和歌山駅では、国鉄民営化以前から阪和第一食堂と水了軒(現・和歌山水了軒)の2業者が駅弁を販売していた。長い歴史の成せるワザか、きちんとすみ分けされており、前者は阪和線(2・3番線)、後者は紀勢本線(4・5番線)のホーム上に売店があった。
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「えびずし」は、阪和第一食堂が調製する昭和の名物駅弁だった。白いプラスチック容器の中には、うまそうに赤く染まったエビをのせた握り寿司が6カン。ほかにガリ、レモン、醤油が添えられているだけでおかずはない。
内容がシンプルなだけに、素材には徹底してこだわっていた。シャリは秋田県産あきたこまちを炊いた酢飯、エビは大ぶりで肉厚の天然ものを使っている。
つやつやと色味のよいエビをのせた寿司をつまんで口中にほうり込む。何より感嘆するのはエビの絶妙な茹で加減。天然ものならではの弾力のある食感を見事に残しており、ひと噛みごとに海の幸特有の旨味を味わえる。酢飯との相性も抜群で、少々高めに設定された値段にも納得できた。
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添付されたレモンをしぼり、キューッと酸っぱい汁を食べる前にふりかけておくと、全体の味をよりしゃきっと引き締めてくれる。エビ好きならずとも見逃せない逸品だった。
駅弁ファンならみんな大好きだったこの「えびずし」、2015年ごろに突然ホーム売店を閉じてしまった。え~~っ、聞いてないよー。
しくしくと悲しんでももう「えびずし」は食べられない。今でも時折り夢見る駅弁だ。
1000円(当時)/阪和第一食堂