米中摩擦に日本の出番は?

 私が毎日新聞のワシントン特派員だった1980年代前半は、日米経済摩擦問題で明け暮れる日々だった。連日アメリカの上院・下院では日米摩擦の公聴会、議員提案が行なわれ、私は連日議会に張り付いた。当初の繊維摩擦に始まり、機械、テレビ、自動車、半導体までヤリ玉に挙げられ、通産省(当時)の補助金支給や日本人は、時間外労賃をもらわずに働きすぎているという非難もあった。要するに不公正な貿易競争でアメリカに洪水的輸出を行ない、そのためアメリカメーカーが不当な日本の輸出で傷ついているというものだった。 

 そこで毎日支局では、米国の主張が正しいかどうか、全米の地方をまわり「草の根の日米摩擦」と題する連載を行なった。私がデトロイトの全米自動車労組の事務所を訪ねた際には、駐車場に日本製自動車が沢山並んでいた。 

「あなた方は日本の自動車輸出を非難するが駐車場には日本車が沢山並んでいるではないか」と問い質すと、「あれはいい車だから乗っているんだ。私らが非難しているのは補助金を出すなど不公正な貿易について文句を言っているのだ」と主張したので「今や日本ではあなた方のいうような不公正な貿易、輸出はしていない」と、反論すると「それなら問題ない」とあっさり理解してくれた。その後、日本の主張を理解するようになり日米合弁事業などが盛んになった。

 いま、米中間で自動車摩擦が激化し両国で貿易戦争が始まるような兆しがみえている。アメリカは通商法301条に基づき鉄鋼、アルミ、産業用ロボなど1300品目に25%の関税を課す対中制裁を発表。すると中国は世界貿易機関(WTO)に同じ規模、同じ強度の報復措置を行なうと応じ、「米国のやり方は典型的な単独主義で保護貿易主義。中国は激しく責任を問い、断固として反対する」と一歩も引かない構えを見せた。 

 世界一、二位の貿易、経済大国の衝突に世界は驚き、株や為替は乱高下して世界の商品市況にも影響が出始めている。中国はアメリカからの輸入も多いため、米中対立にはアメリカ企業や農業関係者も本音では困惑しているという。 

 50年前の日米摩擦の時は、日本が自主的に輸出を規制するなどしてアメリカの軍門に下ったが、中国は今のところ自らの正当性を主張している。それどころか報復関税としてアメリカからの輸入品に最高25%の高関税をかける(約30億ドル分)と対抗の構えも見せている。このまま直ちに両国の貿易戦争に発展するとは思えないが、経済摩擦の経験が多く第三位の経済大国・日本は傍観者として見過ごすだけだと、ますます世界における存在感が縮小してゆくことになろう。

【財界 2018年春季特大号 第470回】

画像は嶌が米・ワシントン特派員時代にアメリカで撮影した自動車工場の様子

◆お知らせ

・13日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』

 ゲスト:NHKドラマ「マチ工場のオンナ」の原作を書かれたダイヤ精機社長の諏訪貴子様 二夜目音源掲載

 社員たちから「あなた以外、後継者はいない」と請われ、親の町工場の事業継承を決意。当初の経営難を脱し、若手職人の養成に尽力した上、リーマン・ショックも乗り越え黒字化を果たすなど、その手腕が注目を集めるようになるまでにつきお伺いしました。音源は、来週水曜正午までの限定公開にて番組サイトでお聞きいただけます。

 前回の32歳で育児やパートに追われる主婦だった諏訪様が、父親の求めで親の町工場に2度入社し、2度解雇された経緯など波瀾万丈人生について伺った音源は番組サイトにて明日正午までお聞きいただけます。

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20180514

 次回(20日)は元旋盤工で作家の小関智弘様をお迎えいたします。