「中日森野コーチの課税漏れ」「本当に儲かっている会社とは?~大和ハウスの場合~」「アマゾンと先進諸国の攻防」『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』

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「中日森野コーチの課税漏れ」

最近、興味深い課税漏れニュースがありましたので、まずはその記事を読んでみてください。

森野氏申告漏れ 選手時、家族との外食を経費計上



プロ野球・中日の森野将彦2軍打撃コーチ(39)が中日の選手時代に名古屋国税局の税務調査を受け、2013年までの3年間で約4200万円の申告漏れを指摘されていたことが分かった。必要経費として認められない生活費を総収入から差し引き、事業所得を少なく申告していた。追徴税額は過少申告加算税を含め約1800万円とみられる(2018年3月29日毎日新聞配信)

~新聞記事ここまで~

著者の解説

元中日の森野選手(現2軍コーチ)の課税漏れ事案です。こういうのは、あまり表には出ないのですが、額がちょっと大きかったのでニュースになったのでしょう。森野コーチには申し訳ありませんが、このケースは「自営業者の陥りがちな失敗」のモデルケースのようなものなので、この例をもとにして、自営業者の節税とはなんぞや、ということをご説明したいと思います。

プロ野球選手というのは、球団に所属していますので、一見、サラリーマンのように見えます。が、プロ野球選手というのは、サラリーマンではなく、個人事業主ということになります。プロ野球選手は、野球の技術を売る商売をしている事業者であり、球団とは1年ごとに契約をします。複数年契約をすることもありますが、それは両者合意のもとで、長期間の契約をするということであり、それは企業同士の契約と似たようなものです。サラリーマンのような雇用契約ではないのです。プロ野球選手は、個人事業主なので、球団からもらうギャラが「売上」ということになります。そして、その売上から様々な必要経費を差し引いて、その残額が所得という事になるのです。こういう事業者の場合、節税をしようと思えば、売上(ギャラ)は減らしたりできませんので、必然的に「経費を膨らませる」という方法になります。

森野コーチの場合、この経費の膨らませ方に、少し無理があったようです。この課税漏れの主なものは、家族との食事代、旅行代でした。森野コーチは、家族との外食や、家族旅行を経費の中に含めていたわけです。プロ野球選手の場合、食事は、体をつくり、コンディションを整えるものなので、経費に含められないことはありません。もし、栄養士などに献立の依頼をしたり、専任の調理師を雇ったりしている場合は、その報酬は必要経費として落とせることもあります。森野コーチも、その理屈から、食事代を必要経費に入れていたのです。が、家族と一緒に行った外食も必要経費に含めており、また特別、栄養面での専門的な食事ではなかったようなので、必要経費とは認められなかったようです。

またプロ野球選手は、オフシーズンに暖かい場所で自主トレをするようなことも多く、その旅費は当然、必要経費として認められます。森野コーチもその理屈から、旅行費用を必要経費に計上していたようなのです。が、森野コーチの場合、家族を同伴し、家族の旅費も必要経費として計上していたようです。なので、「家族旅行」とみなされ、必要経費とは認められなかったようです。

ここでのポイントは、「家族」だったといえます。森野コーチは、食事や旅行に家族を同伴していたため、それはトレーニングとは関係ないとして、経費には認められなかったのです。が、もし森野コーチが、妻を社長にして会社をつくり、森野コーチの体調管理などのサポート業務を会社の事業として行えば、それは経費として認められたものと思われます。もちろん、会社の実態は必要ですので、奥さんはそれなりに選手サポートの技術を身に付けなくてはなりません。が、会社をつくれば、森野コーチのギャラを会社への委託費として分散することができます。その会社から、森野コーチの妻に対して報酬を払うことができます。またその会社の福利厚生費として旅行代などを出すこともできます。そうすれば、森野コーチのギャラは、妻などの分散され、税金がかなり安くなったはずです。つまりは、もうひと手間が足りなかったといえます。ただ単に、家族と一緒に食事をし、家族旅行をしただけでは、それを事業の経費として計上するのは無理があります。が、ちゃんと、サポート業務を行っているという形をつくれば、それは必要経費として認められたはずなのです。森野コーチには、そういう助言をしてくれる税理士さんがいなかったのでしょう。

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