完成度高すぎな宮迫さん釈明で見えた問題

雨上がり宮迫さんの不倫スクープに、ご本人がレギュラー出演の番組「バイキング」で公開釈明をしました。私はライバル局のワイドショーに出演し、他局番組を見ながらコメントするというスリリングな経験をしましたが、結果はどうだったでしょうか?番組放映時系列で見てみましょう。

1.放映前。どうなる?番組、何を言う?宮迫

これまでも謝罪のプロとして(自分で名乗ったことは一度もないです。謝罪代行業ではなく、コミュニケーション専門家ですので)数々のコメントをしてきましたが、今回は困りました。なぜなら事前準備が何もできないからです。

普通は謝罪会見のVTRなどが既にあって、それを見て必要なら巻き戻して何度も重要部分などクローズアップして分析できます。かつてあったゴーストライター騒動の時等、2時間半以上の会見動画を何度も見返しました。

しかし今回は何の素材もなく、また生本番それも他局のものを見て即コメントしなければなりません。あまりトンチンカンなこといえばコメンテーター失格ですし、あまりに無難な当たり障りないことしか言えなければ次の仕事が来なくなってしまいます。スタジオゲストでもないのに、これまでにない緊張感の下、バイキング開始を待ちました。

2.番組開始

バイキングの放映が始まりました。宮迫さん、頭を下げっぱなしで、高畑祐太氏やノンスタ井上さんの時のパロディにも見えてしまう映像です。この時点で深刻な謝罪会見ではなく、もしかすると笑いイジリ方向かも?と早くも先行きがどんどん見えなくなります。

司会の坂上さんはじめ、ひな壇もお笑いのエキスパートがそろっています。今回初めて最初から最後までバイキングを見ましたが、この日は東さんと鶴太郎さんという、往年のお笑いファンには堪えられない超絶ゲストでした。(「たけしのオールナイト」や「テレビに出たいやつみんな来い」見てた人だけ向け情報)

笑い路線に行くのであれば、出演者のきついイジリが生命線になります。ここでいかに宮迫さんをイジリ倒し、きつい言葉でボロクソにするかで視聴者のカタルシスが得られます。この日の出演者の腕力なら十分できそうな実力派の布陣でした。なかなか宮迫問題に触れず、週間ニュースなどで引っ張る構成はバラエティの常道。この日はいつも以上に「早くやれ!」といらいらしながら見ていました。

もっと最後の最後まで引っ張るのかと思いきや、番組開始後20分くらいでしょうか??核心の宮迫さんの話題が始まりました。案の定、相方・蛍原さんも加わり出演者はガンガンと宮迫イジリを進めています。

3.核心部分へ

ご本人いわく、「(指摘される)関係は持たなかった」しかし「結果としてやる気まんまんだった」と正直に述べました。最終的な事実は本人同士しかわからない中、また週刊誌でも本人にどこまで意図があったかは明らかでない中、本人自ら「その気だった」と認めるという、かなり突っ込んだ発言です。

話は続き、奥さんのことになります。今回単なる芸能人の浮気問題と異なるのは、宮迫さんが今やメイン番組を何本も持つけっこう大物芸能人であることと、ガン闘病で家族の支えがあり、それをCMにも出演していることにあります。つまり普通の芸能人ではなく家族の絆を一つの売りにしていることが、反発を呼んでいる一つなのです。

これまでも恐妻キャラで、どれだけ奥さんが恐ろしいかを語っていた宮迫さんですが、信じられないほど怒られたと言っています。ここまでお笑いトーンだった流れは、ここから雰囲気が変わります。怒られまくった後、奥さんは許し、夫婦の濃密な話し合いの時間が得られたとのこと。

そして夫の健康などもっと厳しいことに比べれば(今回の事件など)乗り越えられるという奥さんの言葉で締められました。私も見ていて説得力ある話だったと思います。さすが、俳優としても活躍する宮迫さんのコミュニケーション能力だと思います。

4.番組終了後の評価は・・・・・・・・・?

私が出た番組で、ここまでの評価を聞かれ、私の答えは「出来すぎ」というものでした。

わさわさした笑いから入り、徹底したイジリでおちゃらけでごまかすのか?というオープニングから始まり、途中から家族、奥さんをメインに据え、結局家族の絆、健康問題と王道を行く家族愛にクライマックで帰結した流れは凄いなと思います。

一方良く出来すぎていて、これって構成作家が作ってないのか?とも思うほどの高い完成度でした。ですので宮迫さんのファンの方やバイキングのファンの方であれば、十二分に説得力ある、すばらしい内容だったと思います。その旨をコメントでもしました。

ただし!私の評価を点数で出してくれといわれたのですが、「50点」でした。

コミュニケーションとしての戦略的謝罪が私のテーマ。謝りゃ良い訳ではありません。また宮迫さんが良い人なのか、家族が本当に納得しているのかも、戦略コミュニケーションの観点では関係がありません。

私の懸念はこのすばらしく構成された宮迫さんの説明の「出来すぎ」さ、にあります。

ん?謝罪が出来すぎなら大成功じゃないの??何の問題があんの??

5.「50点」の理由。謝罪の成功はしゃべりの成功ではない

私は大学でコミュニケーションやキャリアを正規科目で教える立場ですので、大学の評価式で採点しています。大学では60点以上が合格、70点で良、80点で優です。

つまり「50点」は不合格ということになります。これだけ「すばらしい内容」だと書いているのになぜ不合格としたのでしょう。「出来すぎ」だからです。謝罪の目的は上手に話すことでも、視聴者を引き付けることでもありません。事態を鎮静化させる危機管理こそ、謝罪の最大の目的です。

拙著「謝罪の作法」(ディスカヴァー21刊)でも述べていますが、p.64「ネットの向こうを意識する」という視点が謝罪においては何より重要なのです。

ここから先は有料になりますが、特段超絶なノウハウ・秘密ではないこと、先にお断りします。チップ・投げ銭代わりに読んでやるという方は、ぜひご一読いただければ幸いです。(作者・増沢)

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