なぜあの花屋は繁盛しているのか?:顧客価値を再考する=理央周

なぜあの花屋は繁盛しているのか?

私はガーデニングが趣味で、玄関には数鉢の寄せ植えを飾っているし、庭には、樹木の他に、この季節だと、プチトマトやゴーヤ、アサガオなど、ツルの植物を窓際にうえ、室内から見えるようにしている。

私が住んでいる愛知県は、花の生産量が日本一であるということもあり、近隣にも多くの花屋がある。

(愛知県は、昭和37年から現在まで日本一の花の産出額を誇り、全国シェアは約16.4%です。大規模な温室栽培が県内各所にみられ、東三河地域を中心に県内全域で盛んに行われています。https://www.pref.aichi.jp/engei/gaiyou/hana.html より)

徒歩圏内の2つの駅に、それぞれ2つの花屋さんがあり、また、駅の商業施設に入っている100円ショップにも、小さいながらも、「観葉植物」と植木セットくらいは売っているのだ。

この厳しい競争環境の中で、それぞれ業態が少し違うが、各店舗は、しっかりと商売を成り立たせている。

【花屋は何を売るべきなのか?】

花屋は何を売るべきなのだろうか?贈答用の花束、自宅に飾る切り花、仏花などのお供え用、植木をするための苗や種、寄せ植えの鉢や土に肥料、、、

もちろん、販売する商品はこれらだが、顧客が本当に欲しいものは何か?という視点にそれぞれを切り替えてみると、

大事な人への感謝の気持ち、綺麗な花でモチベーションをあげたい、花好きだった亡き母への感謝、大好きな土いじりの時間、帰宅した時に迎えてくれる花々の癒し、となる。

前者は、属性(=アトリビュート)、後者を顧客価値(=ベネフィット)と呼び、一般的に競争は価値レベルで発生すると言われる。

ここで重要なことは、顧客が欲しいのは、花そのものではなく、花を買ったことによる幸せや充実感が欲しいのだ、ということを認識することにある。

【すぐ近くにある2つの花屋はなぜそれぞれ流行っているのか?】

実際に、花屋に足を運んでみると、流行っている花屋さんでは、この顧客価値を満たす品揃えになっていたり、顧客コミュニケーションになっている。

例えば、駅ビルの一階にある、おしゃれで、少し高めに価格設定をしている花屋では、アラサー、アラフォーの可処分所得が高めの、キャリアを持つ女性をターゲットにしているのであろうか、その店オリジナルの、華やかなブーゲンビリアの寄せ植えを、店頭の一番目立つ場所に飾り、「あなたの部屋を飾るには柔らかな色合いのブーゲンビリアが最高」と、花を飾った場合の顧客の生活を想像させている。

またすぐ横に置いであるミリオンバンブーには、「忙しいあなたにも簡単に育てられる、こちらがオススメ」と、仕事の合間に世話をするにも、時間をかけず手入れができる、という時間の価値を訴求している。

一方で、その花屋の入っているビルの裏にも、花の問屋が運営している花屋がある。この店には、看板に大きく、「新鮮でお得なお花!」と書かれている。

すぐ前にあるちょっと高級な花屋さんとは違い、育てるのに最適な、寄せ植え用の苗が、「6つで500円」などと無造作に、多くの種類がたくさん置かれている。

切り花もどちらも全く異なり、前者は花束を中心に、ブーケやプリザーブドフラワーも充実している。後者は、1本ずつ自分で選ぶことができ、種類も限られていて、お値打ちだ。

後者の方は、園芸好きで若干高齢者をターゲットとしているようで、仏花のバリエーションも多く揃えている。

この2店に関しては、近くにありながら、棲み分けがしっかりとされていて、顧客を取り合う必要もないのであろうと思われる。

【中小企業は何を見習うべきか?】

花屋に限らず、生活者が何かを買う時には、その製品やサービスが欲しいのではなく、自分のニーズやウオンツを充足させてくれるものを買う。その時に、様々な選択肢の中から、何か一つを選ぶことになる。これを「競争」と呼ぶ。

競争は、このように顧客価値のレベルで発生するので、自社の顧客価値が何で、他者とどう違うのか、をしっかりと見極め、想定顧客にコミュニケーションしていく、というステップになる。

花屋で言えば、「花がある自分の生活」が顧客価値であり、花そのものではない。

これを、飲食店に当てはめると、

メニューにあるうどんやカレーそのものではなく、「家族で食べる幸福感」「美味しいのにお値打ちな満足感」「友達とゆっくり食べられる充足感」が、顧客価値だし、ビジネスホテルで言えば、「仕事の成功をサポートしてくれる設備の充実」「どこに行くのにも便利」という、価格の安さや部屋の広さというスペックよりも、ホテルに泊まる自分の姿や利便性で勝負ができると、値引き合戦に巻き込まれることを避けることができる。

もう1点は、リピートをしてもらう仕組みを作ることだろう。花は季節ごとに様々な種類がある。また季節ごとのイベントにふさわしい花もある。

端午の季節に花を買った人は、また夏には夏の花が欲しくなるのだ。

個人店においては、この様な顧客それぞれの志向を把握し、「そろそろ夏も終わりなので、スプレー菊で秋の香りを楽しんではどうですか?」などと、顧客に声をかけるなどできると、顧客側も購買意欲をます、というものだ。

モノ消費からコト消費、コトは、顧客価値を表す言葉なのだ。したがって、顧客価値を知るためには、顧客の心の中を知ることが必須になる。

■目次

… 1. 特集 「町の花屋に見る生き残り戦略」

… 2. コラム 「名古屋のカフェは回転率より「長居率?」」

… 3.  ビジネス書書評「ヒットの崩壊」

… 4.  ワンポイント時間術「6象限のマトリックスで結果必達力を向上させろ」

… 5.  著書・イベントのお知らせ

… 6. 編集後記

2.コラム:「名古屋のカフェは回転率より「長居率?」」

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