2018年ヒット番付から見えてくる! 2019年の消費傾向とマーケティングの方向性=理央周

特集【2018年ヒット番付から見えてくる!2019年の消費傾向とマーケティングの方向性】

今年も日経MJ12月5日号で、ヒット商品番付が発表されました。

東の横綱が、今年引退した安室奈美恵さん、西が、動画のSNSアプリのTikTok。

安室さんは毎日のようにテレビやニュースで、TikTokの方も、Youtubeやツイッターなどの、他のSNSでも毎日のように目に触れる、まさに横綱級のヒットでした。

記事にもあったように、平成最後の今年、平成を代表する安室さんと、次の年号に向けて、勢いのあるTikTokの、好対照具合がとても印象的ですよね。

2018年のヒットの本麒麟

横綱もさることながら、大関には、スマホペイとサブスクリプションという、この時代を代表する購買方法と、ビジネスモデルが。市場や環境の流れの速さを表すような順位ですよね。

これら以外にも、ヒット番付には、なかなか特色のあるヒット商品が、ずらり、と並んでいました。マーケターから見ると、近来稀に見るほど、顧客価値を追求している商品が多かったように感じます。

関脇のキリンビールの「本麒麟」は、名のごとく、キリンのフラッグシップになりうるようなブランド。第3のビールなので安く、しかし高アルコールでした。

約30年前に、朝日がスーパードライを出すまで、ビールといえばキリン。圧倒的なシェア1位だったことを覚えています。しかし、一度逆転されてからは、なかなか首位奪回も難しいですが、この夏の猛暑にも助けられ大ヒットとなったようです。

マーケティングの側面から見てみると、まずネーミングの「本麒麟」という、漢字だけを使った点が逆に新しく感じます。

自社のキリンという文字を漢字にしているところからも、企業としての意気込みを感じられます。

さらに、得てしてライト志向になりがちな市場に、伸びてはいるとはいえ、高アルコールで、コクとの見応えをよくする、という本来のビールに近い方向性を取ったことも、ある意味で斬新です。

この大ヒットをひとことで言うなら、「原点回帰」。奇をてらうよりも、王道で勝負する、顧客の嗜好を読み取る、という点がヒットにつながったと言えるでしょう。

その意味では、1本1000円の食パンもヒットしました。安ければ売れる、という考えを抱きがちですが、それは、右肩上がりの経済状況の時で、世の中に多くの種類の商品と情報がないときのこと。同じものであれば、安いほうがいい、という消費行動の結果に過ぎません。

モノがあふれ、どこで何を売っていて、中身が何で、誰が買っているのか、が、見える化される今は、逆に「いいもの」を世に出すこと、食品で言えば美味しいもの、書籍で言えば、内容があるもの、すなわち、マーケティングで言うところのプロダクトです。

顧客視点に置き換えると、顧客が何を価値に感じるか、ということになります。顧客価値はもちろん、プロダクトそのものの良さが、出発点になり、ひいては選ばれる理由になります。

差別化、というのは、競合他社の製品と異なるものを作る、という意味ではなく、顧客が競合よりも自社製品のほうが「価値がある」と、認識してもらうことです。

したがって、この本麒麟のように、自社の強みに原点回帰し、本質的な製品がヒットするのは、至極当然なことといえます。しかし、ここのところビールに限らず、インスタ映えとか、SNSで受けるもの、というような小手先の技術だけで、製品を差別化しようとする傾向があったことも否めません。やはり、本質に立ち返る、ということが重要です。

ZOZOスーツは2018年のヒットなのか?

着て、スマホで写真を撮り、採寸することで、自分にジャストサイズの服が買える、またはぴったりのスーツなどができる、というZOZOスーツも番付に入っていました。

マーケターの私も新しいものは試そう、と感じ、友人たちがSNSに投稿していたこともあり、試しに取り寄せてみました。が、まだ開封もせずにおいてあります。

話題の割には、ヒット商品と呼べるほど売れていたのでしょうか?ZOZOスーツによる売れ行きが好調だ、というニュースはそれほど耳に入ってきません。

巷では、「やはりスーツはオーダーだ」、「リアルで作ってこそ、スーツはいいものができる」という声もよく聞きます。

私は背が低く、手も短いため、オーダーでシャツやスーツを作りますが、確かに、リアルで作るほうがフィット感があるようです。また、テイラーの方のウンチクを聞くことも、オーダーの楽しさの一つです。

一方で、わざわざオーダーする場所まで行かねばならず、しかも、採寸の時と出来上がりチェックと購入の際で、最低でも2回は足を運ばねばなりません。

また、価格も吊るしのものなどよりは少し高めかと思います。

では、ZOZOスーツによるセミオーダーは、不発に終わるのでしょうか?

私はそうは思いません。逆に、先ほど書いたように、顧客が足を運ぶ手間を省き、価格的にもリーズナブル、さらに、買いたい時にオーダーができる、という顧客価値を提供できます。

何よりも、ZOZOスーツによって、ネット通販では難しいと思われていた、オーダーメードの服を作ることを、できるようにしたいという企業努力は素晴らしいと思います。

他がやっていない、新しいことを始めることは簡単ではありません。前例がないのだから、最初からうまくいくわけもありません。なので、完璧なものを最初から作ることよりも、まずはやってみて、徐々に良くしていき、完成とは呼ばずに、さらにどんどん良くしていく、というのが、ネット企業のやり方です。

ITの世界では、まずは試作版を作り、次にα版を作成、次にβ版を、というようにどんどん進化させていきます。Windowsが7から、8、10に進化していくような感じですよね。しかし、いつまでも進化させる、ということを常に考えているので、このような改善の姿勢を「永遠のβ版」と呼びます。

大事なことは、β版で満足しない、顧客満足に終わりがないように、完成版はないのだ、という姿勢を持つことでしょう。

さらにもう一つのIT業界のDNAはスピードです。とにかく競合に先んじて、早く出す、ということを重んじます。この2つがマッチしているのが、IT業界の特徴です。

私はZOZOスーツに関して、「そんなの無理に決まっている」というような、固定観念をモノともせず、やり続けている姿勢が今後につながると思います。

■目次

… 1. 特集「2018年ヒット番付から見えてくる!2019年の消費傾向とマーケティングの方向性」

… 2. コラム「画期的アイディアは、コ・クリエーションで!」

… 3. 仕事術 伝わるの「わ」

… 4. おすすめビジネス書「売り上げの8割を占める優良顧客を逃さない方法」

… 5. 著作・イベントのお知らせ

… 6. 編集後記



コト消費からヒト消費へ〜その本質

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