台頭する新興家電メーカー(1)~便利なユニーク家電:ツインバード/読んで分かる「カンブリア宮殿」

ありそうでなかった~便利で安いアイデア家電

千葉県浦安市に住む四辻優紀さんは便利家電が大好きな主婦。身の回りには隠れた人気の家電がいっぱいあると言う。

砂場で遊んできた長女の咲希ちゃんのスニーカーが汚れてしまった。四辻さんは早速スニーカーを洗うと、下駄箱にスッポリ入るサイズの家電を取り出した。洗ったスニーカーをセットしてスイッチオン。便利な家電の一つ、「くつ乾燥機」だ。靴をセットする角の先端から温風が出る仕組み。機械の中には活性炭が入っていて匂いもとれる。およそ1時間後には乾いている。作ったのはツインバード。ひそかに人気上昇中の日本のメーカーだ。

他では「フラット電子レンジ」もツインバード製。扉を開けると中はフラットでターンテーブルが無い。だから四角い弁当も入り、回らなくてもムラなく温められるという。フラットだから手入れも楽々、サッと拭ける。最近流行りのサイクロン式掃除機「スティック型クリーナー」もツインバード。便利なポイントは取っ手が取り外せるところ。これなら階段の掃除も楽にできる。ちなみにこの掃除機は1万円以下で購入。ツインバードはあったら嬉しいアイデア家電を低価格で実現するメーカーだ。

ツインバードの商品は家電量販店でも売られている。「ヤマダ電機LABI新橋」で、あの「くつ乾燥機」は3980円(税別、以下同)。「ハンディーアイロン&スチーマー」は2380円、「ACパワーハンディークリーナー」は6800円と、確かに安い。

ツインバードの商品アイテム数は約600種類。去年の売り上げは134億円に上る(2017年2月期)。

新潟県燕市。燕三条といえば古くから続く金属加工の町。専門の技術を持つ4000もの工場がこの一帯に集まる。その一角、田んぼが広がるのどかな景色の中にツインバードの本社はある。中には組み立て工場もあり、日々、商品が生まれている。

創業は1951年で社員数は294人。こんな小さな規模で大手メーカーに挑んでいる。

8月5日。その敷地内で縁日の様な光景が。近くに住んでいる人たちが続々と集まってきた。これはツインバードが地域の人のために毎年本社を開放して開催している「夏フェス」。1日限りのイベントに2000人もの人たちがやってくる。

本社内のホールでは、ポロシャツを着たツインバードの社員が集まった住民たちから家電への不満や希望を聞いていた。「寝入ってしまった時、家電の電源が自動的に切れたらいい」「ドライヤーを使い終わってコードを巻くと、ねじれがすごく嫌」……。客の声に興味津々のツインバード工業社長、野水重明(51歳)はこう語る。

「僕たちは勝手に作りたい商品を作るのではなく、起点はお客様の声。お客様の声に寄り添いながら、喜んでもらえる商品を作っていきたい」



客の声から新家電~「あったらいいな」を実現

本社の中にあるショールームには、まさにお客の声から生まれた商品が並んでいる。

例えば「緊急災害の時にも使えるライトが欲しい」という声から生まれたスタンド「LEDふとんライト」(8640円。メーカー希望小売価格、以下同)。普段はベッドサイドで使えるが、もしもの時は折り畳んで抜けば懐中電灯になる。

「メガネや貴金属を綺麗にしたい」という声から作ったのは「超音波洗浄機」(1万800円)。メガネのなかなか取れない鼻あての油汚れが3分できれいサッパリ無くなる。

普段、客の声を吸い上げる中枢機関がコールセンターだ。一日に入ってくる問い合わせや苦情はおよそ300件。その声一つ一つがツインバードの開発のきっかけになるという。

夏場になって増えていたのが、意外にも掃除機に関する悩み。集まった声は「最初のような吸い込む力がなくなってしまった」「音はするが吸い込まなくなった」「使っている間に止まってしまう」……。

その原因はサイクロン式掃除機のフィルターにあるという。サイクロン式掃除機は吸い込んだゴミをダストボックスに溜める。しかし、その手前にあるフィルター部分は目詰まりしやすく、手入れを怠ると吸引力は低下。モーターが熱くなって止まることもある。

コールセンターに集まったお客の声は、月に2回、会議にかけられ共有される。

「夏場に早く掃除がしたいのに、止まっている状態を解消したい」(お客様サービス担当者)と、コールセンターから開発部にお客の声が直接伝えられるのだ。

この声を受けて、吸引力が落ちず、夏場でもモーターの止まらない掃除機の開発が始まった。担当するのは入社7年目の開発生産本部・古川泰之。早速デザインを起こす。古川はスティック型を採用。そのデザインからまず立体的な模型が作られる。作るのはこの道26年の商品開発部・本田貴司。手作業でデザインに沿った形にしていく。本田の腕が物を言う職人仕事だ。なんと、その日のうちに模型が出来上がった。

続いて掃除機の内部パーツの模型を製作。発泡スチロールの模型を参考に3Dプリンターで試作品を作る。フィルターの目詰まりを解消するために古川が出した答えが、紙パックの採用だった。「サイクロン式のダストケース部分に紙パックが入ります」と言う。

昔ながらの紙パックは手入れが簡単。これで厄介なフィルタートラブルもなくなる。さらに新しい紙パックも開発するという。ただし、古川にはまだ納得のいっていない部分があった。「力の弱い女性の方でも使っていただけるように、軽くするのがコンセプトのひとつなので、ここからさらに削ぎ落としていくというところですね」と言う。

こうした試行錯誤を繰り返しながら、お客の声を反映した商品を作っていく。最後の関門が商品化決定会議。ここで野水がOKを出さない限り商品になることはない。

古川は、従来のスティック型サイクロン式掃除機より700グラム軽くしていた。まさにありそうでなかった家電。野水のゴーサインをゲットした。

大手家電メーカーは企画から商品化まで2年かかるのが普通だが、ツインバードは最短で10ヶ月という早さだ。

「世の中全体がスピード感を持って変化していくので、それに半歩先んじて、本当に便利な機能を提供していきたいと考えています」(野水)



メッキ加工の下請けが人気家電メーカーに大変身

ツインバードの本社には、これまで作ってきた商品が展示されている。中には悔しい思い出となっているものもある。

1991年発売の電気釜飯器「和風炊飯器はがまくん」。今ではよく見る羽釜の炊飯器を30年近く前に作っていた。だが、「他のメーカーの炊飯器より美味しいと、満を持して量販店さんで販売したのですが、ほとんど売れなかったですね」(野水)。

 他にも、録音もできる電子再録カラオケ「カラオケ歌道場」、阪神大震災を受けて作ったという「液晶テレビ付蛍光灯ランタン」など、昔から「いいと思ったモノは作ってみる」という柔軟な物作りの姿勢を持ち続けてきた。

ツインバードの創業は戦後復興期の1951年。最初は一軒家で洋食器などをメッキ加工する小さな下請け工場だった。

「下請けというのは発注元の商売に影響されやすい。あまりにもビジネスモデルとして不利だということで、親会社の注文を蹴って、自社製品の開発に踏み切ったんです」(野水)

創業から12年後に金属トレーの製造販売を開始。冠婚葬祭用に作ったトレーは1000万枚以上を売るヒットとなった。洋食器から家電へと舵を切ったのは野水の父で2代目の重勝。当時、洋食器を売っていたカタログギフトの取引先からリクエストされたのだ。

「冠婚葬祭用の製品というのは、毎年同じ物を差し上げると飽きられてしまう。電気ポットや電気ウォーマーなども開発してほしいとご依頼を受けたのが、家電製品にシフトしていくきっかけでした」(野水)

最初に作ったのは卓上照明。その後作った、触れるだけでライトがつく「調光タッチセンサーライト」は9万5000台のヒットを記録した。大手メーカーが参入してこなかったカタログギフトの市場でツインバードは成長してきたのだ。

野水は1965年の生まれ。子供の頃は工場が遊び場だった。ツインバード入社は1989年。取引先のなかった香港に赴任し、新規開拓する仕事に打ち込んだ。しかし帰国すると、会社は5期連続赤字という厳しい状況に追いつめられていた。

「とにかく今までのビジネスモデルの延長線ではジリ貧になってしまう」という危機感を持った野水は会社の建て直しを図り、2011年には社長に就任。会社のものづくりの方向性を大きく変える決断をする。

「ビジョンを作ったんです。お客様の声に耳を傾けて『あったらいいな』を形にする。とにかく会社を変えたかったんですよ」

ビジョンを浸透させるため、野水は毎日、朝礼でそれこそ「壊れた蓄音機」のように繰り返し伝えてきたと言う。「客の声から始まるものづくり」はこうして始まった。

業界初!絶品パン焼き器~客の声に応えて「粉」まで開発

最近は「健康志向」の女性客が多く、その声に寄り添う商品も続々。例えば6本の指で頭皮をマッサージするヘッドケアマシーン「セレブリフト」(3万2400円)。ヘッドスパ美容の第一人者の動きを再現しているという。

今、話題の「粉末緑茶」を作れる「お茶ひき器」(1万778円)。市販されているお茶っ葉を入れてスイッチを入れれば、あっという間に粉末緑茶の出来上がり。普通に淹れると茶葉に7割の栄養成分が残ってしまうが、これならカテキンなどを丸ごと摂れる。

客の声から生まれた商品がホームベーカリーの「ブランパンメーカー」(1万5984円)。

ブランパンとは、胚芽を残した小麦粉から作るパンのこと。通常のパンより低糖質で低カロリーと、最近、人気になっている。ただしブランパンの生地は膨らみにくく、こねる際の回数や温度の調整が難しい。それゆえこれまで各メーカーは手を出さなかった。ツインバードが初めて、ブランパンもふっくら焼ける機械を生み出したのだ。

このホームベーカリーを開発したのは入社12年目の開発生産本部・村上樹。パン作りの腕も磨き、家電メーカーの社員なのに粉まで開発してしまった。ブランパン用のミックス粉が手に入りにくいという声を受けてできたのが「低糖質ブランパンミックス」(1296円)。「水と粉とイーストを入れればあとは焼くだけというものがあると、もっとお客様に親しんでもらえるかなと思いまして」(村上)と言う。

さらにブランパンを後押しする場所も作ろうとしている。ツインバードの東京支社で野水も加わって準備していたのはカフェをオープンするためのメニューの試食会。ブランパンは健康にはいいが、「癖があって食べづらい」という声もある。自社の製品を使うカフェまで作って、ブランパンの美味しさを示そうというのだ。

カフェは11月にオープンの予定。お客の生の声を聞ける新たな拠点が誕生する。

ものづくりの町の結晶~新興家電メーカーの挑戦

ツインバードの本社工場でこの日、作っていたのはコーヒーメーカー。だが、「これは良品計画さんの全自動コーヒーメーカー。毎日260台作っていますが、追いつかない状態です」(生産管理部・太田友美)と言う。無印良品で2ヶ月待ちになっている人気商品だが、実はツインバード製。他社の商品の製造も請け負っているのだ。

それを支えるのが燕三条にある83社の協力工場。例えば日研シェルモールドは、金属を鋳型に流し込んで作る鋳造の技術を持つ。砂の型を壊すと、中から出てきたのは「フラットカッター」。無印良品のコーヒーメーカーに入る豆を挽く刃だった。

「燕三条の技術を使いながら、お客様に圧倒的な感動を提供できる会社になることができると思っています」(野水)

一方、小林研業は金属の表面を磨き上げるエキスパートだ。実はこの工場、こう見えて世界に認められた高い技術を持っている。見せてくれたのはアップルの「iPod」。この工場の技術に惚れ込み磨きを依頼したのだ。

今、作っているのがツインバード製品のパーツ。お鉢のような形の金属を職人さんが磨きにかける。一つずつ磨き上げること30分。出来上がったパーツは鏡のように輝いている。小林研業の武田喜雄さんは「海外の製品に負けない高付加価値の商品を世に送り出せば、燕三条のブランド力の向上にもつながると思うんです」と言う。

パーツはツインバードの組み立て工場に。他にもピカピカの支柱や大きなモーターが、協力工場から届いていた。これらを組み立てていく。お鉢のようなパーツはモーターに被せられた。作っていたのは扇風機だった。

燕三条の技術力を結集した扇風機「ピルエット」(8万6400円)。音が静かなのはゆっくり回るDCモーターを採用しているから。自然に近い柔らかな風が吹いてくる。最大の特徴が360度回転すること。これなら部屋のどこにいても心地のいい風が届く。

2013年、種子島宇宙センターから打ち上げられた「こうのとり4号機」。このロケットの中にツインバードの技術の結晶が搭載されていた。

それが「スターリングクーラー」と呼ばれる冷却装置。スイッチを入れるとあっという間にマイナス100度まで温度を下げられる。宇宙で採取したチリなどを保存するのに使われた。商品開発部の駒田淳は「小型のものでマイナス100度の世界を作れるのはツインバードだけだと考えています」と胸を張る。

この技術は身近な所でも既に活かされている。「スターリングクーラー」を使った業務用冷凍機「ディープフリーザー」。ワクチンなどの冷凍保存が必要な医薬品の運搬で活躍しているのだ。より安全に病院へ運べるように。ツインバードが命の現場でも一役買っていた。

~村上龍の編集後記~ 

「ツインバード」はメッキ工場としてスタートし、技術開発を続けて下請けから脱却し、銀のトレーなど大ヒット商品を生み出した。

だが、あるとき、家電の製造を開始する。なぜ家電を作ることができたのか、野水さんに伺うまで、「謎」だった。

培われた高度なメッキ技術、それにさまざまな工場群を擁する「燕三条」があって、はじめて可能になったのだ。だから、他は、真似ができない。

伝統という縦軸と、相互に信頼する協力企業という横軸、それらが交差するポイントを持つのは、おそらく「ツインバード」だけだろう。

<出演者略歴>

野水重明(のみずしげあき)1965年、新潟県生まれ。1989年、長岡技術科学大学大学院工学研究科修了後、ツインバード入社。2011年、代表取締役就任。