アメリカ第一の綻びも?

 トランプ大統領は頑固で、一度言い出したら滅多に自説を引っ込めない。安倍首相は4月下旬、アメリカのTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への復帰を促したが、トランプ大統領の返事は案の定「NO」だった。安倍首相はゴルフ外交で気分を解きほぐしてからと考えたようだが、まるで通じなかった。

 そこで安倍首相は、日米の貿易、投資を拡大し自由で開かれたインド太平洋地域の経済発展を実現するため茂木敏充経済再生担当相と米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表による新たな協議を始めたいと持ちかけた。新協議はスタートすることになったものの、トランプ大統領はその時も巨額のアメリカの対日貿易赤字について言及し、日本市場に障壁があると強い不満を表明した。日本に対するアメリカによる鉄鋼アルミニウムの輸入制限についても二国間協議で合意に達しない限り輸入制限を除外しないと言明した。

 アメリカの貿易赤字は、2017年で7962億ドルに達し、うち中国が47%を占めている。日本、メキシコ、ドイツはいずれも8%台だが、日本からアメリカへの主な輸出品目は自動車が全体の30.4%を占め、次いで一般機械(22.5%)、電気機器13.5%──などとなっている。アメリカから日本への輸出では牛肉が最大の目標だが、アメリカ産の関税は38・5%と高く、TPP参加国のオーストラリアの関税は最終的に9%まで下がる可能性が高くこのままだと米国産牛肉は豪州産に負けてしまう。日本としては日米二国間交渉で言いなりになるか、あくまでもTPPの正論で押すか、また厄介な選択を迫られそうだ。

 二国間交渉になると、アメリカは軍事力、経済力、政治力などを利用して優位な立場を取れる。過去の貿易交渉でも日本側が自主的に規制したり、課徴金を払うなどして常にアメリカの主張に泣かされてきた。

 現在の貿易交渉はアメリカと中国の間でも知的財産、自動車、農産品などでぶつかり合っている。かつての自由貿易主義の旗頭だったアメリカは、トランプ政権になってから"アメリカ・ファースト"を唱え、自由貿易原則などを顧みなくなっている。アメリカが保護主義的政策を取り、中国が自由貿易を主張するなど立場が入れ替わったりしているのだ。

 しかも中国は一帯一路構想、上海協力機構、アジアインフラ投資銀行創設、インド洋周辺国への援助、EUとの貿易拡大など大きな構想力で世界を取り込もうとしている。

 むろん中国の強引なやり方に反発も強いが、アメリカはいつまでアメリカ第一を貫けるか、ここ1年が米中貿易・経済戦争の勝負どころとなろう。

【財界 2018年6月12日号 第472回】

◆お知らせ

・会長を務める日本ウズベキスタン協会設立20周年を記念した総会を6月16日(土)に開催。2月に赴任されたばかりの新ウズベク大使やウズベク語講座の講師をお迎えしてウズベクの生活や料理などについて伺います。一般の方の参加も可能です。残席がございますので、多くの方のご参加をお待ちしております。

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/201805151 

・日曜(17日) TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』21:30から

 大ヒット曲「石狩挽歌」や「終着駅」などで知られる作曲家の浜圭介さんを迎え、50年あまりの作曲家人生について伺う。

 https://www.tbsradio.jp/262128

 10日のTBS「クレイジージャーニー」やウルトラマンや特撮好きとしてもよく知られている、東京大学総合研究博物館教授の遠藤秀紀様をお迎えした二夜目の音源も来週水曜正午までの期間限定で音源を配信中

 遺体との格闘であり遺体の中に手を入れて触ってみないと分からない発見や、死体を見る解剖学は、過度の経済合理性優先の圧力で、研究対象となる資料や標本の維持がきわめて難しくなっていると云う現状についてお伺いいたしました。

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20180611