あなたは「5年60億円」かけた阪急うめだ店に何を学びますか?=理央周

阪急阪神百貨店の挑戦

2012年に大増床を開始して5年経った、阪急うめだ店。私も、大学のうめだキャンパスに講義にいく時に、なんども行ったことがありますが、大阪随一のターミナルである、梅田駅(JRでは大阪駅と直結)にあって、抜群の存在感を誇っている大百貨店です。

今号では日経MJ新聞「トップに聞く」のコラムに掲載されていた、阪急阪神百貨店 荒木直也社長の、「一番店に安住しない」から、売れる店舗になるには何をすべきか、を一緒に学んでいきましょう。

フレームワークの復習:顧客価値

今号のテーマは「顧客価値」です。(実践マーケティング入門 第4章 85ページです)

あなたは、日々の仕事で、「いいものを作っているのに、自社プロダクトの良さが伝わらない」と悩むことが多くありませんか?マーケティング活動での一番の課題ですよね。

最大の理由は、「あなたが売りたいものと、顧客が買いたいものが、ずれているから」です。

阪急うめだ店が好調な理由の一つは、顧客が“真に”欲していることを、確実に捉えている点にあります。

売りたいものを売る、よりも、「顧客が欲しいもの」を売る、さらにその先を行き、「顧客の期待以上のものを売る」という点を学んで行きましょう。

前者が、顕在的な顧客価値で、後者が潜在的な顧客価値、ですよね。

では具体的に阪急うめだ店の事例から見ていきましょう。

阪急うめだ店の挑戦〜一番店に甘んじない

日経MJ2017年12月4日の記事によると、阪急うめだ店は、2012年から5年60億円かけて、大増床を行なったとのことです。その結果、西日本を代表する売り場になったとのこと。

「安住することはなく、60億円をかけて先端的な売り場作りを追求している。荒木社長の方針は、“目先の売上より一歩先のファッション提案と明快だ”」とあります。(上記、記事から。以下引用に関しては「」で括ります)

具体的には、売れ筋を多く揃える戦略から、“コト消費への対応”に備える戦略に転換していったとのことです。(コト消費とモノ消費の違いに関しては、第4章P101を参照ください)

その背景には、ボリュームゾーンだった、ライセンスブランドや、雑誌タイアップなどが、“顧客に見抜かれて売れなくなった”と判断。

「我々自身が仮説を立てて、一歩先の提案をするスタイルです」「各階のエスカレーター前に一番売れる、販売効率の高いブランドを置くのをやめました」「そこに、ライフスタイルを提案する“コトコトステージ”を持ってきたのです」

大阪駅と梅田駅という好立地条件において、スペース効率だけを考えたら、利益率の高いブランドものを置くのが定石と言えそうですが、あえて、このような新しい挑戦をしているのが目につきます。

コトコトステージでは、オリジナルのデニムスタイルを作ることができる店を、デニム売り場の横に配置。ニューヨークとパリとここだけにしかない店を、この秋にオープンしたとのことです。

コト消費に対応する戦略を立てた背景には、ITの浸透などで便利になり、顧客が“普通のもの”では満足しなくなり、パーソナライズされた“自分だけのもの”を、欲しがるようになったことがあります。

SNSなどで商品を容易に見られるようになり、新商品に対し“既視感”が出ているのでしょう。

また、平日は節約をしても、週末や特別な“ハレの日”には、やはり、特別なものが欲しいし、特別なことがしたい、と感じる傾向が強くなってきています。

従来の消費で飽き足らず、顧客がどんどん“わがまま”になってきているのです。

しかし、このような時こそ“販促のチャンス”だ、と、荒木社長は考えたのでしょう。

そして、顧客の一歩先を読みといて、このようなエンタテイメント性の高い売り場を、提供したと考えられます。

具体的には、“家庭教師”をつけたとのこと。「家庭教師はセレクトショップなど、幅広いネットワークを持っている方です。仕入れや売り方など、自前でコンテンツや情報を発信する力を養っています」とのことです。

家庭教師を雇い、“自社内で自律して、企画できる社員”を、しっかりと育てているのでしょう。

阪急うめだ店に「何を」学ぶべきか?

挑戦し続ける阪急うめだ店に、あなたは何を学び、何をしますか?

コト消費に対応する、と一口に言っても、なかなか難しくありませんか?家庭教師、とはコンサルタントや、外部講師のことなのでしょうが、すぐには難しいですよね。

まず考えるべきは、従来の“売上と利益を最大化する”という考え方から、“顧客が感じる価値を最大化する”という考え方に、シフトしている点です。

目先の売上よりも、楽しんでもらうことで、来店したいと思ってもらい、長く愛される店づくりをすることで、長期的な収益につなげる、という舵取りと言えます。

顧客に伝えるべきは、すでに顧客が分かっている顕在的なニーズではなく、“顧客が今は知らないけれど、教えてもらったら嬉しい潜在的なニーズ”です。

従来のフレームワーク的なアプローチは、直近の課題を解決することには向いていますが、このように、顧客行動の先取りをするとか、新製品を開発する、という創造的なことには向いていないのです。

では、あなたは、どうやって潜在ニーズを、発見すれば良いのでしょうか?

顧客も気づいていない潜在的なニーズは、顧客行動を観察し、直感的に気づくことしか、発見する方法はありません。

現地現物、やはり販促のヒントは、現場に落ちていることが多いのです。

そのためには、直感を大事にし、“もし自分が顧客だったら何が欲しいだろう”と、仮説を立てて、現場に出向き、現場での顧客行動の観察で、検証してみれば良いのです。

1点誤解すべきでない点は、従来のフレームワークや理論が不要だ、と言っているわけではありません。

現場に出かける前には、やはり市場動向や、自社のSWOTとポジショニングを、しっかりと頭に入れた上で観察に行くことで、より精度の高い直感を感じることができるのです。

あなたも、明日からやってみてください。

■目次

… 1. 特集「阪急阪神百貨店の挑戦に何を学ぶか?」

… 2. コラム 「持続的イノベーションには限界がある」

… 3. ビジネス書 「2020年人工知能時代僕たちの幸せな働き方」

… 4. 時間術「常に3色ボールペンと画用紙を忘れずに!」

… 5. 著作・イベントのお知らせ

… 6. 編集後記

2.コラム:持続的イノベーションには限界がある

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