『バジリスク ~甲賀忍法帖~』は2005年に放送された全24話のテレビアニメーションである。アニメーション制作はGONZO。監督はこれが第1作目となる木崎文智、助監督は西本由紀夫、シリーズ構成はむとうやすゆき、キャラクターデザインと総作画監督は千葉道徳、美術監督は池田繁美という布陣で濃厚なビジュアル化が進められた。
本作にはふたつの原作が存在する。直接の原作は、せがわまさきによる同題の漫画。『ヤングマガジンアッパーズ』(講談社刊)に2003年から連載され、全5巻の単行本(ヤンマガKC/講談社刊)にまとめられ、2004年に第28回講談社漫画賞一般部門を受賞している。この漫画が原作としたのが山田風太郎の小説「甲賀忍法帖」で、1958年の月刊誌「面白倶楽部」(光文社刊)に約1年にわたって連載され、以後単行本、文庫本で何度となく再刊されたロングセラーである。
山田風太郎は高度経済成長期(昭和30年代から40年代前半)、数々の推理小説・伝奇小説など娯楽性の強い作風で流行作家となった小説家である。特に『魔界転生』を含む「忍法帖シリーズ」と呼ばれる一連の作品群は、破天荒な忍術や個性的な集団戦、あるいは伝奇的な要素や異形の者たちの激闘で大ブームを起こし、日本のエンターテインメント作品の基礎を築いた。そして「甲賀忍法帖」こそは、その記念すべき第1作であり、原点中の原点と呼べる作品なのである。
人別帖に記載された甲賀と伊賀の手練れの忍びたち十人対十人で忍法合戦を行い、生き残りによって徳川家の世継ぎ問題に決着をもたらす。このシンプルな物語構造は数々の映画や小説に影響を与え、少年漫画の必殺技をもつチームの集団戦なども含め、今日ではひとつの「定型」となっている。
その状況をふまえたとき、せがわまさきの『バジリスク ~甲賀忍法帖~』は小説の初出から半世紀近くを経て、21世紀的な解釈でコミックという形式であらためてこの娯楽の原点をとらえなおし、未来に向けて語り直した快作と位置づけられる。半世紀の間に発展した内外の特殊なビジュアル文化をふまえ、奇抜な体躯の忍者たちのキャラは絵柄の説得力に裏打ちされた押し出しを獲得。婚約していながらも一族をあげて殺しあう運命となった甲賀弦之介と伊賀の朧の悲恋のドラマも強調されている。
これを映像化したアニメ版では、毎週放送されるテレビシリーズの長い時間と映像独特の表現を存分に活かし、両原作のもつエッセンスを引き継いだうえで、特質をさらに研ぎ澄ますようなアレンジがほどこされた。上意下達の掟に縛られて政争の道具にされてしまう忍びたちは、社会制度上の身分の低さ、特殊攻撃力の与える恐怖にも関わらず「人」の心を強く見せる。忍法アクションや心理戦、もつれあう恋心といった娯楽性の高い物語中で、人が人である限り変わらぬ本質を、美しい色彩や背景美術、独特の照明を意識した撮影効果など、映像としてのテクニックを駆使してとことん追求したのが、このアニメ版の特色と言える。
さらにこの物語に鮮烈な印象を与えるのは「音の世界」だ。音響監督の塩屋翼のもとに結集したキャスト陣は、甲賀弦之介役の鳥海浩輔、朧役の水樹奈々と主演の二人を中心に新鮮な演技を見せ、手練れの忍者や徳川家の面々などはベテラン陣が渋く固める。まさに声の面でも「秘術合戦」が展開するかのごとき重厚な演技に、中川孝の音楽が時に激しく時に切々と情感を乗せる。これに山田風太郎作品の「忍法帖シリーズ」で知られる陰陽座のオープニングテーマ『甲賀忍法帖』と、水樹奈々のエンディングテーマ『WILD EYES』、『ヒメムラサキ』が加わることで、半世紀前から連綿と語り継がれてきたこの物語は、さらに新たなステージに昇華した感がある。
こうしたプロセスで原作の濃度を高め、スタッフ・キャストの情念が随所に練りこまれた本作は、あらためて「娯楽の原点」と呼べる地位を獲得したのではないだろうか。二十名の気高くも哀しき忍者たちが放つ比類なき魂の「濃さ」を、今回のBlu-ray Disc化の高画質・高音質でぜひとも全身で浴びるようにして味わっていただきたい。
※無署名原稿
【2009年12月14日脱稿】初出:『バジリスク ~甲賀忍法帖~ Blu-ray Disc BOX』用原稿(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/GONZO)