
試供品を届けに来た明治の宅配サービス〜富山の置き薬にも通じる顧客関係性のマネジメント
フレームワークの復習:CRM
今号のテーマは、前号に続いて「CRM」です。CRMとはCustomer Relationship Managementの頭文字で、顧客情報や購入履歴、行動をもとに、顧客との間の関係性とのマネジメントすることで、顧客の動きを予測し、販売増を狙ったり、新製品開発に活かしたりする考え方です。
アマゾンのレコメンデーションや、航空会社のロイヤルティプログラムなどが、CRM活用の代表的な事例です。
今号では、明治の宅配サービスを事例に、CRMとビジネスモデルの構築の、2つのフレームワークを学んでいただきます。
実践マーケティング入門では、第6章 203ページで説明していますので、より詳細については、参照ください。
わざわざ試供品を届けに来た明治宅配サービス
先日、自宅で仕事をしていたら、明治の宅配サービスの代理店さんが、3種類6個の試供品と、カタログをくださいました。
試供品の中身は、医師が認める宅配ミルク、明治プロビオ R-1のヨーグルト、そのドリンクタイプ3種類を、各2個ずつ、という内容です。
一緒にくれたカタログには、「家族の笑顔を届ける毎日の栄養管理」というキャッチコピーが書かれている、「明治宅配専用商品のご案内」という内容が表紙に書かれています。
中身のコンテンツは、各商品の説明明治の宅配の仕組み注文用紙で、お届けいただいた方は、「1本からでも宅配します」とおっしゃっていました。
Eコマースをはじめとして、現在インターネットを使えば、このように人力を使わなくてもいい時代です。「人力での宅配サービスは効率が悪いのに」「無駄なコストだよね」と考える人も多いかもしれません。
明治宅配サービスの「売れる仕組み]
明治宅配サービスの収益をあげる仕組みがどうなっているかを、まずは考えてみましょう。
1. 無料での試供品を配布
2. 試飲してもらう
3. お客様が良いと思ったら注文
4. その商品については継続購入
5. さらにその商品以外にも買ってもらえる可能性もある
という構造にみてとれます。
1と2によって、「人は知らないものは買わない」「試してみないと買いたくない」という顧客心理上の「バリア」を下げています。
しかも、宅配の人を直接話をして、納得した場合のみ試供品をもらうので、比較的安心して試飲することができます。この点は、「インターネット」ではできない、人間ならでは、の手法です。
この時に、2から3のステップに行くのかが、最初の「目標」です。インターネット通販ではこの数値を「転換」と呼び、転換率を一つの 重要指標(=KPI)に設定します。このケースで言えば、試供品を渡した世帯数のうち、何世帯が契約してくれるか、が、転換率になります。
一度契約をしてくれた方は、辞めるまで継続して宅配を受ける、という契約になるので、4からあとは、獲得予算などが不要になります。また、5のステップで、牛乳を買った人が、ヨーグルトも追加で、継続購入をしてくれると、獲得コストをそれほどかけずに、定期的な売上増が見込めるのです。
このように、顧客の初期投資額を低く(フリー)設定し、徐々に高いもの(プレミアム)を買ってもらう仕組みを、フリーミアムと呼びます。
オンラインゲームで、無料でゲームをダウンロードし、有料で課金アイテムを購入する仕組みと同じです。
この時に重要なことは、初期投資としての、カタログ作成、試供品、配布の人件費を、いつまでに回収できるか、という指標をシミュレーションしておき、3の際の転換率の実績を常に上げて行くように、しっかりと管理することが重要です。
さらに、4以降の継続購入においても、3までとは利益率が高くなりますが、途中解約もあるため、解約率もシミュレーションし、事業計画を立てることが必要です。
中小企業は何を学ぶべきか?
この明治宅配サービスに、中小企業は何を学ぶべきでしょうか?
宅配によるサービスによる継続購入の仕組みで、顧客の固定化し、ロイヤルティ育成につなげることができます。
まず、顧客は知らないものは買わない、という大前提を忘れないことが重要でしょう、
インターネットが浸透している現在、どうしても、インターネットに依存してしまい、物事の効率化を求めてしまう傾向にあります。
しかし、ビジネスは人と人が行うもの。明治では、人がしっかりと説明し、商品の良さを説明することで、定期契約を促しているのです。
これは、一度買った顧客についても、同じことが言えます。
宅配を届ける時に訪問することで、各顧客の顔や様子もうかがえるはずです。その際に、「お嬢さんに追加でヨーグルトもどうですか?」と新製品を試してもらうこともできますし、もちろん現在買っているものと、同じ商品の増量も期待できます。
このようなビジネスモデルとやり方は、富山の置き薬(配置薬)と共通します。
私が子供の頃には一般的でしたが、家に常備薬を入れておく薬箱があり、薬売りの方が、そこまでに使った分だけを、補充しに訪問をしてくれる、という立て付けの仕組みです。
今は、人件費などもあり、減少傾向にあるようですが、顧客ニーズと必要数量を把握でき、継続購入にもなる秀逸な仕組みです。
さらに、一旦自社の薬箱を置いてもらったら、他の薬局などで、その常備薬、例えば風邪薬や胃腸薬を買うことはないため、顧客に浮気をされません。
この意味では、プリンター機器を買うと、インクが自社のものを継続購入してもらえたり、髭剃りの柄を買ってもらうと、ブレードを継続購入してもらえる、レーザーブレードのビジネスモデルでもあります。
顧客のニーズを直接聞ける、さらに、売ったら売りっぱなしということではなく、一度以上購入してくださるお客様は、重要顧客であること、そして、重要顧客にサービスを自らが提供する、という原点に立ち返ることを、再認識できます。
■目次
… 1. 特集「明治の宅配サービスと富山の置き薬に学ぶCRM」
… 2. コラム 「「新結合」は身近なところに」
… 3. 時間術「アナログに終わりデジタルに終わる」
… 4. 著作・イベントのお知らせ
… 5. 編集後記