アンジャッシュ渡部会見の成否 成功謝罪の3要件を満たしたか?

大注目の中で行われたアンジャッシュ渡部さんの「会見」。年末特番・ガキの使いやあらへんで出演がニュースとなり、謝罪会見もせずに逃げ隠れした態度と、復帰は早すぎるという批判が巻き起こった中でのものでした。2時間近くに及んだ会見を、開始から終了まですべて見た上での印象です。

・復帰会見ではなく謝罪会見

ご本人は地味な喪服のような黒スーツ、黒ネクタイと、謝罪スタンダードな服装で登場です。マネージャーも弁護士も付かず、たった一人で会見場に現れました。またこの会見はいわゆる「囲み」で、会見席と記者が分かれて対峙するのではなく、渡部さんの周囲を取り囲んで自由に質問する形式です。

「自由」ということは、いくらでもつっこめる訳で、時間無制限、質問自由という、限りなく自らを追い込んだ設定をしたことで、今回の会見を謝罪の場としようとした意図は理解できます。わざわざ自らを不利な環境に追い込むことは、相手(記者)に全面的に降伏し、身を委ねることになるからです。

ベッキーさんが大失敗した、質問無し・一方的コメント発信のみのような、攻撃を一切拒絶するのは会見とは呼べず、膨れ上がる反発の炎を鎮火することはできません。そういった点からも、吹き荒れる批判への収拾を目指す今回の会見自体に意味はあったと思いました。

・謝罪成功のための3要件

拙著「謝罪の作法」では、危機管理としての謝罪成功のため、3要件を提示しています。それは謝罪の①見え方②払い方③伝え方(接し方)です。

①見え方とは、渡部さんの喪服のような地味スーツと、白髪染めはしてある程度の普通の髪型などです。個人のファッションセンスは時として謝罪の邪魔になりますが、個性のない喪服のような地味スーツ、正に葬式に行くようなフォーマルさは非常に重要です。会見中継したAbemaTVはそのまま後の番組につながりましたが、そこに出演していたEXITのお二人のような衣装ではダメなことはいわずもがなです。

③の伝え方も、マネージャーや弁護士に守られつつ無難な言い訳をする企業不祥事と違い、印象の悪化をどこまで抑えられるかという負け戦である芸能人の謝罪としては、たった一人で多数のマスコミから集団リンチにあうという図式を描けた点で良かったと思います。ツイッターなどのコメントも、会見時間が1時間経っても終わらない、それでいて記者の質問が堂々巡りし始めた辺りから、「かわいそう」「集団リンチでは」など、渡部さんに同情的なものが見え始めました。汗をかきながらオロオロ、上手く説明できないポンコツさは、むしろ誠意と映ったかも知れません。

②を飛ばしてしまいました。それは今回の会見の穴が②の払い方だったのではと思うからです。次項で詳しく説明します。払い方とは補償のことで、どんな代償を支払うかも事態収拾には欠かせません。

・マスコミが求めたのは「補償」

結局のところ謝罪会見の目的は事態沈静化によるBCP(業務継続)だと思います。甚大な経済的損失を及ぼす犯罪をした訳ではない行為ですから、被害者というのは基本的には家族と業務上関係者だけです。当然会見にまで至る過程で、本当の被害者への対応が済んでいないことなどあり得ません。ではさらに何を補償する必要があるのでしょうか。

今回払うべき代償とはイケメン芸人、グルメ・博学なインテリ、美人嫁の夫といった、渡部さんのポジションへの落とし前ではないでしょうか。私は以前「イケメンリスク」と名付けましたが、本来なら成功を象徴するこうした要素は、一旦トラブル・スキャンダルになれば真逆のリスクとして襲いかかります。成功への反発というネガティブエネルギーをどう御すかが、謝罪の要諦でもあります。

今回の会見の焦点の一つであり、残念ながら最終的にうやむやになってしまったのは「復帰はいつか」です。そもそも会見しなければならなくなった原因は、年末特番・ガキの使いやあらへんでへの突然の出演情報がニュースとして駆け巡ったからです。謝罪も禊もせずにのうのうとお笑いに復帰するのは許せん!という怒りや反発が、渡部さんの想定を超える規模で広がった結果今回の会見につながったと、ご本人の説明からもうかがえます。

このことは繰り返し記者からも問われていました。「既に仕事は始めたのでは?」という質問が繰り返されたのは、もちろん既にガキの使いに出演したのだろうという意味です。しかし渡部さんは「番組についてはお答えできない」と、最後まで出演の有無を答えませんでした。

番組出演の有無を答えることは、松本人志さんのいう(芸能・番組)ルール違反なのだろうと思います。しかし求められているのは特番に出たかどうかの事実以上に、そうした小ずるいウヤムヤな復帰を企んだのではないかということへの答です。実際に記者会見をせず、文春インタビューでしのげるだろうと正直な気持ちも説明したのですから、ここでも正直にここまで大騒ぎになると思わず、謝罪をごまかせないかと思ったと言っても良かったのではないでしょうか。

・戦力の逐次投入

ここまで批判を呼んでしまった原因は渡部さんの事態収拾、危機管理ミスであることは間違いありません。スキャンダルが露見した時点で収拾を図るべく、今回のような正直な会見で袋だたきになっておくべきだと、6月のmineで書きました。

mine「アンジャッシュ渡部のリスク評定 イケメンリスクとは?」

https://mine.place/page/997c77ee-7930-4f16-976b-7614806696f5

この中で、今回の会見内でも触れられた医療的対応についても述べています。6月段階できちんと対応できていたら、性依存症という病気治療を受けることも選択肢でした。いずれにしても12月まで謝罪会見を引っ張ってしまったことは、戦力の逐次投入です。もっとも稚拙な戦略といわれますが、後手後手に回った対応で事態改善は非常に難しく、大晦日特番への出演は、今回の会見の結果でも非常に厳しいと感じます。

事態収拾や危機管理においては常に最悪を想定し、先を読んだ対応が原則であること。今回の会見を見ても原則は変わらないと思いました。