ポンコツの皮をかぶった賢者  狩野英孝の会見対応

淫行疑惑がフライデーでスクープされたお笑い芸人・狩野英孝さんの記者会見が行われました。淫行が事実なら謝罪や謹慎ではすまない大きな問題です。注目を集める中、“ポンコツ”タレントを自称する狩野英孝さんはおずおずと登場しました。その会見全記録を見た感想です。



1.謝罪が機能する一線とは

さまざまな問題が起きた時に行われる謝罪ですが、よく「ベストな謝罪」について聞かれます。残念ながら謝罪は万能ではなく、どんな事件を起こしても謝罪の仕方で何とかなるということはありません。そこには明確な一線があります。

のりピー、清原、高知東生…と薬物乱用で逮捕された有名人は、どれだけ謝罪の言葉を述べたところで、「それじゃしょうがない」という反応は得られません。窃盗や詐欺など刑法に反する行為は、それこそ謝って済む問題ではないのです。では謝罪が機能して事態を打開できるのはどんなことでしょう。

刑法に違反せず、被害者がいないかあるいは限られなおかつ被害者も許している場合、謝罪を上手に運ぶことにより、それを見た人たちの印象が変化して納得感や共感が生まれることで、「じゃあしょうがない」感情が生まれます。

不倫などが典型例ですが、配偶者など家族以外に不倫の被害者というものはなく、日本では少なくとも犯罪とはされません。もちろん心的被害への損害賠償等配偶者が求めることは可能ですし、倫理的にそれこそ許されるものではありません。結果としてゲス不倫と呼ばれたベッキーさんが1年近く復帰まで反発が止まなかった例もあれば、今はもう忘却の彼方に消えた有名人の例は、謝罪が見事に機能したものといえます。



2.謝罪会見に至るまで

今回のスキャンダル、未成年者との性交渉は淫行という法律に反する行為となる恐れがあります。正確には条例違反ですが、イメージの悪さもあって、これが当てはまれば限りなく芸能生命は断たれる恐れがあります。

事前の情報では「狩野英孝が淫行」という言葉が駆け回り、事実なら芸能生命は完全に終わるのではという雰囲気がありました。そんな中で本人から直接釈明を行うという発表があり、記者会見が行われたのでした。そうとうアウェイな環境での会見設定だったと思います。

会見は土曜日午前11時という日程もあり、ワイドショーが生中継できません。さらにこの日は世界中が注目するトランプ米国新大統領就任式の日です。海外メディアは時差もあって終日トランプ報道で埋め尽くされ、日本でもやはり経済に大きく影響する大統領就任式は大々的に映し出される体制になっています。狩野会見への注目度を図り、この日程も計算が十分されたと思いますが限りなくベストなタイミングです。

そして会見当日、取材陣が集まる中、事務所の人に伴われつつも一人で登壇し、立ったままのぶら下がり的な形で会見は始まりました。事務所関係者や弁護士などはそばにおらず、すべて始めから一人で対応をしています。私が見た映像は1時間を超える長丁場、ずっと立ったままでの会見でした。



3.狩野会見は謝罪の原則を実践できたのか

この会見については動画だけでなく、ニュースとして会見の一問一答もすでに報道されており、それなりに正確な内容が伝わっているようです。直前までの「狩野も終わり」「芸能界から消えろ」という否定一辺倒だった一般コメントは微妙に変化し、「だまされたなら仕方ない」「相手の年齢なんていちいち確認しない」「そもそも情報を売った(公開した)やつが悪いのでは」といった、擁護的なものが見られるようになりました。

圧倒的な不評から、一部でも擁護論が出るというのは、謝罪としての機能が働いていることを意味します。ちなみに私も会見を見る限り、納得感を感じました。この先の報道の仕方によって、まだ世論は変化するでしょうが、少なくとも記者会見そのものはしっかりと構成されていたいと思います。

具体的に見てみましょう。

この会見ポイントは3つです。

1.相手が未成年だと知っていたか

2.相手とその親は許しているか

3.悪いのは誰か

「1.」は最大のポイントですが、「2.」と絡め、終始「知らなかった」で通しました。「知っていた」か「知らなかった」かを証明することは不可能ですから、どう釈明するかは「2.」にかかっています。狩野氏は「本人から(ウソをついたことを)謝られた」「相手の両親からも謝られた、応援していると言われた」という説明をすることで、この2つを同時に押さえたのです。

この論法を成立させるため、今回の事件が明らかになってからだと本人は言っていますが、親元を訪ね直接対話をしたそうです。つまりその場で今回の柱となる説得材料を得ていたのです。

取材陣はしきりに肉体関係の有無を問い質します。しかし狩野氏はいつものヘタレキャラと違い、その一点だけはどれだけ執拗に問われても「相手が十代なので、具体的表現はできません」と返します。これは見事な反駁です。事実上は恋人同士の大人の関係を認めつつも、決定的言質を取りたい取材陣を突っぱねていますが、それを自分の名誉や防衛ためではなく、「相手のため」と言い訳できる非常に高等な反論だと思います。

結果として情報を売られたような狩野氏ですが、相手のことはもちろんその友人と称する人物含め、誰のことも非難しません。謝罪の原則である「言い訳のために謝罪するのではない」ということがきっちりと実践できていました。

「相手が十代だと知って関係を持った」という前提がなければ淫行は成立しないし、「だまされた」という非難をすれば相手側との関係性が崩れてしまいます。この両方を維持することが最も大切な点でしたが、最後までその方針を貫けた点で、今回の狩野氏の会見は高い完成度を持っていたといえるでしょう。



4.ポンコツの皮をかぶった賢者

狩野英孝といえばお笑い芸人としてのポジションは「ポンコツ」だと思います。スベリ芸の一種で、自らおもしろいことを発するというより、普通の会話自体の変さや計算の出来ない天然と呼ばれるポンコツなところが人気を呼んでいます。

笑いの世界は非常に奥が深く、バカやアホと呼ばれることとその芸人さん自身が本当にバカやアホであることは別です。バカやアホを装いつつそれを演技とは受け止められない腕が必要です。たけし軍団やダチョウ倶楽部はただ裸になったりバカ騒ぎをするだけという批判も受けますが、実は素人がただ裸になるだけやバカ騒ぎだけで笑いなど作れません。素人のお調子者とプロの芸人さんの腕の違いを自ら喧伝するような無粋は絶対にしないのが芸人さんだと思います。

無粋を承知で書けば、狩野氏もポンコツを売りにしてその結果の言動が笑いになる点である意味バカを演じている人でしたが、今回の会見の全体を見ているととうていバカとは感じられませんでした。

執拗なレポーターの質問にも、これが例えば舛添元都知事のようなエリートであったらガンガン反論できるような、取材側の矛盾や無知にも反論ではなくしっかり答え、結果として何度も同じことしか答えようがないことを、決してイラつかずむしろ落ち着いて繰り返すことで、取材側のアラをいぶり出すかのような高等な対応だったといえます。

ベッキーさんなどの失敗会見と違い時間制限も設けず、最後まで立ったまま、大汗をかきつつ時としてシドロモドロのヘタレっぷりも見せつつ、相手を含めた誰のことも非難せずに「(相手の年齢を)知らなかった」の一点で突破しました。この全体構成はおよそポンコツではありません。



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5.エリート・舛添の挫折、ポンコツ・狩野の計算

今回の記者会見は謝罪の要諦を押さえた、しっかり計算されたものだと考えられます。実際のところはもちろんわかりません。しかし多くのエリートが起こすミスを、少なくとも今回の狩野氏は犯していません。それは言い訳です。・・・・・・有料ページへ

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