消えた駅弁13「彩り稲荷寿し/大船駅」

いなり寿司の概念を変えた笑撃的な駅弁だった。

 長方形の発泡材容器には、5個の稲荷寿司と副菜が整然と並んでいる。

 ん? 稲荷寿司? 大きく口を開けた油揚げの中には国産米を使用した酢飯と、デミハンバーグ、エビコーンマヨネーズ和え、鶏の空揚げ、しらす炒め、サケと卵そぼろの5種類のおかずが詰められている。付け合わせはかまぼこ、五目卵焼き、生姜酢漬けのラインナップだ。

 稲荷寿司なのか? 揚げ巻き? カテゴリーなんてどうでもよい、ボリュームもあって楽しい駅弁だった。

「鯵の押寿し」や「しらす弁当」など多くのヒット駅弁を送り出してきた大船軒の調製。あの大船軒がこんな遊び心のある駅弁を販売するなんて、と2013年当時は驚いたものだ。

 どれもこよなくうまかったが、一番は同社自慢のしらす炒めをのせた稲荷寿司。ほどよい塩加減のしらすにごま油で風味をプラスしたもので、さらに甘辛味の油揚げと酢飯を一緒に食べると、交響楽のような味覚のハーモニーを楽しめた。以来、自分でもしらす稲荷を作るようになった。

 ああ、それなのに。気づいたときには売店になかった。電話しても終売と言われた。もう一度食べてみたい駅弁のひとつだ。

 

750円(当時)/大船軒