【限定無料公開中】ウーバーに学ぶ多角化戦略/自社独自の事業ドメインから離れてはいけない=理央周

1.特集 「ウーバーに学ぶ多角化戦略」

昨日の日本経済新聞に、配車アプリ大手のウーバーテクノロジーズが、「出前」サービスに進出する、という記事が載っていた。飲食店の料理を宅配サービスするというもので、飲食店と配達員の仲介を、ウーバーがする。出前の注文を受けた、飲食店がアプリで近くの配達員を捜し、依頼し、届けてもらう、というサービスのようだ。これによって、消費者は便利にケータリングを頼めるし、飲食店も、そのためにアルバイトや社員を雇用する必要がなくなる。

ウーバーはなぜ出前配達員をシェアリングするのか?

ウーバーの核になるビジネスは、自家用車による有料の配車サービス。しかし、制限があり、米国で爆発的に広がったように、日本ではなかなか成長することは難しい。このような規制の中で、現状を打破するための、新規事業の立ち上げと言える。

まず、この新規事業の素晴らしさは、自社独自の強みから外れていない点にある。ウーバーテクノロジーの核になる事業は、配車アプリによる送迎。配車アプリという独自の強みを活かしていることが大前提である。次に、送迎という「ヒト」を運ぶ事業を、水平に展開し、「飲食物というモノ」を運ぶ事業を開発した点。大きく、自社の事業ドメインから外れることなく、強みを活かした発想での新規事業と言える。

新規事業立案に必要なこと

経営上、新規事業を立ち上げ、事業規模を拡大することは重要である。しかし、安易に「流行っているから」「売れそうだから」という発想で、新規事業を立ち上げてしまうのは、リスクが大きい。ウーバーの事例から学ぶ、新規事業立ち上げの際に考慮すべき点は、自社独自の強みから離れないこと。その理由の一つは、これまでの経験と蓄積されたノウハウを活用できること。ゼロからの立ち上げよりも、スピードもってできる上に、不確定要素、すなわち、リスクを減らすことができるのだ。もう一点は、自社ブランドなどをマネジメントしていく上で、「親ブランド」の資産、たとえば認知度や、イメージを、てこの原理で、活用することができる。

ウーバーのケースでいえば、「あの送迎をやっているウーバーだから知っていますよ」「使うのも便利そうだね」といった具合である。もちろん、ウーバーにはこれから、「食品を運ぶ際にひっくり返さないようにする」など、運送の品質も問われることになるだろう。しかし、「できなさそう」という、ネガティブな考えも、新規事業を起こす上での、着想を阻害する。そんな声も上がったであろうが、固定観念にとらわれず、やってみるという気概を感じる。

自社独自の強みを活かした、ウーバーのこの新規事業。これからがとても楽しみなのだ。



■目次

1.特集 「ウーバーに学ぶ多角化戦略」

2.コラム「日本舞踊と歌舞伎ソムリエ」

3.書評「ウェブとはすなわち現実世界の未来図である」

4.【NEW!】ワンポイント 時間術

5.著書・イベントのお知らせ

6.編集後記



2.コラム:日本舞踏家と歌舞伎ソムリエの新結合

日本舞踊の西川流家元と歌舞伎ソムリエによる「歌舞伎と日本舞踊」トークセッション

日本舞踊の西川流家元と、歌舞伎ソムリエのおくだ健太郎氏の、「新春歌舞伎と日本舞踊」トークセッションを観に行ったことがある。

不勉強ながら、歌舞伎はともかく、日本舞踊についても、あまり深くは知らなかったのだが、あまりにもわかりやすく説明していただき、肚に落ちたところが多かった。

もともと、東では踊り、西では舞いと言っていたものが、江戸くらいに「舞踊」となったこと、声の抑揚をつけると、通りも良くなり聞き手が聴きやすいことなど、とても多くのトリビアを聞かせていただけた。

やはりこうやって日本の伝統文化に触れると、より深くその良さを知ることができる。そしてさらに「行きたいな」という気になるのだ。

マーケティング活動において、新製品導入をする際も同じことがだが、こうやって多くの人に向けて発信し、「まずは知ってもらうこと」から始めるべきなのだ。ということを実感。日本舞踊や歌舞伎は、食品のように試食もできないし、ネット上でも伝えることが難しい。

西川流さんは、NOSSという、西川流を踊り少しでも体力をつけてもらおうという活動もされている。日本の伝統芸能がこうやって、少しでも広まっていくと、そこからまた海外に向けて、大きな流れが出てくると思う。

名古屋の和菓子の老舗、両口屋さんのお菓子も美味しくいただき、多くの学びを得ることができた体験だった。

3.ビジネスに効く、マーケターのおススメ・ビジネス本

このコラムでは、「仕事につかえる」ビジネス書を紹介していきます。したがって、必ずしも書店に並んでいるベストセラーを紹介するわけではありません。あくまで、「使える」ビジネス書です。マーケターがどういう視点で本を読み、どう仕事に活かしていくのかを参考にすることで、あなたの仕事に活かしてください。

今回の一冊は、「ウェブとはすなわち現実世界の未来図である」

小林弘人氏の描く未来図に共感

ウェブとはすなわち現実世界の未来図である 読了

この本を読み、ネットのオープン性についての「気づき」をもらい、また再びオープン性について考えるいい機会にもなった。

第2章「シェアが生み出す新しい資本主義」では、参加者が何者であるか、が問われるとある。それは、実名で投稿・コメントせよ、という意味でなく、提供する側にもされる側にも継続的に、「信用が担保されているかどうか」が重要になる、ということ。

新しい資本主義、というのはITの発達でSNSが普及し、これまで、リアル店舗やホームページでしかできなかった、モノやサービスの販売、あるいはイベントへの集客が「SNS」を通してできるようになったこと、また、情報を共有する(=シェア)ことが、その商取引をよりスムーズにしていることだと言える。

中小企業や個人事業主が、フェイスブックやインスタグラムを活用する場合に当てはめてみる。

「何者であるかが問われる」ということは、シェアすることによる商取引上において、単に「売る」「稼ぐ」「儲ければいい」ということや、それらの行為を「あおる」ことがより簡単になった。

しかしビジネスと経営には「永続的な成長」が必要である。誰でもシェアできる、ということは「誰が何をやってもいい」ということではない。

SNSやITはいちメディアでしかなく、活用したとしてもに人間が本来持つべき、誠意や顧客への想いを無くしては、もともこもない。

継続するには、自社・自身が「何」を提供し、提供物が顧客に「何を」もたらすかを、明確にせよ、と著者は語っていると解釈した。

第3章にある、顧客の声を可視化するプログラムとして、「マイスターバックス」と、Dellの「アイディアストーム」を上げている点も面白い。

ひいては、日本企業が欧米企業のこのようなオープン化ができない要因の一つに、不要で行き過ぎたインターナル・マーケティング=上司説得型マーケティングを上げている点も興味深い。

企業の規模が大きくなるにつれて出てくる、いわば大企業病だ。

ウェブの進化によるオープン化が進むのだとしても、必ずしもいいことばかりは発生しない。このような反ポジティブな現象も起きてくる。

ウェブが一般的になり始め、まずは礼賛され、今は氾濫しすぎて「おいおい、大丈夫か」という風潮も多分に見られる。

ボクもそうなのだが、著者は私たち人間がウェブを活用し、「ポジティブ」な未来を造ることができる、と言っているように読める。この点、共感できるし、読み心地がいい。

ウェブ礼賛の第2フェイズにこれからなる中でも、読んでおくべき一冊だと思われる。→  http://amzn.to/2cD4y9T

4.ワンポイント 時間術

○ 空気を読む前に「データの行間」を読め!

前号に書いたように、言いにくいことをいいつつメンバー全員の長所を引き出して、最大の結果を出すことがリーダーとしてやるべき使命になる。

もちろん簡単なことではない。その際にはまず結果を出すための目標を常に意識して、「全体最適」を頭に入れて発言をしていくことで、理想の形に持っていくことができるようになる。

ミーティングにおいては、各自が自分立場の利益代表として発言をすることが大半なので、そこばかりを見ていると「部分最適」の集合になってしまう。

それはそれで重視すべき点もあるのでおろそかにしてはならない。中途半端に全体をまとめていこうとすると、参加者各位が持っている専門性や画期的なアイディアも埋もれてしまうので、最後にまとめるべき企画案自体も、エッヂが効いていない凡庸なものになってしまうのだ。

数年前から一般的になっているKY=空気を読めない人については、10代20代の若者の間のみならず、ビジネス・パーソンの間でも時に敬遠されることがあることを感じる。

空気を読むことが重要な場合も多々あるが、物事を引っ張りまとめ上げる過程=プロセスの段階で空気を読みすぎると、最終の結果が「予定調和」に終わってしまうことになりがちである。

物事を決める会議においては、一時的に場の雰囲気を壊すことになっても主張した方がいいことも多い。

もちろん目上の人や得意先の前ではなかなか言い出しにくいことがあるのは当然なので、言いにくいことを言う場合には、まず意見そのものを建設的なトーンで言うこととである。

同じことを主張する場合でも、「それはダメだと思うのでこうしましょう」というよりも、「それはいい意見ですよね。でもこのような見方もあります」といった方がその後の議論が発展をしやすい。

このように、建設的なトーンに加えて「視点を変えてみる」という方法をとることが重要である。

たとえば数字の見方などはその典型的な例で、同じプロジェクトにかかわる数字でも、視点を変えることによって発見できることがある。

私のクライアントさんでの会議の中で、新規顧客を獲得するためにネット通販での広告を実施したことがあった。

その広告は大規模なもので、同一商品で数回出稿をしたのだがその5回目の時に、800人のお客様がその商品を購入した際に、約6割がリピーターの方の購入だった。

「今回は800件中6割が再購入でしたね。意外と新規購入が少なかったです」という発言が出た。

しかし、よく数字を見てみると全体の4割にあたる、240人以上の方々が新たに購入をしていることがわかる。

私は「ちょっと待ってください。今回だけでも240人以上のお客様が新しく御社の商品を買っていますよね。現段階では一度の広告出稿で、これほどの新規のお客様を獲得できる広告はないので、次は表現を変えて同じ媒体に再度出すことも考えに入れましょう」と提案した。

240人もの新規顧客を獲得できる広告媒体は当時他にはほとんどなく、以降継続的に購入してもらえることを計算に入れた場合、十分費用対効果に合う媒体だということがいえた。

この時にはクライアントの社長さんも、いったんは「で、あればこの辺でこの広告は新規獲得には向いていないな」という考えになりそうであった。

この時に場の空気を読みすぎると「そうですね。ではこの広告はこの辺で一度打ち切って様子を見ようか」という結論になりがちである。

しかし、数字を見る視点を、「割合」から「全体の数」に変えてみたので、本来重要である新規顧客の数を把握することができた。

このように、場の空気を読むことに加えて、小説で行間に隠された著者の意図を読みとるように、少しだけ視点を変え数字の行間を読むということについて、常に目を光らせていると、結果につながる次のステップを生み出すことができる。

普段やり慣れていることではないことをすることは容易ではないが、「目標を常に見据えて”結果”を出すこと」を意識していると、新しい視点は生まれるものである。

(次号に続く)

5.著書・イベントのお知らせ

【名古屋】

1.マーケティング寺子屋を開催

東京、名古屋、大阪で講評のマーケティングを半年で身につける、マーケティング寺子屋を開催します。事前に渡す「ワークシート」を用いて、私と一緒に、実践で使える知識を得ていただきます。

詳しくはこちらから

2.11月11日(金) 名古屋フェア成果報告会

今年の7,8月に実施した、ロサンゼルスでの「名古屋フェア」。世界の山ちゃんに長い行列ができた理由を分析し、ビジネス活用するには?という内容を、私のビジネス・パートナーの米国広告代理店社長とお話しします。

詳しくはこちらから

【京都】

10月14日(金)「ポケモンGOに学ぶ売れる仕組み創造講座」

「ポケモンGO」のヒットを、中小企業はどう考えるか?について京都商工会議所で、10月14日に講演します。

- そもそもなぜこれほど話題になったのか?

- 若者市場をどう捉えたのか?

- 中小企業が何を見習うべきかを、

マーケティング的視点で解剖します。

詳細はこちら

理央さんからの紹介、と書いてもらうと、会員価格にしてもらえるとのことです。(フェイスブックなどでのこの割引などの周知はご遠慮ください)

【東京】

10月19日(水)マーケティング基礎~顧客価値からひもとく戦略営業~

分析の仕方や戦略の立て方に加えて、業界の事例を知ることで、新たな気づきを提供します。分かりやすい「座学」でマーケティングの基礎をしっかりと学び、実際に成果を出している企業の事例を知り、ワークで自分の仕事に落とし込みます。

詳しくはこちらから

6.編集後記

最後までお読みいただきありがとうございました。昨日は、愛知県知多半島にある半田市赤レンガ建物という、カブトビールの工場だった跡地で開催された、地域の美味しいものや文化を知る会に参加しました。建物は、日本でも4つしか残っていない、レンガ造りの工場跡。趣も十分でしたし、いただいた地酒や知多牛なども、初めてでしたが、とても美味しく感じました。日本には、まだまだいいもの美味しいものがたくさんあることを、再認識できました。

私はアメリカに留学していたこともあり、こういった日本の「いいもの」を、どんどん海外に出して行きたいと思っています。

このメルマガ、またはマーケティングに関すること、自社の売り上げを上げたいけれどどうしたらいいかわからない、という質問に、理央 周がお答えします。

質問から回答までのステップは:

1.質問を弊社問い合わせフォームで送ってください⇒ http://www.businessjin.com/contact/ または、info@businessjin.com にメールをください。

2.当月末までにいただいた質問に関し、

3.翌月末までに回答を動画でアップし、このメルマガにそのリンク先を掲載しますので、そちらで見てください。

できる限り多くの質問にお答えさせていただきますので、ふるってご応募ください。

ではみなさん、よい週末を!