好調USJに学ぶ顧客視点の価格設定=理央周

好調USJのターゲットと価格戦略

【好調USJと苦戦している東京ディズニーランド】

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が好調だ。3月17日時点で、年間入場者数が過去最高を、3年連続で更新したことを発表した。

2014年度から順に、1270万人、15年度は1390万人、16年度は1400万人台を見込んでいるとのことだ。

感覚的にも、USJは新しい話題を提供しているイメージが強い。

センセーショナルにデビューした、「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」も記憶に新しいし、15周年を迎えでの、「ザ・フライング・ダイナソー」などの、新アトラクションや、シーズンごとのイベントも活況。

USJは2001年に開園した。当時、私はケーブルテレビのジュピターテレコムで、マーケティング・マネージャーとして、USJへのスポンサリングも担当した。

初年度の入場者数は1100万人を超えた、活況を呈したことを覚えているが、2年目は700万人台と大きく落ち込み、その後も低迷が続いていた。

記憶に新しいのは、2010年以降に業績をV字回復し、昨年10月には、単月で過去最高の175万人強の入場者数を達成。単月のみとはいうものの、東京ディズニーランドを抜いた。

1983年の開業以来、日本のテーマパークと聞き、真っ先に思い出すのは東京ディズニーランドだ。

しかし、値上げも響き2年連続での入場者数減。2つテーマパークを持ち、総入場者数の規模も違うので、単純な比較はできないが、何が明暗を分けているのかを、マーケティングの視点で観てみたい。

【ターゲット設定】

まず、来園者から考えてみたい。ここのところの円安によっての、インバウンド観光客が多いように感じられるが、ロイター通信によれば、USJの利用者の90%は日本人とのこと。

東京ディズニーランド(TDL)も、海外からの来場者は、全体のわずか6%に過ぎないとのことだ。

どちらも、主要な来園者層は、国内からをターゲットとしている、と言えそうだ。

消費者向けのビジネスにおいては、リピーターの確保、すなわち、優良顧客のロイヤルティをいかに維持・向上させるかが必須だ。その意味で、USJ、TDLともに基本に忠実と言える。

もちろん、インバウンドでの外国人層をおろそかにしてはいけない。しかし、海外からの観光客にリピート来園を促すのは、国内からの退園者と比較すると困難だ。

その意味でも、主要顧客を国内居住者に設定するのは、正解と言える。

【価格設定の違いは?】

次に価格設定を見てみると、4月7日現在、USJは、1回券が7,600円で、年間パスポートが22,800円。

一方、TDRは、1回券が7,400円、年間パスポートが、63,000円。

ちなみに、今月名古屋で開業したレゴランドは、1日券が6,900円、年間パスポートが、17,300円。

1日券のみを比較すると、USJの方が100円高いのだが、大きな差は年間パスポートの額にある。TDRはUSJの約3倍なのだ。

ちなみに、この価格は1パークのもので、TDRのランドとシーの両方に1年中いつでも入れる、2パーク用のパスポートは、93,000円だ。

TDRは、開園からの30年以上の歴史や、積み上げてきた認知度にイメージ、首都圏にあることなどが、ブランド資産になっているために、年間パスポートをこの額に設定しているのであろう。

上記以外にも、大人中人小人とか、ナイトチケットなど、価格設定を細かく分けている点も、TDRの特徴だ。

一見、高いようにも見えるが、1日券に関しては、アメリカのディズニーランドよりも、低く設定はされているようである。

一方のUSJは、3回行けば元が取れる年間パスポートの価格設定に、シンプルな価格コースを用意している。

大阪にあることもあり、分かりやすさと、お値打ちさを感じることができるため、ファミリー層だけでなく、10代の学生層にもアピールできていると言えそうだ。

価格設定、すなわち値決めは、非常に重要だ。

USJに関しては、数学マーケティングの手法を用い、価格を設定するようにしたとのことだ。詳しくは、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー(HBR) 17年3月号の特集「顧客は何にお金を払うのか」に詳しく書かれているので、一度読まれることをオススメするが、(→ http://amzn.to/2og0bLz )価格設定を、主観的に、「顧客がこれくらいならお金を払うであろう」との推測や、過去の経験値だけで決めていくのは、大きな不確定要素を含む。

数学的なアプローチや、PSM(価格へのセンシティビティメジャメント)分析など、「客観的な」視点を入れ込むことで、最適な価格を設定することが重要なのだ。

【USJから学ぶべきことは何か?】

USJの好調の背後にあるのは、リピート層をしっかりと狙っている点。

年間パスポートの価格設定に現れているが、一度でも来てくれたお客様に、再来店を促すことは、新規顧客を取ることよりも、広告宣伝費や販促費などにかける、マーケティングコストがかからない。「うちの会社はこんな会社ですよ」と教える必要がないからだ。

次に、価格設定を客観的に、数学的なアプローチを入れて、設定している点。

また、その順序が大事だと、元 USJのCMOだった、森本氏が、HBRの記事で言っている。

消費者は価格に敏感なので、価格を値上げしてからではなく、ハリーポッターなどで、TDRに対するUSJのプリファランス(相対的な好感度)をあげてから、値上げをしているのだ。

これらにより、最終的なブランド資産である、顧客ロイヤルティがあがり、来園頻度と、心理的な忠誠心が上がる。

成功の背景には、マーケティングのメカニズムがある、という点がUSJにも言えるのだ。

■目次

… 1. 特集  「好調USJのターゲットと価格戦略」

… 2. コラム 「AIの進化と仕事の関係」

… 3. 書評  「私の名前は高城剛。住所不定。職業不定。」

… 4. ワンポイント時間術「多様な参加者だからこそ結果を出せた」

… 5. 著書・イベントのお知らせ

… 6. 編集後記

2.コラム:「AIの進化と仕事の関係」

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