ここ10年で商品の流通、広告、販売の流れが大きく変わり、小売業界や物流業界に大変動が起きている。その先頭を走っているのが「アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)」だろう。
書籍を買いたいとき、アマゾンにアクセスすれば、たちどころに買いたい本の価格が表示され、買いたい本がだいたい手に入る。しかも新刊本は日時が経てば、あっという間に安くなり、時には1円とか10円以下というケースも珍しくない。これを注文すれば1~2日で手元に届けてくれる。安く買えるのは、既読者が売りに出すためで、たくさん売り物が出れば安く買えるわけだ。
【先頭切るアマゾン】
便利な点は、すでに絶版となっている本でもアマゾンのネットを通じて買えることだろう。貴重本で売り物数が少なければ高価格となるが、多く出回っている本なら、たいていは定価以下で購入でき、すぐに届けられるので便利この上ないといえる。
こうした販売・流通などの手法をネット通販と呼んでいるが、いまやネット通販が世界を席巻しはじめているといえる。本だけでなく、洋服や食品など、あらゆる商品が通販で買えるようになってきた。消費者はわざわざ店頭に行かなくても、ネットで商品を見て注文すれば買えるわけだ。
しかし、複数のネットで、同じ商品が異なった価格で売られていることもある。このため消費者はネットでいくつかのサイトを見て検索し、安い方を選択するのである。そして購入する商品とサイトを決定し、決済まで行うと商品が届く。
【小売店が次々と閉鎖】
このネット通販の普及は小売業態を直撃し、小売店が次々と閉鎖に追い込まれる事態を招いている。5月19日付の読売新聞によれば、アメリカの小売業界で大規模な店舗閉鎖が相次いでいるという。
たとえばアメリカを代表するファッション・ブランドのラルフローレンは2014年9月、ニューヨーク市5番街に店舗をオープンしたが今年4月15日、3年足らずで撤退した。また、大手百貨店メイシーズは昨年夏、全米の約720店のうち1割以上を閉鎖する方針を公表した。このほか、婦人服・アクセサリーのベベ・ストアーズはこの4月に全米の170店の閉鎖、靴製造・販売のクロックスは2018年までに160店の閉鎖を発表した。また百貨店のJCペニーは7月末までに全体の1割にあたる140店を閉鎖するといった具合だ。
ただ、店を閉鎖しても倒産するといったわけではなく、販売方法をネット通販に変えて営業を継続するというところが多い。
ネット通販は、いまやアメリカの小売販売の約1割を占めるといわれている。アマゾンの登場で街の本屋さんが打撃を受けたとみられるが、今後、アマゾンは衣料品販売でも最大手になると予測されている。
【物流業界は人手不足に】
ネット販売は、物流業界にも大きな影響を与えている。日本では、クロネコヤマトが人手不足で再配達の見直しや、人手不足をやりくりするための午後の時間帯に休みを設ける対策を打ち出している。ネットで注文しても、最終的には商品を消費者の手元に運ばなければ完結しない。この実業の配達部門が、日常的に人手不足に陥っているのだ。
【中国では農村に消費ブーム】
中国では、ネット通販の発達で農村部にも消費ブームが起きている。これまでは沿岸部で消費が伸びていたものの、店の少ない農村部は流行などから取り残されていた。しかし、ネット通販の普及で農村にいる3億人以上の人々の間にも、消費が急増しているというのだ。中国は今後、通販で農村の内需を掘り起こすとともに、農村にも物流のトラックが走ることになるのだろう。
ネット通販の発達によって、起業家の数も増えている。かつてのように店舗を設けなくても販売活動できるため、消費者に好まれそうなものを発掘すれば、ネットにあげて、消費者が飛びつきそうなデザイン、見せ方をすれば、たちまち話題となり売上に結びつくからだ。中国ではそうした一匹おおかみ的なネット販売業者が、一攫千金を夢見て大勢輩出されているという。
ネット通販が小売り、物流業界、消費のあり方に大きな影響を与えている現状を考えると、今後、社会問題として考えていく必要も出てきそうだ。誰にも便利に商品を届けてくれるシステムはありがたいが、社会のルールも必要になってくるだろう。
配達時間を指定したら、受取人が必ず家にいるとか、配達専門のボックスを作り留守の間でも配達の荷物を届け、配達証明を受け取ることができる仕組みを作るなど、さまざまな取り組みがないと、人手不足や商品受渡しに関するトラブルが続出する可能性がある。業者にそれらの対策を任せるだけでなく、消費者もこれに協力する体制を作らないと、いずれ大きなほころびが出てくるだろう。これが海外も巻き込んだ通販となると、もっと影響は大きい。社会的問題となる前に対策を考えておくべきだ。
【TSR情報 2017年5月31日】
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