クッションから包丁まで!1日2億円売る男~実演販売のプロ集団/コパ・コーポレーション/読んで分かる「カンブリア宮殿」

1日2億円売る男も~上場した実演販売のプロ集団

いまホームセンタに特設売り場が作られるほどの人気の商品が、座り心地の良さが評判の「Gゼロクッション」。「テレビで紹介されたのを見たことがある」と言う人も多い。

鮮やかな口上とともに商品をアピールするのは、実演販売員のレジェンド松下。テレビでもおなじみの人気者だ。

松下の実演で人気に火がついたこのクッションは累計80万個以上売れた。しかもこの半年、売れ行きがさらに加速しているという。

「コロナの影響で、家で仕事する人が増えたのでガーッと売れた感じがします」(松下)

そんなレジェンド松下が所属しているのがコパ・コーポレーションという会社だ。

本社の壁には専属する32人の実演販売員の写真が並ぶ。そこにレジェンド松下もいた。彼はこの会社の幹部でもある。他にもラショーモン亀山、バンビーナ神村……と、覚えてもらいやすいようにみんなちょっとユニークな名前をつけている。

社長の吉村泰助は「一匹狼の販売員はいっぱいいますが、うちみたいに組織立っているのは、世界でも見たことない。実演販売ではリーディングカンパニーです」と言う。

彼らのホームグランドは店頭やイベント会場。巧みな口上に乗せて調理器具などの生活用品を売り込む。さらにテレビ通販でも活躍中だ。地上波から通販専門チャンネルまで17の番組に出演。いまや、通販業界にはなくてはならない唯一無二の存在なのだ。

知られざる実演販売のビジネスモデルを解明しようとカンブリア宮殿が取り上げたのは、3年前だった。そんなコパ・コーポレーションは今年6月、東証マザーズに上場した。

「証券会社にも、なんでこの時期に上場するんですか、と散々言われた。実は上場は創業以来の悲願だったんです」(吉村)

かつては吉村自身も実演販売員だった。当時、國學院大学の学生だった吉村。実演販売のバイトで度胸をつけるのが、所属していた演劇研究会の伝統だった。1週間で20万円と、当時の大卒初任給並みの売り上げを記録した吉村は、そのまま実演販売のプロとなった。

だが、実演販売をしていると、客から「信用できないな」などと声がかかることもある。当時は、調子のいいことを言って売りつける「宣伝屋」と、蔑まれていた。

「いかがわしいと思われるのは嫌でした。信用力が無かったので非常に悔しい思いをしていました」(吉村)

客にも取引先にも信用してもらえるように、吉村は1998年、会社を設立。実演販売員を育成、組織化し、他に例を見ないプロ集団を作り上げていった。

「これだけのアピール力、販売力があって、あとは信用力さえつければ、どこの会社にも負けないと思ったんです」(吉村)

そんな吉村の一番弟子があのレジェンド松下。この日は、包丁の試し切りをしていた。販売員はみな、商品の特徴をとことんまで突き詰める。

「一回、その商品を極めるというのは絶対重要です。そうしたらいつでもその商品はできるようになる」(松下)

松下の活躍の場はテレビ通販。1日に2億円売ることもある、週に何本もの通販番組に出演する売れっ子だ。

「生放送なので結構自由に動きます。このデモンストレーションはお客の受けがいいとか、情報が入ってくるので」(松下)

24時間放送のテレビ通販専門チャンネルで、午前8時、生放送がスタートした。売るのは、刃物で有名な岐阜・関市のメーカーが作った包丁。特殊なコーティングで切れ味バツグンだ。松下の実演により、1時間の放送で3800を越える注文。3000万円以上を売り上げた。

「ガマの油売り、バナナの叩き売り、レジェンド松下、脈々と流れているんですよ。最も古くて最も新しいのが実演販売。ネット通販だろうがITだろうが、なくならない」(吉村)



商品はこうすれば売れる~実演販売を理論化

実演販売といえば、江戸時代から続くガマの油売りや、寅さんでおなじみのバナナの叩き売りなど、師匠から弟子へ話芸を引き継ぐ伝統芸能のようなものだった。だが吉村は、そんな伝統芸とは一線を画し、客に商品の良さを伝えるまっとうなビジネスを目指した。

教科書まで作った。そこには売り口上を丸暗記するのではなく、商品と客を結びつける方法論が書かれている。

「昔の師弟関係の場合は、先輩が売っている商品しか売れなかったんです。師匠の実演口上のバリエーションでしか売れない」(吉村)

吉村は実演販売を理論化することに取り組んだ。まず、よく売れた商品の実演口上を文字におこしてデータベース化。それを分析して共通点を探り、吉村理論を生み出したのだ。

その理論を実際の現場で見てみた。東急ハンズ渋谷店に設けられた実演販売のコーナー。この日はワッショイ浜が、水だけで落とせる「メーク落としタオル」(2999円、現在は取り扱い終了)を売る。「美容商材売るのは初めて」と言う。

浜は、まだお客がいないのに売り口上を始めた。これは「空卓を打つ」という実演販売の基本テクニック。声を出すことで存在をアピールし、商品に興味があるお客を誘うのだ。

ものの1分もしゃべり続けていると、通りすがりの男性客がチラリ。すかさず「よかったら触ってみてください」と浜。これは、「陣寄せ」というテクニック。お客が話を聞いてくれる距離に引き寄せる。立ち止まってもらえたら、第一関門クリアだ。

ここから吉村が理論化した実演口上がさく裂する。まず「瞬き厳禁、ご注目」と、ひと目で分かるデモンストレーションで視覚に訴える。続いて「ちょっとやってみましょうか?」 と、お客の手にメークを施す。客自身に体験させて、商品の良さを体で実感してもらうテクニックだ。さらに「超極細繊維になっていまして……」と、商品の特徴を詳しく解説。耳から入る情報で知的好奇心を満たし、納得させる。

視覚、聴覚、身体感覚の3つの感覚に訴える実演を組み合わせていくのが、吉村理論だ。

その後もワッショイ浜は体を張って実演。次々と客が引き付けられ、タオルをどんどん手に取っていく。

「何の商品でも、ベースを元に実演販売できるというのが吉村流のすごさです」(浜)

そしてコパ・コーポレーションは、単なる実演販売の派遣ではない。ほとんどの商品は、メーカーから直接仕入れ、小売店などに卸す販売元となっている。だから、どこで売れようと、商品の売り上げがコパに入ってくる仕組みなのだ。

「実演販売のできる卸売業というのがうちの本業なんです。派遣と思われがちなんですけど、弊社が商品を仕入れて、販売店に商品を卸す。当然ながら棚に置くだけでは売れないので、弊社で育てた実演販売士を送り込んで販促活動をする。派遣の部分は全体の売り上げの約7%ぐらいで、商品売り上げが93%です」と、当時の吉村は語っている。



コロナ禍でも売れる!~新時代の販売方法とは?

前回、カンブリア宮殿に登場した後もコパ・コーポレーションは事業を拡大。2018年には東京スカイツリーの商業施設に直営店をオープンした。デモを見ながら買える店で「デモカウ」。毎日、実演販売員が立って商品を売る。ターゲットは地方から東京に来る観光客だ。

売り上げはうなぎ上りで、年商は56億円に達した。また、株式上場により、会社の信用度は格段に上がり、商売もやりやすくなったという。

「皆さんの目の色がちょっと変わりました。各企業さんも話しやすくなったし、安心を与えるので、真摯に聞いてくれるようになりました」(吉村)

だが、コロナショックはコパにも大打撃を与えた。肝心要の実演販売が、飛沫感染を防ぐため、自粛せざるを得なくなってしまったのだ。

「販売士は対面してなんぼの仕事。途方に暮れます」(実演販売士・ルーブル石川)

だが、社長の吉村は新たな策を打っていた。東急ハンズ渋谷店。エアコン用のクリーナーの売り場に映像が流れていた。親子が通り掛かると、販売員が子供に話かけてジャンケン。気付いたお父さんも戻ってきた。

コパの本社から、販売士のホメーテ渋谷がリモートで実演販売をしていたのだ。コパの新たな販売方法には、客足が戻らず苦戦中の東急ハンズ側も期待を寄せている。

「店舗は全国各地にありますので、各店でリモートをつないで、実演販売員の方が各店のお客とやりとりすることが可能になると思います」(東急ハンズ・山田一之さん)

ただし、リモートに対応するには、実演のやり方も変えなければならない。これまでイベントが中心だったというジャンプ中澤も、新たなやり方を模索中。「なるべく商品と触れ合う時間は増やしている」と言う。

一方で、仕事に新たな広がりが。今年4月、コパは新たにユーチューブチャンネルを開設した。すると、企業からコラボしたいという依頼が殺到している。

今回は、大手のパナソニックが新商品の実演動画を作ってほしいと依頼してきた。

「4月に発売したのですが、コロナの影響もあって、新生活に需要がある商品なのに、社会人や学生のデビューがなくなって厳しかったんです。再度ここから盛り上げていきたいと思いお願いしました」(パナソニック・山下恵さん)

その新商品は「Wヘッドアイロン」。その名の通り、前も後ろもとがっているのが特徴。

実演販売に新たな可能性が見えてきた。



売れっ子販売員が発掘~ヒットの裏に知られざる物語

コロナ禍で一段と売り上げを伸ばしている商品が「パルスイクロス」だ。東京・中央区のジュピターショップチャンネル。この日はレジェンド松下がテレビ通販で紹介するとあって40万枚以上用意したが、1日で完売となった。

「1日生放送があって、1億9000万円売れてソールドアウト。やはりステイホームで家にいることが多いので、掃除需要が上がっているのかなと感じました」(松下)

千葉・市原市にあるメーカー「シー・アイ・シー美鈴」が一手に製造しているが、この商品を発掘し、ヒットさせた男こそレジェンド松下だった。

布を使ったクロスは、以前からこのメーカーが独自に商品化していたが、あまり売れなかった。いろいろなメーカーが安い使い捨てのクロスを出していて、その中で埋もれてしまっていた。

「そもそも、たぶん普通に置いてあっても売れない。喋んなきゃ売れない商品。喋るとそういう商品と分かる。まさに実演販売向きの商品です」(松下)

これはいけると確信した松下は、売れる商品にするため、メーカーとともに改良を加えた。まず、縫い目を隠すために、袋状にした。こうすることで縁の部分の拭き残しがなくなる。さらに、掃除が楽しくなるよう、色をカラフルにし、バリエーションも増やした。

およそ5ヵ月をかけて新商品が完成。「パルスイクロス」と名づけ、テレビ通販で実演販売したところ、いきなり生産が追いつかないほど注文が殺到。それまでの3倍の人を雇い、ミシンも増やした。それでも毎日、大量の発注をこなすのにフル回転だという。

「本当にうれしかった。食べていくのがやっとの業績で、パルスイクロスが売れて急にドーンと上がりました。これだけ売っていただいてありがたいです。みんなも喜んでいます」(鈴木美佳社長)

そして最近の大ヒットは、発掘したレジェンドも予想外の商品だった。

一見何の変哲もない眼鏡拭きの布だが、加湿器で曇らせた眼鏡をこの布で拭くだけで曇らなくなる。

「布に曇らない成分がたっぷり含まれている。親水性といってはっ水の逆。水がのるような状態になるので、蒸気を当てても曇らない。24時間効果が持続するので、朝出る前に拭けばその日1日曇らない。300回ぐらい使える」(松下)

「幸せなくもらないメガネふき」と名付けて発売したところ、半年で11万枚以上売れた。

「今はマスクで眼鏡が曇ってしまう人が多い。本当は冬用の商材で発売したが、3月4月以降もすごく売れています」(松下)



~村上龍の編集後記~

上場を果たしたとき、「実演販売士の会社が」と話題になった。あまりリスペクトは感じなかった。みんな知らないのだ。

自分が推す商品は他社のものを含めて徹底的に使い倒す。だから主力アイテムは意外なほど少ないし、調理器具や掃除用具など、商品としては地味なものが多い。優れているところを上手に、正確に指摘して、売る。レジェンド松下の1日の最高売上は2億円を超える。黙って店に並べれば売れる時代ではない。だから小売りは、何とかしなければならないが、どうすればいいのかわからない。コパの快進撃は、続くだろう。

<出演者略歴>

吉村泰助(よしむら・たいすけ)1968年、新潟県生まれ。1990年、國學院大學文学部卒業後、日本シール株式会社専属宣伝販売士として所属。1998年、コパ・コーポレーション設立。

(2020年9月3日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)