2018年のヒットハズキルーペのCMから考える テレビCMの創り方=理央周

特集【テレビCMの傾向に見るマーケティングコミュニケーションのあり方】

Webが進化するにつれて、「最近の10代はテレビを見ない」「YOUTUBERがなりたい職業のランクインに」というようなニュースをよく見るようになった。

今時の10代は、お笑い好きであれば、漫才などのテレビ番組は見るものの、好きな芸人さんたちの情報や、ネタの一つずつなどは、動画サイトで見て情報を収集する。

また、決してITリテラシーが高くない世代の、5、60代以上の層も、見逃したドラマなどは、動画配信サイトで見ていたりと、動画を、テレビではなく、インターネット経由で観るという行動自体が、かなり浸透してきているよう。

今号では、マーケティングコミュニケーションの中で、重要な位置を占めるメディアの、広い意味での、動画を使う広告メディア、特にテレビCMについて考えてみたい。

テレビはインターネットに取って代わられるのか、でなければ、テレビCMはこれからどうあるべきなのか、という視点で考えていく。

2018年のヒットハズキルーペのCMから考えるテレビCMの創り方

2018年に話題になったテレビCMといえば、やはり「世の中の文字は小さすぎて読めない!」と渡辺謙さんが叫ぶ、ハズキルーペだ。

昨年からは、小泉孝太郎さんと武井咲さん、舘ひろしさんが出演し、新しいバージョンが放映された。

放映されていると、思わず意識が向くようなインパクトと、ついつい見てしまう面白さがある。

CM総合研究所発表のCM好感度ランキング(2018年10月後期ランキング)では、2位を獲得し、動画も昨年末段階で、110万回以上再生されているこのCMは、渡辺謙さんのバージョンが第三弾。

このバージョンからは、ハズキルーペの松村謙三会長が陣頭指揮をとっているとのことだ。

先日、あるテレビ番組に出ていた松村会長は、「CMクリエイターに任せると、自分の好きな作品を作りたがる。しかし、大事なことは、自社製品を知ってもらい、買ってもらうことが重要なのだ」という趣旨のことをおっしゃっていた。

まさに、この点が非常に重要な点だ。

私もブランドマネージャー時代に、新製品の市場導入に際して、テレビCMを中心としたキャンペーン実施を、広告代理店の方々にオリエンテーションをして、開発していた。

クリエイターの方の中には、アート思考の方も多く、「かっこいい」CMを作ろう、とする方が多かったことを、私も覚えている。

嗜好品である外国タバコの人気ブランドのCMの時などは、ニューヨークのかっこいい夜景をバックに、当時流行っていた、AORを流し、イメージを植え付ける、というアプローチはあるが、あくまで、既成の商品の場合だ。

新製品の場合は、まず製品そのものを知ってもらわないと、ターゲット層は見向きもしない。私も、何度かクリエイターの方に、ダメ出しを出したものだった。

しかし、これは一方的にクリエイターに問題があるわけではない。広告制作を依頼する、クライアントサイドに問題があることも多々ある。

広告制作、キャンペーン開発などの、マーケティングコミュニケーションに関しては、クライアントサイドからクリエイターサイドに、明確な戦略の説明をしないと、開発サイドもブレてしまう。

製品の特徴は何で、ターゲットは誰で、キャンペーンの到達目標はこれだ、という重要な指標を、クリエイティブブリーフという書式にまとめていた。これは、新製品のあるべき姿を、クリエイターと共有し、共通理解を持つことを目的とする。それを元に製作に入ってもらうことが、「売れる」CM、キャンペン開発には重要だ。

購買に至るまでの顧客心理のフレームワークで有名な、AIDMAの最初のAは、Attention。注目、という意味なのだが、注目させる、目立たせる、という企業視点に加えて、伝える、という顧客視点で考えるべきだ。

なぜなら、顧客は、知らないものは買わないからだ。

かっこいいCMを作ることは悪いことではない。しかし、自社製品の状況において、取るべき戦略がある。

全国的に、知名度がこれから、というハズキルーペは、知名度を上げること、さらに、話題性を作るシンプルでストレートなCMが必要だ、と松村会長は考えたのであろう。

その点をクライアントサイドから、会長直々にブリーフするという点が、このヒットCMにつながったのであろう。

CMだけではなく、ハズキルーペは企業として、顧客視点で販売促進全体を考えることができるDNAを持つ。

日経MJの記事によると、元々は、メガネ売り場や書店などで販売していたとのことだったが、それほど売れ行きも芳しくなかった。

ハズキルーペは、ライフマスターという、シニア層向けの販促会社に依頼。平均年齢64歳のシニア層が社員という企業で、自分達に近い層へのターゲティングや、販路開拓、販路でのサポートが得意とのこと。

ライフマスターは、ハズキルーペの売り場を、家電量販店のテレビやエアコンなどの大型家電売り場の、配送を依頼するカウンターに置いたとのこと。

私もそうなのだが、50歳近くになると、老眼が進み、近くのものが見えにくくなる。配送依頼場所では、伝票に記載するため、細かい文字を読んだり書いたりするのだが、ここで「便利だね、これ」という評判で、初期の頃は売りがついてきた、とのことだ。

ハズキルーペは、拡大鏡である。メガネではないのだ。ということは、メガネとは用途が違う。

「小さすぎる文字が読めない」という顧客が持つ問題を解決するためのものになる。

この顧客視点があるからこそ、他と違う売り場を開拓できたわけだし、あのCMの元にもなっているのだ。

マーケティングは、顧客が持つ問題や課題をすること。そのために必要な顧客視点が、マーケティングコミュニケーションでも出発点になるのだ。

■目次

… 1. 特集「2018年のヒットハズキルーペのCMから考えるテレビCMの創り方」

… 2. コラム「常識からずらしてみるテクニックを身に着けよう」

… 3. 仕事術 「アイコンタクトをする時・しない時」

… 4. おすすめビジネス書「サブスクリプション マーケティング〜再読」

… 5. 著作・イベントのお知らせ

… 6. 編集後記



2.コラム: 常識からずらしてみるテクニックを身に着けよう

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