もしも、あなたが「小松製作所の社長」ならばどうするか?

今回のリアルタイムケース

あなたが小松製作所の社長ならば需要減少による減収減益が予想されるなか

どのように収益構造を再構築していくか?



 今回のケーススタディは、日本の優良企業である建設機械メーカー・小松製作所の課題と戦略についてです。



# 世界各国の建設機械需要と小松製作所の売上の推移はどのように変化してきたでしょうか?

# 需要減少による減収減益が予想されるなか、自社の強みを活かしたどのような展開が考えられるでしょうか?



# 企業情報



以下からはBBT大学学長・大前研一による「課題と戦略」案が続きます。経営に正解はありません。読み進める前に、あなたが経営者であったならどうするか、一度考えてみてください。



※本解説は2015/6/7 BBT放送のRTOCS®を基に編集・収録しています。





大前の考える今回のケースにおける課題とは

 建設機械メーカーとして世界第2位の売上高を誇る小松製作所(以下、コマツ)は、国内需要は低迷しながらも、2000年以降新興国の需要拡大を背景に急成長してきた。しかし世界需要も調整期に入り、需要予測より実績が下回ったことから、2015年は減収減益となる見通しである。1990年代は国内需要低迷により収益性が大きく悪化し経営改革を断行、現在再び需要減少局面を迎えようとしており、コスト体質の強化と需要変動に強い収益構造への転換が大きな課題となっている。



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◆経営改革で高収益体質へ 業界トップクラスの利益率

#2000年以降、新興国の建設機械需要に連動して売上拡大

 世界的な建機メーカーであるコマツですが、ここ数年、予測と実績が乖離してきています。今後、減収減益で苦戦が予想されるなか、企業体質をどう再構築していくかということが重要になります。

 コマツが取り扱っている主要7建機の世界需要を見てみると、1980年代は日米欧の先進国が牽引しましたが、1990年代には成熟期に入ります(図-1)。2000年代に入ると、新興国・資源国の需要が高まり始め、欧米の需要も上向きましたが、2008年のリーマンショックにより先進国は大きく減少、その間、中国政府は4兆元(約56兆円)の大型景気対策を実施したため、2009年度からの数年は中国特需がありました。こうした需要の伸びに、非常にうまく乗ったのがコマツといえるでしょう。

 [図-2/コマツの連結売上高]を見ると、国内と海外の連結売上高は世界の建機需要と連動していることがわかります。2014年度は、海外が78.6%、国内が21.4%という状況です。



#経営改革によりコスト体質を強化

 [図-3/コマツの連結営業利益]を見ると、1990年代に国内需要が減少トレンドに入り、乱売合戦により販管費が大きく増加したことで営業利益は悪化、2001年度には営業赤字に陥りました。これを受けて、同年度より第一次経営改革を断行、販管費削減、KOMTRAX(コムトラックス) の導入、無人ダンプトラックの投入などを行いました。さらに需要が高まりつつある新興国市場に注力していき、この「経営改革」によって収益が回復したというわけです。特にKOMTRAXの導入は業界の革命と呼ばれ、同社の世界中の建機の稼働状況をリアルタイムに管理することで正確な需要予測を可能にし、さらに営業・サポート部門の業務効率化で、販管費の削減に大きな効果を発揮しました。また、2006年度以降には第二次経営改革を実施、さらなるコスト体質の強化とコア事業への集中を進め、収益力の強化に努めてきました。



#業界トップクラスの利益率を実現

 実際に経営改革の成功によって、2005年度以降は競合である米国のCaterpillar社よりも高い利益率を実現しています(図-4)。

 2013年度の[図-5/世界建機メーカーの売上高・営業利益率]を見ると、第1位のCaterpillar社の売上高は、第2位のコマツの約2倍でした。しかし、利益率のみを見るとCaterpillar社が9.3%であるのに対し、コマツは13.8%になっています。利益率の高さだけを見れば、売上高8位のスウェーデンのアトラスコプコ社が17.7%となり、続いてコマツですから、利益率の高さは業界トップクラスといえます。日系企業で見ると、続いて日立建機が8.6%で売上高第6位ですが、中国企業では徐工集団が6.2%で売上高第5位、続いて中連重科が11.8%で第9位、三一重工が7.4%で第10位と中国勢が急速に追いかけてきている状況にあります。





◆新興国を中心に需要減少、世界需要は調整期に

#世界需要が調整期に入り減収減益へ

 世界の建設・鉱山機械の需要実績及び見通しでは、2011年度までの中国特需から一転、翌2012年度には中国の建設市場が急減しました。建設が止まるということは、鉄鉱石や石炭も不要になるので、資源国のブラジルやオーストラリアの鉱山向け需要も同時に減少するわけです。そうした結果、新興国需要の拡大を見込んでいた予測は外れ、世界需要は逆に減少トレンドへと向かっています(図-6)。

 したがって、コマツでも、リーマンショック以降、緩やかに回復傾向にあった業績は反転し、2015年度は減収減益となる見通しです。今後の対応を誤れば、KOMTRAX導入以降、久しくなかった窮状に陥る可能性もあるでしょう(図-7)。





#需要減少に耐えうるコスト体質の強化と収益構造の転換が課題

 コマツの現状と課題をまとめてみましょう。

 コマツの強みは、業界トップレベルの収益性を誇るコスト体質、そして、GPSを用いた稼働管理システム・KOMTRAXといえます。しかし市場の状況を見ると、中国が急減速、それを受けて他の新興国需要が調整期に突入しており、先進国市場も横ばいの状況です。競合としては、中国市場で徐工集団、中連重科、三一重工をはじめとした国産メーカーが台頭し、コマツは中国市場におけるシェアを喪失しています(図-8)。



 このように、明らかに長い構造不況が来ることが予測できるわけですから、需要減少局面でも利益が出るようなコスト体質の強化を図るとともに、需要変動に左右されない収益構造への転換が同社の大きな課題となります。







◆顧客企業のコスト削減と自社のシェア拡大でWin-Win

#需要減少期における成長戦略とは

 コマツの今後の方向性について考えてみましょう(図-9)。

 まずは、需要減少期における戦略としてコスト体質の強化、つまり「守り」の戦略が必要です。これは2000年代以降同社が継続的に取り組んできていますが、再度グローバルレベルで業務を見直し、最適な営業・保守・管理体制の再構築を進め、販管費を中心に固定費を切り詰めていく必要があります。

 これまで、同社は需要減少に対して「守り」の戦略を徹底的に磨いてきましたが、これからは需要減少期における成長戦略、すなわち「攻め」の戦略も必要になります。建機メーカーとして、機械の売り切りモデルから脱却し、顧客企業に対しソリューションサービスを提供することで、需要変動に左右されにくい収益構造を構築することが重要です。

 従来の建機業界においては、「1台でも多くの機械を販売したい」というメーカーの使命と「購入した機械を長く使用し、稼働率を上げたい」という顧客企業のニーズがあり、その利害が相反してきました(図-10)。したがって、この利害相反を解消しメーカーが顧客企業のニーズに立脚することで、新たなソリューションビジネスが生まれる可能性があります。具体的な事例として、複写機業界で行われているMPS(マネージド・プリント・サービス) の戦略が参考になります。



#複写機業界では印刷機器の一括管理サービスが伸長

 複写機業界のビジネスモデルの変遷を振り返ると、初期の頃は顧客企業に対し複写機を販売するというビジネスであり、これは現在の建機業界と同じビジネスモデルです。次の段階では複写機をリースにし、使用量に応じて料金を課す収益モデルに転換しました。これは顧客側に一歩近づいたビジネスモデルです。そして現在、複写機業界では1社のメーカーが顧客企業の全部署、全支社のプリント環境を一括管理することで、顧客企業の印刷コスト削減にコミットしたMPSというサービスが成長しています(図-11)。

 従来、複写機の契約は同一の会社であっても、事業部や支社ごとに別々のメーカーやリース会社と契約することが常態化していました。これでは全社的に印刷コストの把握が困難であり、余剰な印刷コストが生じてしまいます。そこで、顧客企業のプリント環境を1社のメーカーが一括管理することで、普段の使用状況を分析し余剰な機器を削減、全社ベースで機器の最適配置を見直します。こうすることで、顧客企業の印刷コストの大幅削減を実現しつつ、同時に自社製機器のシェア拡大を図るソリューションの提供が可能になるわけです(図-12)。

 もともと、複写機には従量課金のために稼働状況を管理するシステムが組み込まれていましたが、それがネットワーク化の進展で稼働状況を一括集中管理できるようになりました。これはまさに、コマツの機械稼動管理システムであるKOMTRAXとまったく同じものといえます。したがって、複写機業界で起きたMPSという新しいソリューションサービスをコマツが建機業界に応用することで、顧客企業のニーズに立脚した新しいビジネスモデルの構築が可能になると考えます(図-13)。

 現在建設会社は様々なメーカーの建機を保有していますが、顧客企業のこれらの建機に全てKOMTRAXを導入し、稼働状況をコマツが一括管理すれば、稼働率の最大化にコミットした最適なソリューションを提供することが可能となるのではないでしょうか。顧客企業はコスト削減ができますし、コマツとしては更新時に自社製品を売り込むことでシェアの拡大が図れるので、両社はWin-Winの関係になれるでしょう。

 複写機業界におけるMPSは、設置数の削減を図りながら、同時にシェア拡大により成長を図るモデルであり、これを建機業界に応用することは、まさに需要減少局面における成長戦略であると考えます。



#建機の共有化・下取りの仲介、中小建設会社向けに最適なパッケージを提供

 中小建設会社に対しては、建機の共有(シェアリング)や下取りを仲介するソリューションを提案します。全世界の建機の稼働状況を把握できているので、時間貸しでも、リースでも、買い取りでも対応可能ということです。新品・中古を含めて最適なパッケージを提供して中小建設会社を囲い込み、シェアの拡大を図ります(図-14)。

 こうした大転換を建機メーカー売上高世界第2位のコマツがやり抜くには、かなりの資金がかかります。しかし、自社製品を売ることに注力するだけでなく、収益構造の転換を率先して進めることで、未来のブルーオーシャンが拓けるのではないでしょうか。

まとめ/小松製作所の戦略案

戦略案1

複写機業界のMPSを建機業界に導入、顧客企業の建機を一括管理してコスト削減を実現し、自社製品のシェア拡大を図る。

戦略案2

中小建設会社に向け、建機の共有化や下取りを仲介し、新品・中古を含めた最適なパッケージを提供する。

(RTOCS® 2015/6/7放送より編集・収録)

※引用元のURLは末尾にあります。

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●本書籍は以下より購入いただけます。

BBTリアルタイム・オンライン・ケーススタディ Vol.10

もしも、あなたが「ホンダ エアクラフト カンパニー社長」「小松製作所の社長」ならばどうするか?

https://goo.gl/6itWQP

●RTOCSバックナンバー

http://www.bbt757.com/pr/rtocs/

※本書収録の情報について

■本書はBBT大学総合研究所が学術研究及びクラスディスカッションを目的に作成しているものであり、当該企業のいかなる経営判断に対しても一切関与しておりません。■当該企業に関する情報は一般公開情報、報道等に基づいており、非公開情報・内部情報等は一切使用しておりません。■図表及び本文中に記載されているデータはBBT大学総合研究所が信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、当総研がその正確性・完全性を保証するものではありません。■BBT大学総合研究所として、本書の情報を利用されたことにより生じるいかなる損害についても責任を負うものではありません。

<本ケースの引用元URL>

■コマツレポート 2014

http://www.komatsu.co.jp/CompanyInfo/ir/annual/html/2014/

■中国新聞网『2014全球工程机械制造商50强公布』2014/8/6

http://finance.chinanews.com/cj/2014/08-06/6466272.shtml