ふるさと納税ブーム!~地方創生への戦略と展望・トラストバンク/読んで分かる「カンブリア宮殿」

地方も寄付者も潤う~話題のふるさと納税とは?

東京・江東区の四宮さん一家に宅急便が届いた。届いたのは北海道産のイクラのしょうゆ漬け。高級料亭でも使われているという極上「イクラ6パックのセット」(5160円)。さらに北海道産の牛乳で作った「アイスクリームと生チョコのセット」(5592円)も。合わせて1万円相当の商品だが、四宮さんは実質2000円で手に入れたと言う。

これらは北海道釧路市にふるさと納税をしたことに対しての返礼品だった。四宮さんはふるさとの釧路市に4万円を寄付し、この返礼品を受け取った。

「ふるさと納税」という名前だが、自分の出身地に限らず、どこにでも寄付は可能だ。その返礼品には日本中の名産品が並ぶ。例えば静岡県焼津市。焼津といえば全国でも屈指のマグロ基地。ミナミマグロの水揚げは日本一だ。これがふるさと納税の返礼品として大人気。1万円の寄付で天然ミナミマグロの赤身と中トロ、それぞれ180グラムのセットが届く。他にも寄付金額に応じて大トロの入った定期便など、マグロだけで170セット以上がスタンバイ。50万円寄付すればマグロ丸々1本、なんてものまであった。

ふるさと納税からスポットの当たった名産品もある。岡山県吉備中央町は自然豊かで水がきれいな美味しい米の産地だ。この町の返礼品はコシヒカリ。寄付金1万円につき20キロ、3万円なら60キロが届く。

ふるさと納税でここの米が人気になり作付けを増やした農家も出ている。農業組合法人大明神組合の小柳惠一さんは「あれがなかったら米作りをやめる農家はかなりあったと思います」と言う。ふるさと納税の返礼品需要が生産者を元気づけているのだ。

ふるさと納税の仕組は、まず、気に入った自治体を選んで寄付すると、その町から返礼品が送られてくる。さらに寄付した金額分が、翌年の住民税などで控除される。例えば5万円寄付した場合、手数料にあたる2000円を引いた4万8000円が控除(控除額は収入によって上限がある)。つまり、翌年払う住民税などが4万8000円安くなるというわけだ。

何カ所に何回寄付しても、その年に負担するのは2000円だけ。つまり、実質2000円で何個もの返礼品を受け取ることができる。2008年に始まったふるさと納税はこの2年で寄付が急増。2016年度は2700億円に達すると予想されている。

寄付金の7割が経由するお化けサイト

このブームに火をつけた仕掛人が、東京都目黒区のビルにあるトラストバンク。「信頼を貯める」という意図で名付けられ、創業5年で従業員は70人に。ふるさと納税の寄付額と比例するようにして急成長した。

メインの事業は、ふるさと納税の総合サイト「ふるさとチョイス」の運営。全国1788の自治体の情報を掲載。この制度で動く寄付金、総額2700億円のうち、なんと7割がこの「ふるさとチョイス」経由。ふるさと納税では圧倒的なナンバーワンサイトだ。

このサイトを作ったトラストバンクの創業社長、須永珠代は「ふるさと納税をすることで、地域で作られたオリジナルの品や首都圏では手に入らない特産品が送られてきます。それが醍醐味の一つかと思います」と言う。

「ふるさとチョイス」には全国の自治体が用意した12万点以上の返礼品が載っている。

返礼品はカテゴリー別に分かれていて、利用者は欲しい物から寄付先を決めることもできる。また返礼品のランキングもあり、人気の商品に一発でたどり着ける。例えばお肉部門の1位は佐賀県みやき町の九州産豚肉。1万円で4キロが届く。魚介部門のトップは佐賀県上峰町で、1万円でふっくら・うなぎの蒲焼が5尾。人気の高い季節のフルーツの1位は、信州産マスカット。1万円の寄付で2キロが送られてくる。

インターネットはちょっと苦手という人のための施設もある。東京・有楽町にあるトラストバンク直営の「ふるさとチョイスCafe」。ここではふるさと納税の仕組みや申し込み方などを、スタッフが顔をつき合わせて教えてくれる。クレジットカードでその場で決済することもできる。

こうした取り組みの効果もあり、「ふるさとチョイス」の会員数は増え続け、現在は157万人に達している。

地域の名産品が続々誕生~寄付額、日本一になった平戸市

「ふるさとチョイス」と4年前から手を組み、大成功したのが長崎県平戸市。3年前には14億円を集め、ふるさと納税の寄付額、日本一になった。その理由は、魅力的な返礼品を揃えたから。鮮度抜群の魚が何種類も味わえる「地魚の詰め合わせ」に、生産量が少ない幻の平戸和牛。豊かな自然の中で育てられた牛の肉は柔らかさが自慢だ。

そんな平戸に須永がやって来た。まず向かった先は地元の魚が集まる平戸瀬戸市場。手を組んだ自治体の様子を、自分の目で確かめに来たのだ。

ここには変わった返礼品もある。「ウチワエビ」は以前、地元でもあまり食べられていなかったが、今や平戸の看板返礼品になった。須永が「食べやすい形にして送ろう」とアドバイスし「ウチワエビのしゃぶしゃぶセット」が誕生、これが大人気となった。刺身とは違ったシコシコした食感が楽しめるという。

他にも、山形県天童市では須永が「オカヒジキ」に目をつけ、野菜セットに採用。同じ山形の三川町からは「モクズガニ」。こんな地方の隠れたお宝を発掘してきたのだ。

平戸では雇用も拡大したという。市場の流通部・松山貴充さんによれば、「5年前は従業員20人ぐらいだったのが、今では50人近くいます」と言う。ふるさと納税が成功すれば、地域の経済に大きなプラスとなる。

盟友とも言える間柄になった平戸氏の黒田成彦市長は須永のことを「原動力プラス触媒。須永さんと出会ってみんなが変わっていく。いい出会いに感謝しています」と評する。

返礼品で人気を得た生産者は、より工夫するようになる。平戸の果樹園「善果園」もその一つ。ご主人の近藤重雄さんは、柑橘の新しい品種「平戸夏香」を作り出し、地域の特産ブランドにすることに成功した。さわやかな香りと優しい甘みが特徴的なサマーオレンジ。この「平戸夏香」が返礼品として出るのは5月から7月までの3ヵ月間だけ。期間限定ということもあり、あっという間に品切れになるという。

「ふるさと納税で『平戸夏香』の販売量もだいぶ増えてきたし、丹精込めて作った商品がお客に届いて『美味しかったよ』と言われるのは、やりがいにもなる」(近藤さん)

近藤さんは新鮮な「平戸夏香」を使ったジュースも作っている。このジュースの入ったセットもふるさと納税の返礼品の一つ。さらに、ジュースを作れば量の搾りカスが出るが、これも地域で活用している。その行き先は「坂野水産」の地元の魚の養殖場。絞りカスから、新たな返礼品を作り出していた。その名も「平戸夏香ブリ」。搾りカスを粉々にしてイワシなどのエサに混ぜ込み、ブリに与えている。こうすると、「ブリの臭みもなくなって食べやすくなる」(「坂野水産」の坂野雄紀さん)のだと言う。身からはほんのり柑橘の香りが。平戸夏香ブリは、多い時にはひと月400品が出る人気返礼品となった。

こうしてトラストバンクと協力し、ふるさと納税に取り組んできた平戸市は、昨年度も16億円を超える寄付金を集めた。

無職・派遣から一念発起~「ふるさとチョイス」誕生のきっかけ

ある日、須永の元に急な来客があった。やって来たのは福島県庁生活環境部の職員たち。2011年の集中豪雨で、未だ一部不通となっている只見線。その復旧資金をふるさと納税で集められないか、という相談だった。復旧に必要な資金は81億円。5年間奔走してきたが、あと33億円が必要だと言う。

こうした問題を抱える自治体の関係者が、毎日のようにやって来る。

須永は群馬県伊勢崎市のサラリーマンの家庭に生まれた。東京の大学を卒業した時は就職氷河期。なんとか東京で働きたいと50社以上に応募したが、書類選考ではねられまくり、なんと全滅。仕方なく地元に戻り、自動車ディーラーの事務職についた。しかし、「私自身は働くことにすごく夢を持っていて、働く大人は格好いいという思いがあったんです。でもいざ働いてみると、会社の先輩たちはあまり楽しそうに働いていなかった。たったの1年で辞めてしまいました」という。

ところがそのあとは定職に就けず、塾の講師や結婚相談所のアドバイザーなど、ほとんどが派遣社員やアルバイトという立場で職を転々とする。30代ではリーマンショックもあり、1年間失業。その後はITベンチャーに勤務。ウェブデザイナーとして3年間で100以上のサイトを立ち上げるなど、ガムシャラに働いた。

「勤めていた会社では毎月の残業が250時間。睡眠時間を確保したいので、片道6000円かけて毎日タクシーで通っていたので、それでお給料がなくなる生活でした」(須永)

そんな順風満帆とは程遠い暮らしをしていた須永が、今の事業を始めるきっかけがあった。それはふるさと伊勢崎市に帰省した時に、父親と交わしたやりとりだ。須永はホットプレートの購入を頼まれ、地元の電機店を訪ねた。そこにはお目当ての商品があったのだが、値段が気になり、調べてみると通販サイトの方が安かったので、ネットで購入した。

そのことを父親に報告すると、父は「それはダメだ。それじゃ地元に金が落ちないだろう」と嘆いたという。

「その時、私は父が何を言っているのか全くわからなかった。私の中の消費や購入に対する価値観は『安い』『早い』『楽』しかなかった。でも父は、それ以外にもどこにお金が落ちるかという価値観を持っていたということなんです」(須永)

自分の損得ではなく、地域にお金を落とす。この考え方が疲弊する地方に目を向けるヒントになった。そしてたった一人で2012年、資本金50万円でトラストバンクを創業。「ふるさとチョイス」を立ち上げたのだ。

過疎の町に都会から移住~寄付金が地方を変える

サイトを作るにあたり、須永がこだわったのは、寄付金の使い道から自治体を選べるようにすることだった。

「ふるさと納税は課題解決のツールだと考えています。自治体はどういう課題があって、どういう町にしたいかを明確にすることによって、賛同した寄付を集める」(須永)

例えば佐賀県では糖尿病患者を救う研究費用を募り、7000万円が集まった。また岩手県の西和賀町では、2015年の土砂崩れで道の駅が休業に追い込まれた。この時は道の駅の代わりとなるキッチンカーの購入資金を募集。1000万円を集めて買った車は今も大活躍している。地域の産業を守ったのだ。

寄付金の使い道を明確にして、大きな成果を出したのは北海道上士幌町。主な産業は酪農と林業。典型的な過疎の町だった。しかし、「ふるさとチョイス」と手を組み希少な地元のブランド牛を返礼品の看板にして21億円の寄付を集めた。これは町民税の9倍だ。

寄付金の使い道は最初から一貫している。企画財政課の梶達さんは「一般寄付から経費を除いた全てを、子育てと少子化対策に活用させていただいています。都会から移り住んでほしいという思いもあって、子育てに力を入れております」と言う。

少子化対策で町営のこども園を作り、保育料はなんと無料にした。今や園児は140人に。待機児童はゼロだ。寄付金から外国人講師も雇った。絵本やDVDも大量に購入。こども園の給食は無料だ。さらにスクールバスの購入、高校生まで医療費は全額免除など、町に集まった寄付金をありとあらゆる子育て支援に投入したのだ。

2013年に始めた少子化対策は結果を出し、減り続けていた上士幌町の人口は増加傾向に。狙い通り、都会から移住者がやって来た。この10年で120人が移住。「ふるさとチョイス」と手を組んで、町の課題に一定の成果を出したのだ。

ブームの光と影~ふるさと納税はどうなる?

ふるさと納税に対して、収録前、村上龍は「短期的にはすごく地方に役立ったと思う。だけどこれは20年も30年ももつ税制ではないような気がする」と、疑問を口にした。

実際、寄付金を集めようとする自治体の間では競争が過熱。テレビやパソコンなど、高価で還元率が高い返礼品や、返礼品として送られてきた商品券の換金も問題になっている。

また、2000円の負担で済む寄付の上限は収入によって変わる。例えば年収500万円なら、2000円負担で済む寄付金額は6万円まで。これが年収1億円なら435万円に跳ね上がる。大量の返礼品が実質2000円で手に入るのだ。ふるさと納税は収入の高い人ほど得ができる仕組み。合法的な節税ではあるが、都会の住民が地方に寄付すれば、住民税が控除され、住んでいる自治体は減収となる。悲鳴を上げているのは、ふるさと納税による赤字額が多い、横浜市、名古屋市、東京都世田谷区といった都市部の自治体だ。

ふるさと納税ブームが過熱する中、国も動いた。今年3月、総務省は「返礼割合の高い品はすみやかに3割以下にするように」と通達。なりふり構わず寄付を集めようと、地域と関係のない商品や還元率の高い返礼品を送る自治体に対し、釘を刺した。

国がブームを抑えにかかったことで、自治体からは不安の声も上がっている。トラストバンクが開催した全国の自治体職員を集めた会議でも、「ふるさと納税がなくなってしまうこともあるのでは?」という声が上がっていた。こうした声に対し、長年取り組んできたトラストバンクの黒瀬啓介は「(ふるさと納税は)麻薬みたいなものだと思っていて、ふるさと納税なしでは生きていけないという構図になると非常に厳しいと思う」と語る。

返礼品の還元率が3割となり、ブームは終わりという見方もある。

須永はトラストバンクの今後について、スタジオで次のように答えている。

「私たちのミッションは『地域とシニアを元気にする』。人・モノ・お金・情報が、地域でも都市部でも循環しているのが健全な状態であるとしています。今のネットワークを活かして、これ以外のビジネスにも発展していきたいと考えています」

~村上龍の編集後記~ 

「ふるさと納税」というシステムが、今後も長期的に続くのか、わたしにはわからない。

だが、「ふるさとチョイス」は、圧倒的な情報量、ページデザイン、親切なアップデートなど、サイトとして、驚くほどよくできている。

たとえ「ふるさと納税」に何らかの変化が訪れても、「ふるさとチョイス」の貴重なネットワークは機能し続ける気がする。

ネットワークは、交通網と同じで、時代状況の変化にも対応できる。

「ふるさとチョイス」というウェブサイトが生まれたこと、それは「ふるさと納税」が果たした大きな貢献の一つかもしれない。

<出演者略歴>

須永珠代(すなが・たまよ)1973年、群馬県生まれ。大学卒業後、地元の自動車ディーラーに就職。その後、派遣社員やITベンチャー企業勤務を経て、2012年、トラストバンクを起業、社長就任。