日本はまだ圧倒的にガソリン自動車が主流で、電気自動車(EV)へ大転換する気配は見えていない。しかし世界は違う。着々とEV車へと動いており、自動車産業に革命的変化を起こす可能性すらささやかれている。日本と世界のEV車への動きはあまりにも違っている。日本は遅れていて大丈夫なのか。世界の動きと日本の実情を比べてみた。
ガソリン車からEVへの転換を表明しているのは欧州と中国が中心だ。今年夏、イギリスとフランス政府が2040年までにディーゼル車やガソリン車の新車販売を禁止すると発表し、世界を驚かせた。
今年9月初旬にドイツで開かれた「フランクフルト国際モーターショー」では、欧州の自動車メーカー各社はEV車の品揃えを大幅に増やす方針を相次いで明らかにした。例えばドイツのBMWは、モーターショーにスポーツカータイプや19年発売予定の「MINI(ミニ)」のEVなどを出品。同じくドイツのVW(フォルクスワーゲン)もEVの試作車を出品した。
―欧州、中国はEVにシフトへ―
2017年現在、EVのシェアが高い国は圧倒的にヨーロッパで、首位はノルウェーの28.8%、2位はオランダの6.4%、次いでスウェーデン3.4%、フランス1.5%、イギリス1.4%などとなっている。アメリカは0.9%、ドイツは0.7%、日本は0.6%と低い。アメリカではEVメーカーのテスラが急成長しており、GMの「シボレー・ボルト」なども伸びているという。日本では三菱自動車が世界初の量産電気自動車「i-MiEV(アイミーブ)」を発表するなど健闘しているが、欧州の勢いの比ではない。
調査会社のIHSマークイット社によると2016年の世界の自動車販売台数は9311万台で、うちガソリン車76%、ディーゼル車20%、ハイブリッド車2.6%でEV車はまだ0.5%でしかない。しかし2025年になると同調査で販売台数が1億1034万台と予測し、うちガソリン車は54%に急落。ディーゼル車も14%で、ガソリンと電気を使うハイブリッド車が23%、EVは3.4%になるという。
―背景は中国の環境問題―
こうしたEV車への移行の背景にあるのは環境問題だ。英・仏は2040年までにガソリン、ディーゼル車を禁止したのも、中国が国内の環境問題対策からCO2を排出するガソリン車の規制方針を打ち出しているからだ。中国は今年天津で開いた自動車産業フォーラムで「中国もガソリン車やディーゼル車を規制するロードマップ(計画表)を作る」と発表。当面はEVや プラグインハイブリッド(PHV)を中心とする新エネルギー車(NEV)に力を入れてゆくと発表している。中長期計画によると、2016年には50万台だったNEVを25年には700万台にしたいとしている。
中国の自動車新車販売は2016年で2800万台。アメリカの1.6倍、日本の5.6倍にあたり、今後の自動車市場の中心は中国になることが確実だ。このため独VWや米フォード社、米テスラ社も中国との合弁会社を設立。現地生産を決めている。また中国も外資の出資規制を緩和し、公害規制に本格的に乗り出す方針とされる。いわば今後の大市場となる中国の方針転換が目ざとい欧州車などのガソリン、ディーゼル車の廃止方向へと動かしているのだ。
日本はルノー・日産グループがいち早く中国市場に電気自動車の投入をはかっており、ホンダがこれに続いているが、まだ日本勢の存在感は小さい。肝心のトヨタが電気とガソリンエンジンを組み合わせたハイブリッド車で一時世界を席巻し始めたが、ハイブリッド車は新エネルギー車と認められないため、トヨタも中国へ電気自動車の攻勢をかける体制を組み始めた。
―部品メーカーも大構造変化へ―
ただ、本格的にEV車が中心になってくるとこれまでのガソリン車中心だった自動車産業の構造が大転換することになる。これまではガソリンエンジンが自動車を動かす柱になっていたため、ガソリンエンジンのための自動車部品の研究がずっと続けられていたし、自動車関連メーカーは部品メーカーの存在なくして成り立たなかった。
ガソリン車の部品は一台あたり3~4万点前後になるといわれ、自動車産業の膨大な裾野を作っていた。それがEVになると部品点数は半分位に減るといわれ、形や構造もガソリン車とは一変するだろうという。当然ながら部品メーカーの集約やリストラも起こってくることになる。また、従来の部品メーカーだけでなくすでにテスラとリチウムイオン電池を共同開発しているパナソニックのように電機業界の参入も考えられるし、現にグーグルなどが参入する方針を明らかにしている。
―自動車産業の構造革命だ!―
電気自動車に変わってゆくことは、これまでの自動車業界の地図を大きく塗り変え、部品メーカーの淘汰が起こってくることを意味しよう。また従来とは部品の形や構造も変わってくるので自動車のスタイリングにまで変化を及ぼすことになる。この大変革にいち早く目をつけ、新しい自動車の形をどのようにして目指すのか――日本の自動車業界は大変な変動の中に巻き込まれることになる。
また従来のガソリンスタンドも縮小、廃止され電気を注入するスタンドや、電池を取り換えて走る車も出てこよう。となるとスタンドはガソリンを入れるよりもEV用の電池を供給する場になるかもしれない。おそらく20~30年後の自動車のあり方、形状、産業は大変化を遂げよう。どの社が今から変化の動きをかぎつけて準備してゆくか――自動車業界は電機業界も巻き込んで大動乱、大変革の時代を迎えることになりそうだ。
なお。日本国内で電動車といえばゴルフ場のカート、遊園地の子供用カーとなどが実用化されているが、長距離は走れないし、修理も現在の車の修理工場でできるかどうかも覚束(おぼつか)ないのではないか。自動車業界にとっては大変ではあるが、電機業界と共に大チャンスの時代がくるかもしれない。
【TSR情報 2017年10月4日】
※画像:MINI 電気自動車特設サイト
◆お知らせ
・ウズベキスタン協会記念シンポジウム 「動乱のアジア どうする日本 ─米朝衝突、習近平・中国など─」開催のお知らせ
恒例のウズベキスタン協会のシンポジウムを11月15日(水)午後6時半~8時半、日比谷公園内の日比谷図書文化館大ホール(旧日比谷図書館)で行います。
緊迫する北朝鮮情勢と米朝関係、本当に戦争が引き起こされるか、10月に行なわれる中国共産党大会で中国はどんな方針を打ち出すのか、日本は“圧力”一辺倒の方針で正しいのか──今年はアジアの行方が気になります。そこで、朝鮮半島情勢、米朝関係に詳しい重村智計氏(元早稲田大学教授。毎日新聞記者としてソウル特派員、ワシントン特派員、論説委員などを歴任)、米欧、北朝鮮の第一人者田中均氏(日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長・元外務省)、
中国が専門の富坂聡氏(拓殖大学海外事情研究所 教授、ジャーナリスト)をゲストにお招きし、じっくり掘り下げた討論会にしたいと考えています。
秋の夜長に日本をとりまく情勢、日本の行方を考えるよすがにしていただければと思っています。お早めにお申し込み下さい。多くの方のお越しをお待ちしております。 詳細は以下URLを参照下さい。
http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/201710061
・8日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)
ゲスト:沼津港深海水族館館長の石垣幸二様
「海の手配師」と呼ばれ、国内はもとより世界各地から海洋生物の受注を受け、捕獲から発送までを請け負うビジネスについてお伺いする予定です。
http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20171006