1. 特集 「ラオックスの苦戦に学ぶ顧客獲得戦略」
【インバウンド需要はもう終わりなのか?】
インバウンド需要で名をはせたラオックスが苦戦している。2014年度に14年ぶりとなる黒字化を達成し、さらに2015年度には、過去最高純利益となる80億円を達成したことも記憶に新しい。
しかし、
「2016年12月期の中間期(1〜6月)の売上高は350億円と前年同期比2割強の減少。純利益に至っては、店舗整理損などもあり、4.6億円の赤字に転落した」
(東洋経済オンラインの記事より)
長年の赤字を黒字に転換させ、順調だったラオックスの業績は、なぜ、このように失速したのだろうか?
「爆買い」などと呼ばれたインバウンド需要から考えてみたい。観光庁の試算では、訪日客数は2020年に2000万人になるのこと。現在約1500万人と言われているので、増加傾向にあるといえる。この数字から見ても、訪日客がショッピングをする、という潜在需要、すなわち、市場そのものはありそうだ。
では、ラオックスがここまでとってきた戦略を振り返ってみたい。
プロダクト(製品やサービス)について、自社の最大の強みである「免税」に特化したことは、基本的な戦略として正しい。
さらに、増加するインバウンド需要に対して、ターゲットを、アジア系観光客を中心に「絞り込んだ」点も正しいと言えそうだ。ここまではセオリーから、外れてはいない。
【考えるべき顧客の創造の仕組み】
自社の強みに特化したサービスとターゲティングをしている中で、それぞれをもう少し深く考えてみよう。来日する人数は増えている中で、観光客が「日本で何を買う」のか?
「免税品」である。
通常は税金がかかる家電製品や時計などを、免税で買うことができる、というのが免税店で買うメリットだ。免税品店である、とアピールすると、価格や品ぞろえが、選ばれる上での「決めて」になる。
海外でのショッピングにおいて、どちらも非常に重要なことなのだが、この2点はエントリーバリアが低い。「真似されやすい」のだ。
ツアーに組み込まれるなどして、最初は行ってみようとなるであろうが、次にはつながりにくく、一過性になってしまう。このメルマガでも詳しく書いてきたように、「リピート」してくれる顧客が最も重要である。
短期間で、同じ国に観光をしに行くことはけして多いことではないので、観光客はなかなかリピートしてくれない。インバウンド需要とは、一見さんが多く、リピートでの購入を促すのは、容易ではない顧客層と言える。
では、インバウンド需要の取り込みはそもそも間違いなのだろうか?一概にそうとは言えない。
私もそうなのだが、海外に旅行に行くときには、自分の旅程や、エンタテイメント、買い物の場所やレストランについて、かなり広く深く調べる。以前ではガイドブックがメインだったが、今ではネット検索も活用する。
そんな中で、決定を左右するのが「クチコミ」である。人は、広告や販売者の言うことよりも、第三者を信じる。
お客さんが、
「美味しい」
「言ってよかった」
というコメントに心を動かされるのだ。
クチコミの評価が高ければ、数ある選択肢の中から、「選ばれる」確率はぐんと高まるのだ。
【クチコミを拡散させる社員からのコミュニケーション】
クチコミは、「人の心が動く時」に発生する。ほんのちょっとした感動からである。
ラオックスのような免税店の例でいえば、
「使い勝手の違いを、店員さんが親切に対応してくれた」
「帰国してからの保証が、他の店より長かった」
「どの店に行っても、ドリンクのサービスがある」
といった、小さなサービスの積み重ねがクチコミになる。
アジア諸国でも、SNSは一般化している。
インバウンド需要を取り込むための顧客化戦略は、継続購入だけでなく、「拡散購入」の促進と言えるだろう。
この点は、私たち中小企業にも同じことが言える。クチコミをしてもらえるような、独自のサービスや、従業員の心遣いは、経営者の想い、すなわち、経営理念が、どれだけ自社の内部に浸透しているかによって、大きく左右される。
社員が、顧客の期待を超えるコミュニケーションができるようにするには、
1. 経営理念を明文化する
2. 顧客が感じる価値を明確にする
3. 毎日、社内で徹底的に繰り返す
という、アナログ的な行動の繰り返しで、社内に浸透させていくことが、最初のステップだ。
これによって、社員のDNAをお客様目線に変えていくことで、気づきが生まれ、コミュニケーションが次にステージに移行する。
■目次
… 1. 特集 「インバウンド需要はもう終わりなのか?ラオックスに学ぶ顧客戦略」
… 2. コラム「起業家同士のコラボレーション」
… 3. 書評「世界に冠たる中小企業」
… 4. 【NEW!】ワンポイント 時間術
… 5. 著書・イベントのお知らせ
… 6.編集後記