あなたが「UBERのCEO」ならばどうするか?

今回のリアルタイムケース

あなたがUBERのCEOならば世界中でバッシングを受けるなか、いかにサービスの質向上・維持を図るか?



今回二本目のケーススタディは、スマートフォンアプリを通じて世界57か国にタクシー・ハイヤーのオンデマンド配車サービスを展開しているUBERです。UBERは展開エリアを年々拡大し、利用者は爆発的に増加しています。一方、その新しいビジネスモデルは各国の法制度や既存事業者との間に軋轢も生んでいます。もし、あなたがUBERのCEOであったならこの局面をどう乗り越えますか? UBERの課題と戦略について考えてみましょう。

# 現在のUBERの課題とは何でしょうか?

# その課題を解決する施策には何が挙げられるでしょうか?



# 企業情報





次からはBBT大学学長・大前研一による「課題と戦略」案が続きます。

経営に正解はありません。ページをめくる前に、あなたが経営者であったならどうするか、もう一度考えてみてください。



BBT-Analyze:大前研一はこう考える 〜もしも私がUBERのCEOだったら〜

※本解説は2015/1/4 BBT放送のRTOCS®を基に編集・収録しています。



大前の考える今回のケースにおける課題とは

 スマートフォン(以下スマホ)アプリを用いて世界各地でタクシーの配車サービスを展開するUBER。急成長を遂げ、設立からわずか5年の2014年12月には企業価値にして400億ドルといわれるようになった。一方で、安全管理責任や旅客運送法を回避するビジネスモデルが各国で問題視され、世界中で提訴や営業停止処分を受けている。この安全管理と法制度の問題を如何に適正化し、サービスの質を向上・拡大を図るかが課題となっている。





◆急成長に伴いトラブル多発。渦中のUBERとは?

#乗客とタクシードライバーをマッチングするアプリ事業

 今回取り上げるUBERは、サンフランシスコで2009年に設立しました。事業概要はスマホアプリを用いたタクシーの配車サービス。GPS機能を使い、タクシーに乗りたいと思っている乗客と、UBERが契約しているタクシードライバーとを、クラウドを介して直接マッチングさせるシステムを提供しています。

 乗客はあらかじめアプリをダウンロードしてユーザー登録しておき、タクシーが必要な際にスマホのアプリ画面から配車を依頼します。すると乗客から最も近いタクシードライバーが送迎・運送に向かう、という仕組みです。ドライバーは乗客が支払った運賃の2割をUBERに納めます(図−1)。



#各国で提訴や営業停止処分を受けている

 [図−2/UBERのサービス展開都市数]に示されるように、サービス開始からわずか5年で世界53カ国、254都市でサービス展開するまでに急成長を遂げました。2014年12月の資金調達ラウンドにおける評価額では、企業価値にして400億ドル=約4.8兆円ともいわれていました。

 しかしこの急拡大に伴って様々なトラブルも多発し、安全管理や旅客運送法 上の問題から、各国で提訴や営業停止処分を受けることになりました。図−3は2014年中にUBERが提訴・行政処分を受けた国および地域です。デンマーク、ノルウェー、カナダなどでは、当局から提訴される事態に。各国のタクシー業界からも反発が強く、まさしくバッシングの渦中にいるのです。





◆旅客運送法上の問題、安全管理上の問題…浮き彫りになるUBERの実情

#ライセンスを持たない自家用車との契約も

 UBERはなぜ、ここまで問題視されているのでしょうか。

 多くの国では“客を乗せて運賃を得る”ためのライセンス、日本における「第二種運転免許 」にあたるものがあります。しかし、UBERはそのライセンスを持たないドライバーとも契約を交わし、UBER自身も旅客運送業のライセンスを持っていません。つまり、ライセンスの有無にかかわらず自家用車やレンタカーを用いてドライバーとして参入してくる人が後を絶たず、これが旅客運送法上の問題となっています。

 また、サービスの品質管理の責任、ドライバーの管理責任、車両の調達・管理責任、実車中に起きた事故の賠償責任、タクシーを走らせながら乗客を探す、いわゆる“流し中”に起きた事故の賠償責任……これらすべての責任の所在が曖昧です。UBERとしては、責任は企業側ではなくドライバーにあると定めています。これら「安全管理責任」と「旅客運送法」を回避するビジネスモデルが各国で問題視されています。(図−4)





#トラブル時に安全管理責任・賠償責任を回避

 具体的にはどのようなトラブルが発生しているか、[図−5/UBER契約ドライバーによる事故・事件]を見てみましょう。

 2013年にサンフランシスコで、契約ドライバーがUBERの端末操作をしている最中に死亡事故を起こしました。当然ドライバーは起訴され、UBERの責任も審査されましたが、この審査に対してUBERは、空車時における事故の責任は自らにないと主張しました。

 また2014年にインドのニューデリーで、UBERの契約ドライバーが乗客に対して強姦事件を起こした際、UBERは捜査には協力姿勢を示すも、賠償責任については一切言及しませんでした。こうした、安全管理責任・賠償責任を回避するサービス形態を、各国の行政当局が問題視しているのです。





#リスク管理能力の低さがユーザーのリスク負担を増加させる

 一般的な法人タクシーとUBERは安全管理責任の所在が決定的に異なります。法人タクシーの場合、先ほど述べたサービスの品質管理やドライバーの管理といった安全管理上の責任はその事業者が負います。ですから当然、リスク管理能力は高くなります。一方、UBERは安全管理上の責任はドライバーが負うとしている。となればUBERのリスク管理能力も責任意識も低くなり、結果としてユーザーにリスクが転嫁される可能性が大きくなります。(図−6)

 ちなみにニューヨークでは、ドライバーが高額を払って「メダリオン」と呼ばれるタクシーの営業ライセンスを取得します。少しでも違反をすればライセンスが剥奪されますので、ライセンスを担保にサービスの品質やドライバーの質が守られるという仕組みになっています。





#安全管理体制の構築を理由に乗車運賃を上乗せ!?

 では、すべての安全管理上の責任はドライバーにあるとしながら、UBERがきちんと契約ドライバーの適性検査を行っているのかというと、それもしていません。身元の確認もインターネット頼りで、非常にずさんでした。この点に関してはインドでの事件を受け、安全への取り組みが必要であるとしたうえで、ドライバー採用改善に関するロードマップをUBERの安全担当責任者が2014年12月に公式ブログで発表しました。

 しかしながら、法に基づく身元確認やドライバーの安全教育、定期的な車両検査、アプリによる安全機能の開発など、これらの体制構築のために乗車運賃に1ドル上乗せする「安全乗車料金」を導入した前例などもあり、ユーザーにリスク費用を転嫁してきたUBERの姿勢への反発は強まるばかりでした。(図−7)





◆グレー領域で急成長するアプリプロバイダ型の配車サービス

#合法性においてグレーな部分が多いUBER

 配車サービスビジネスは、法人タクシーなどの「旅客運送業者 型」、旅行代理店などの「旅行業者 型」、そしてUBERのような「アプリプロバイダ型」の3つに大きく分けられます。「旅客運送業者型」あるいは「旅行業者型」のビジネスモデルにおいては、[図−8/配車サービスのビジネスモデルと合法性]を見るとわかるように、配車サービス、旅客運送サービス、管理責任を法人が担い、合法性が明確です。しかしUBERをはじめとする「アプリプロバイダ型」のビジネスモデルにおいては、国によって多少の差こそあれ、合法性という点でグレーな部分が多い。こうしたグレーの領域で展開しているからこそ、急成長できたとも言えるでしょう。

 そして、図−8のビジネスモデルの合法性を、UBERの各サービスラインナップに当てはめたものが[図−9/UBERの各サービスモデルの合法性]です。

 UBERは車種やドライバーのランクによってサービス形態が異なります。まず、法人タクシー業者と提携して配車サービス部分をUBERが担う「uberTAXI」。これは先述した旅行業者型のビジネスモデルに相当し、合法です。続いて「UberBLACK」ですが、法人ではなく営業ライセンスを持つドライバーと直に契約するもので、合法性は白に近いグレーです。日本で展開しているのはこの2つのモデルのみですので、現時点で法的問題にはなっていません。

 各国でトラブルの種となっているのが北米で展開する「uberX」、欧州で展開する「uberPOP」。これは営業ライセンスを持たない一般のドライバーが自家用車でUBERと契約し、管理責任もすべてそのドライバーに委ねられています。これは黒に近いグレーであり、実際多くの国・地域で行政処分の対象となっています。





#東南アジアで台頭する配車アプリ。安全性に信頼のある事業者も

 問題が多発しているとはいえ、UBERの成長から見て取れるように、配車アプリは特に東南アジアでここ数年、非常に活発化しています。

 ソフトバンクが295億円という大金を出資したのが、2011年にマレーシアで始まりシンガポールに移転した「GrabTaxi」。国境間移動サービスも展開する「Taxi Monger」、ドイツのIT企業が出資している「Easy Taxi」、イギリス発祥の「Hailo」など、UBERに続いて爆発的に増えています(図−10)。

 UBERと同様のサービスを展開しながら、「GrabTaxi」は社会的に認められつつあります。というのも、「GrabTaxi」はサービスを展開するすべての国で、ドライバーと直接面接しており、身元や専用ライセンス、車両登録証明書などを直に審査しています。それが、もともとトラブルの多い途上国のタクシー業界で、アプリ事業者が安全性を担保しているという信頼につながっているのです。裏を返せば、UBERはその適性審査を曖昧にしてきたために、様々な問題が多発し、バッシングを受けることになっています。(図−11)





◆競合との差別化も視野に入れ、グレーモデルを合法モデルへ

#合法モデルへのシフト。「uberTAXI」路線でさらなる展開を図る

 UBERには「安全管理体制の構築」と「合法性の確保」という2つの課題があります。それを踏まえたうえで、今後の方向性としては、大きく3通りあるのではないかと私は考えました。

 まず一つ目は、グレーモデルを合法モデルへとシフトし、「uberTAXI」路線で展開していく方法。サービスを展開する現地の法人タクシーと協業し、UBERは配車サービスのアプリ事業者に徹して全世界ベースでの提供を目指す。安全責任は分担・明確化し、システム利用料は実質運賃の10%以下に留めておくのがよいでしょう。(図−12)







#「Grab Taxi」に学びグレーモデルを適正化

 二つ目は、グレーモデルを適正化していくこと。そのためには「GrabTaxi」モデルを踏襲して安全管理体制を構築します。途上国などにおいては互助会を組織化し、実質運賃の20%の手数料を取るかわりに保険サービスを導入して、安全性を担保することが重要です。「GrabTaxi」との差別化は難しいですが、少なくとも今グレーであるものが、限りなく合法に近づくと思います。(図−13)







#グローバルワンストップのサービスで差別化を

 そして三つ目は、ハイエンドサービスによる差別化です。たとえばビジネスパーソンは、世界各地を頻繁に移動します。その移動手段は、ファーストクラスではなくビジネスクラスです。そのような人にとっては、日本国内ですら地域で電話番号が異なるタクシーへの連絡が、世界中どこにいてもひとつのアプリ画面(=ワンナンバー)でできるサービスは重宝します。ビジネスパーソンにとっては、迎えに来るのは高級リムジンである必要はなく、営業ライセンスを持っていて、信頼できる運転手がいれば十分なのですから、そこに対してグローバルワンストップのトータルサポートサービスが提供できるとよいのではないでしょうか。(図−14)

 このようなコンシェルジュ機能は、クレジットカード会社でも一部実施していますが、アプリプロバイダ型配車サービスの場合、ドライバーが空港の出口で予約者の名前を書いたボードを掲げて待つような手間も不要です。また、飛行機に乗り遅れた時などにも連絡が容易ですし、タクシー側にとっても、いい顧客をつかめるというメリットがあります。

 ワンナンバーの利点を生かし、コンシェルジュ化で付加価値を付けていく。そのようなやり方で、急成長を追わずに足元を固めていくことが非常に重要ではないかと思います。これが「もしUBERのCEOだったらどうするか?」への私の回答です。





まとめ

【UBERの戦略案】

1.現在グレーモデルとなっているビジネスモデルを、合法モデルの「uber TAXI」へとシフト。法人タクシーと協業し、UBERは配車サービスのアプリ事業者に徹する。

2.「GrabTaxi」のビジネスモデルを手本に、自前の安全管理体制や保険サービスを構築し、現在グレーモデルとなっているビジネスモデルを適正化し、限りなく合法モデルへと近づける。

3.ビジネスクラスを利用するようなビジネスパーソンにワンストップのコンシェルジュ機能を提供し、ハイエンドサービスで差別化を図る。





※RTOCS書籍バックナンバー

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