地方から巣立っている。



~村上龍の編集後記~

他のクラウドファンディングは個人の活動支援が主だが、Makuakeは産業支援から出発しているので考え方が違う。サイトの運営も違う。ただしお金集めというイメージが浸透していたのも事実で、それを塗り替えるには努力が必要だった。あえて言えば「テストマーケティング」を実行できる会社だ。そんな会社がこれまで存在したのか、寡聞にして知らない。「何かを生みだすのに一社で完結する時代はもはや終わった」。中山さんの言葉だ。ただし重要なのは、その製品を生みだす熱意だそうだ。その部分は永遠に不変なのだろう。

<出演者略歴>

中山亮太郎(なかやま・りょうたろう)1982年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。2006年、サイバーエージェント入社。2013年、マクアケ設立。

(2021年1月28日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)