初心者が熱愛するアウトドアメーカーの秘密/ロゴス/読んで分かる「カンブリア宮殿」

夏のアウトドアで大人気~簡単便利なアイデア商品

埼玉県越谷市が年に1度開催している「レイクタウン防災フェス2019」が、人気ショッピングモール「イオンレイクタウン」で行われた。災害や防災について、体験しながら学べるイベントだ。

会場には防災グッズを紹介するコーナーも。例えば子どもでもたてられるテント「エアマジックドーム」(5万2920円)には、支えるフレームが一切ない。筒に空気を入れると柱になって、強度は普通のテントに負けないという。そして弁をひねると空気が抜けて、あっという間に片付けられる。一方、防水のバッグ「ラッコフロート」(9612円)は、万が一の時には浮き輪代わりになる。

これらの防災アイテムはすべてアウトドア用品。カエデの葉がトレードマークの日本のメーカー、ロゴスが作っている。

全国に62の販売店を展開しているロゴス。テントや寝袋はもちろん、バーベキュー用のグリル「ピラミッドたき火フルセット」(1万6956円)、組み立て式のテーブル「ライフテーブル」(7452円)といったさまざまなアウトドアグッズから、アウトドア用のウエアまで、1500種類以上の商品が揃っているのだ。

ロゴスにやってくる客の多くは、これからアウトドアを始めようという初心者だ。彼らを取り込む独自の戦略がある。それが「5-800M」という数字だ。「5m800m戦略と言いまして、水辺5mから標高800mまで。こちらをロゴスのメインターゲット層にしています」と言う。

5メートルは子どもでも安全に遊べる水際からの距離。800メートルは高尾山など、家族連れや年配の人でも気軽に登れる山の高さだという。つまりロゴスのメインターゲットは、本格的なマニアではなく、アウトドアを気軽に楽しみたい家族連れなのだ。

そんな客をつかむための独自の仕掛けもある。例えば、商品は全て試せる。

キャンプ未経験だという家族が店員に声をかけると、店の外に案内された。店員が床に並べたのは、色分けされたテントのフレーム。この色分けがポイントだ。テントにも同じ色のマークがついているので、そこにフレームを挿していけばOK。初心者でも間違えないように工夫されている。客は一度試してから買えるので、使うときにまごつくこともなくなる。このサービスが初心者に好評だ。

初心者目線に立った売り方で、客をロゴスファンにしているのだ。

とにかく簡単で便利だから熱狂的なファンも付いている。埼玉県皆野町のキャンプ場「長瀞ウォーターパーク」にやってきた関口雅之さん一家も熱狂的なロゴスファンだ。

出来上がったテントに、子どもたちが何かを運び込んだ。テントの床に敷くエアマット「セルフインフレートマットデュオ」(1万5120円)だ。バルブを開けるだけで、空気が勝手に入って膨らんでいく。中に入っている圧縮されたウレタンが、元に戻る時に空気を取り込み、膨らむのだ。

バーベキューのときもロゴスが大活躍。「BBQお掃除楽ちんシート」(799円)は家庭用アルミホイルの3倍の厚みがあるから、フライパン代わりにも使える。グリルを使い終わった後、アルミを剥がせば、本体には灰や油がついていない。だから掃除も楽ちんだ。さらに、「立つ食器プレート」(4枚セット/3456円)は、自立するから洗った後も素早く乾かせる。

ロゴスの便利グッズを使えば、家族の時間がたっぷりつくれるのだ。



年間300の商品開発~自宅でも使いたくなる

ロゴスの本社は大阪にある。1928年創業で従業員は約550人。当然ながら、ほとんどの社員がキャンプ好き。その中で、最も多くのアイデアグッズを生み出してきたのが、ロゴスコーポレーション社長・柴田茂樹(63)だ。

自ら開発したという水筒「氷点下サーモテクト」(4536円)には、ハーゲンダッツのカップのアイスクリームが3つ入るようになっている。その上に保冷剤を入れると7時間は溶けないという。

「山の上で売っているアイスクリームよりも、ハーゲンダッツが食べたい。だから、それを実現させようと」(柴田)

年間300もの商品を開発しているロゴスだが、新商品の3分の1は柴田のアイデアだという。

この日も、新たなアイデアを持って来ていた。空気で膨らむエアテントの進化版、幅3m、奥行き5mもある「エアマジックシェルター」だ。その特徴は「涼しいでしょう? 外と温度が16度くらい違います」(柴田)。内側の黒い生地が太陽の熱を遮断してくれるから、炎天下でも涼しく過ごせる。この大きさにした最大の理由は、ワンボックスカーが、すっぽり収まるからだ。

独自の視点で簡単便利を追求。それがロゴスのものづくりだ。

「『ないものを創造する』とみんなが思っている。ないものだから、初めて見せた時に、感動というか、『こんなのあるんだ』というのが一番の目標です」(商品開発課・関晋)

アウトドア人口は年々増えており、ロゴスの売り上げもこの10年でおよそ2倍となり、いまや年商86億円。

「5~800mのフィールドで拡大していけば、まだまだ成長の余地は計り知れないくらいある」

ロゴスグッズを家庭でも使う人も増えている。

一見、お洒落なヤカン「たためるケトル」(4536円)は、使い終わったら畳めて、高さはわずか6cmに。だから狭い場所にも収納できる。

また保冷剤「氷点下パック」(1490円)の保冷能力は通常の8倍。停電の時は、これを冷凍庫から冷蔵庫に移し替えれば、中のものが傷むのを遅らせることができる。

コンパクトで使いやすいから、キャンプ場だけでなく家庭でも便利なのだ。



倒産寸前からの大逆転~危機を救った「息子の言葉」

京都駅から車で南へ30分。京都府城陽市に去年、ロゴスが少し変わったアウトドア施設「ロゴスランド」をオープンさせた。部屋の中でキャンプができる宿泊施設だ。

部屋の中だから、焚火はダミー。だが天候に左右されないし、エアコンが効いているからいつも快適。この疑似キャンプ場は特に女性から、「虫もいないし、清潔なところがいい」と受けがいい。週末は2ヶ月先まで予約が取れないほどの大人気だという(1泊朝食付きで大人9180円、小学生7020円)。

「ロゴスランド」の広さは東京ドーム2個分。施設全体が公園になっている。だから泊まりは屋内でも、昼間は外でさまざまな遊びが体験できる。

食事はもちろんバーベキュー(「バーベキューセット」は飲み放題付きで大人4212円、小学生2106円)。食材は用意されているし、持ち込みもOKだ。道具はもちろんすべてロゴス製。使い勝手を試してもらう意味もある。「手ぶらでアウトドア」も、ここの魅力だ。夜はテラスでキャンプファイアーもできる。

お手軽アウトドアでファンを増やすのが狙い。施設内にはショップもあるから、実際に使ってみて気に入った商品を買って帰ることもできる。

1928年、柴田の祖父・実昭が創業した船舶用品の問屋「大三商会」がロゴスの始まりだ。第一次大戦後、日本の造船業は飛躍的に発展。それに伴ってさまざまな備品も売れ、会社は急成長していった。

ところが1970年代後半になると、造船不況になり一転ピンチに。2代目の父はヨットやウインドサーフィンなどに活路を求めたが、どれも鳴かず飛ばず。経営は悪化の一途をたどった。柴田が入社した82年には、会社は倒産寸前にまで追い込まれていた。

「どん底ということですよ。年末までもたないみたいな話も聞かされました」(柴田)

そんな状況を一変させた商品がテーブルセットだ。他の商品は売れないのに、なぜかテーブルセットだけはよく売れたという。

「まだ海辺で椅子とかテーブルを使っている人はほとんどいなくて、優雅に見えたんでしょうね」(柴田)

このテーブルセットが大きな転機をもたらすことになる。80年代前半の、ある夏休み。そのテーブルセットを持ち出して、柴田は家族と琵琶湖のほとりキャンプにやってきた。

柴田が炭に火を着けると、目を丸くして見ていた息子が「かっこいい」と言う。

「明らかに僕を見る目が違うんです。パパがすごいことをしてると、目がキラキラしているんです」(柴田)

おりしも、日本でアウトドアブームが始まろうとしていた頃。息子の言葉を思い出した柴田は「アウトドア用品なら生き残れるかもしれない」と思った。

柴田はさっそくアウトドア用品の開発に乗り出す。真っ先に目をつけたのがファミリー向けのテント。専門メーカーの商品を徹底的に調べ上げ、連日のようにデッサンを続けた。

当時、専門メーカーが作るテントは安いものでも4万円以上。柴田は低価格の商品を投入しようと考えた。

「当時の国民宿舎の相場が、1泊2食で5000円だった。家族4人で2万円。2万円でテントが売れたら絶対爆発すると思った」

だが、出来上がったテントを登山の専門店に売り込みに行っても、本格的な山では使えないと、見向きもされなかった。そこで柴田が目をつけたのが、当時各地にでき始めたホームセンター。値段は破格の19800円に。すると家族連れが楽しそうにテントを買っていく。

これを機にロゴスは、ファミリー層に向けたアウトドア用品に大きく舵を切る。値段も手頃で、女性や子どもでも楽しく使える商品を手がけると、これが大ヒット。「海から陸へ」の大胆な決断が、ロゴスの大躍進を生んだ。

「事業転換したのも、生きていくため、存続するためにできることは何でもしようと。それをやっていったら時代が後押ししてくれた」(柴田)



ロゴス流驚きの接客術&異業種タッグで業績アップ

売り上げ好調のロゴスには、それを支えるほかにはない接客術がある。

それを生み出しているのが1冊の接客マニュアルだ。そこには、店に立つスタッフが守るべきさまざまな接客ルールが書かれている。

たとえば「口だけでなく、全身を動かして接客を。」とある。どういうことか、越谷店の田川麻美の動きで見てみよう。

丈夫で長持ちする「たき火台」を探しに来た家族。すると田川は、「たき火台」を棚から降ろして、「ちょっと乗ってみますね」と、その上に。丈夫さを、情報ではなく体験として伝えるのだ。

一方、リクライニング・チェアを勧めるとき、直営本部の大野淳史は「そのまま外に持っていくと、夜空とか見えるので、最高に気持ちいいと話している。自分が使った時の感動を伝えるのもロゴス流だ。

こうした独自の接客で、ロゴスはファンを増やし続けているのだ。

一方、大阪にあるカーディーラー「トヨタカローラ新大阪」名神茨木店は、あることで売り上げを驚異的に伸ばしたという。

「前年比で130%ほど売り上げが上がっております」(角森徳則店長)

その秘密が、店の中にあるロゴスのアウトドア用品コーナーだった。

ここはトヨタのディーラーとロゴスのコラボ店。アウトドア好きには車を、車好きにはアウトドアを提案して、ともに売り上げを伸ばすのが狙いだ。

さすが浪速のアイデアマン。柴田はアウトドアの未来をしっかりと見据えている。



~村上龍の編集後記~

かつて登山は貴族や軍人などエリートのものだった。貧しく不安定な社会では、楽しみで海に潜ったり、極地を探検したり、高い山に登るような余裕がない。

ロゴスは、アウトドアが一般に広がる時代をイメージし、プロ領域とレジャーとの境界を数値化した。海5m以内、山800m以下、明快だ。

ロゴスとはギリシャ語で「言葉・理性」の意味らしい。柴田さんは、「現場」を店頭に限定せず、かつ、詳細な接客マニュアルを作った。言葉と態度が、明記されている。

気軽な楽しみを提供するためには、厳密な思考とロジックが不可欠なのだ。

<出演者略歴>

柴田茂樹(しばた・しげき)1956年、大阪府生まれ。1979年、同志社大学商学部卒業後、スポーツ用品の卸会社に就職。1982年、大三商事(現ロゴス)入社。1998年、ロゴスコーポレーション社長就任。

(2019年8月1日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)