業績好調な任天堂スイッチの破壊的イノベーションはどこから来るのか?=理央周

今号は、新製品の「スイッチ」が好調で、業績見込みを上方修正した、任天堂の戦略について考えていきます。

【任天堂の業績上方修正に見るイノベーションのインパクト】

任天堂は、2018年3月期の業績予想を上方修正しました。家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」が、好調に推移していることが、その大きな要因で、上方修正は今期2回目となります。

売上高予想は、対前年同期比約2倍の1兆0200億円、営業利益予想は、対前年同期比約5倍の1600億円という、かなり多額の引き上げでした。ロイターの記事によると、スイッチの販売が好調で、4─12月期の関連売上高は5948億円と、全体の約7割を稼ぎ出した。ソフトでは、昨年10月に発売した「スーパーマリオ オデッセイ」が大ヒットとなり、全世界で907万本を販売した。

会見した君島達己社長はスイッチについて「勢いとして(1億台を販売する大ヒットとなった)Wiiを超える販売台数を実現してきている」と、手応えをにじませた。(以上ロイターの記事より抜粋)



任天堂の破壊的イノベーションの歴史

社長のインタビューにもあるように、今回の業績上方修正の一番の要因は、新製品「スイッチ」の好調にあると言えそうです。

初代ファミコン以来、任天堂は「日本の家庭用ゲーム機と言えば任天堂」といったポジションでしたし、さらに、DSなどのモバイルゲーム機でもヒットを出しています。

ではなぜ、このようなヒット商品を出すことができるのでしょうか。記憶に新しいWiiを事例に考えてみましょう。

イノベーション研究の第一人者クリステンセンは、著書「イノベーションのジレンマ」において、「顧客ニーズを追い求めて製品の改良を続けること」を、持続的イノベーションと定義し、既存製品の価値は破壊されるかもしれないが、創造的な新製品を創り出すことを破壊的イノベーションと言っています。

(イノベーションのジレンマ 翔泳社 より)

ここで重要な点は、顧客ニーズにのみ注力をし、顧客の別のニーズを過小評価してしまうと、破壊的イノベーションが生まれない、とクリステンセンが述べている点にあります。このような、「イノベーションは持続的か破壊的であるべきか」という議論において、よく引き合いに出される事例に、Wiiのケースが挙げられます。

古い話ですが、私が東京のIT業界で、マーケティング・マネージャーをしているときに、マイクロソフト社が鳴物入りで販売を開始したゲーム機が、XBoxでした。

当時の技術力の粋を集めたグラフィックの美しさと、ゲームソフトの高度さで、ゲームソフトメーカーの技術が、追い付かないほどの高レベルの製品だったと記憶しています。

このXBoxとよく比較されていたのが、ニンテンドーのWiiです。こちらはグラフィックや機械の性能は、XBOXほどではありません。

しかし、Wiiの最大の特徴は、従来のゲーム機と異なり、リモコンもコードにつながれていない点にあります。

そのせいで、プレイヤーは制限なく自由に動くことができ、そのまま振ると、テニスができたりマリオが動いたりする、非常にシンプルな遊び方のゲームになったのです。

娘が小学生のころにねだられ、うちにもあったので、よく一緒に遊びましたが、グラフィックは、多少きれいにはなっているものの、以前あったファミリーコンピューターでの遊び方と、それほど大きく変わらない、シンプルな遊び方で逆に単純に楽しめるものである。

クリステンセンの顧客分類の考え方を私なりに解釈すると、

1. 満足度が不足している顧客=既存の製品をよりよくしてほしがる顧客

2. 満足度が過剰すぎる顧客=既存の製品に飽き足らず新しい製品を欲しがる顧客

3. 非顧客=そもそも自社製品に興味のない顧客となります。

XBoxは、この1の顧客の顧客満足度を上げようとしていて、Wiiは2の顧客層に目を付けたケースといえます。



任天堂の事例から何を学ぶか?

このWiiの時のポイントは、「顧客志向への原点回帰」です。自社技術の向上だけでなく、顧客がユーザーとして「楽しむ」という点に焦点を当てた、ということです。

今回のスイッチも「原点回帰」をして、「家の中でも外でも遊べる」という、今までにあってもそさそうだけれども、なかった点が新しく、ユーザーに評価された、と言えます。

マーケティングを考えるときに、手法やフレームワークから入りがちですが、やはり原点は、顧客志向、お客様が感じている価値を、もう一度見直すことで、新しいサービスや製品に繋げていくことで、イノベーションを起こすことができるのです。

ぜひ、明日から使ってみてください。

■目次

… 1. 特集「任天堂の業績上方修正とニンテンドースイッチ」

… 2. コラム 「アメリカ人のシンプルな発想法」

… 3. 時間術「アマゾンとJCOMで学んだ対極の結果達成法」

… 4. 著作・イベントのお知らせ

… 5. 編集後記

2.コラム:Hiro,それってYes Noクエスチョンじゃないの?

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