消えた駅弁14「愛媛甘とろ豚そぼろ弁当/松山駅」

 JR予讃線松山駅の構内、改札口の真正面にワゴンの売店を出していた鈴木弁当店。本当に真正面にあって、改札を通るといつも素通りできずに売店に寄り、駅弁をひとつ、ふたつ買っていた。

その鈴木弁当店廃業のニュースを聞いたのは2018年。ウソだと言って! ショックだ。私の頭の中にある松山駅の風景に駅弁ワゴンは外せない。駅弁を売っていたオジちゃん、オバちゃんの顔もはっきりと覚えている。

「愛媛甘とろ豚そぼろ弁当」は2014年開催の「四国の駅弁選手権」では新作弁当部門に出品され、最優秀賞を獲得した。

 長方形の容器にふたをのせ、弁当名などをプリントした掛け紙を巻いた。中身は、愛媛産の米を炊いたご飯の上に甘とろ豚と卵のそぼろをのせた肉系の弁当で、さらにおかずとして厚揚げ、煮物、わさび漬け、酢の物、オレンジなどを添えている。

 甘とろ豚とは愛媛県産ブラントの豚で、口の中でとろけるような良質の脂身と、旨みがこぼれ出るようなジューシーな肉質が自慢。クセのない味わいと口どけがよくしっとりとした食感が相まって、食べはじめると止まらなくなった。

 卵そぼろもほの甘く、双方が交じり合うほどにうまさが加速する。おかずではニンジンや小芋などを使った煮物の味付けが抜群。故郷の母が作ってくれたような懐かしい味を楽しめた。

 現在は松山駅の名物駅弁だった「醤油めし」が、レシピを受け継いだ岡山の調製元・三好野から運ばれてくる。でも、改札口を通っても駅弁ワゴンはない。さびしい。

840円(当時)/鈴木弁当店