好調マクドナルドに見る顧客視点コンセプトの価格設定とネーミング=理央周

マクドナルドに見るコンセプトと価格設定

マクドナルドが好調だ。日本マクドナルドホールディングス株式会社の、リリースによると、「ビジネスリカバリープランの着実な実行により、売上高、利益ともに対前年比で大幅に改善」とあり、既存店売上高は5期振りのプラス、経常損益は3期振りの黒字を達成さらに、29年度は継続的な成長のための投資とビジネスの強化に注力する。とある。

確かに、平成28年12月期通期連結決算状況には、通年の売上で対前年同期比、61,935百万円、16.4% の増。連結の営業利益も、30,370 百万円の増となっている。

4月6日にリリースされた、同社セールスレポートによると、2017年1月から3月まで、対前年比での売上が、二けた増になっている。

4月1日から、男性を中心に人気があった、「クォーターパウンダー」の販売を中止し、やはり、マクドナルドには。高めの価格設定のハンバーガーは、難しいのか?と感じていた中の好調になる。

【マクドナルドはどんな手を打っているのか?】

気になりつつ、先週のランチタイムに、オフィス近くのマクドナルドに行ってみたところ、大き目の店内は、満席。レジにも、10人以上が並んでいた。

大半の人たちは、新しく発売された、「グランシリーズ」を買っている。コンセプトは、本格肉厚バーガー。クラブハウス、ベーコンチーズ、テリヤキの、3種類が用意されていて、それぞれ、490円、390円、390円。ポテト&ドリンクセットにすると790円、690円、690円と、単体、セットいずれも、ビッグマックよりやや高めの設定になる。

ほんの数年前までは、100円マックを筆頭に、「安い」ハンバーガー、というイメージだったが、ここ数年で、イメージはかなり変わったと言える。

もちろん同時に、レギュラーメニューは存在する。

今回、久しぶりに店頭に行き、食べてみて感じたのが、各メニューに関する「コピー」と「ネーミング」だった。

まず、このグランシリーズは、「おいしい、楽しい、ハンバーガーがある毎日」というスローガンを掲げている。

「100円で安い」などという価格訴求ではなく、書かれてはいるものの、素材を全面に押し出しているわけでもない。いわゆる機能的な価値よりも、感情に訴える価値を全面に出している。

これにより、「グランシリーズ」を食べたら、自分がどういう気持ちになるのか?ということを想像できるのだ。

また、しょうが焼きバーガーなど、1個200円のバーガーに関しても、「安い!」という直接的な表現ではなく、「おてごろマック」というネーミングを使い、「質の割には、価格を抑えていますよ」という表現になっている。

表現ひとつで、大きく違う。これは、明らかに価格訴求からの脱却を狙った戦略と言えそうだ。

こういったコピーやネーミングは、一朝一夕に開発されるものではない。マクドナルドのケースでいえば、2017年の事業コンセプトを、“マクドナルドの「おいしさ向上宣言」”とした点から端を発している。

第1弾、 “マック史上最高リッチな味と香り”を実現した、プレミアムローストコーヒー、第2弾、前述の“お手頃バーガー”そして、第3弾が“グラン”なのだ。

このコンセプトに基づいての、価格設定を含む製品開発になっている。

【中小企業は、マクドナルドから何を学ぶべきか?~製品開発と価格設定】

製品・サービスを開発する場合に、自社だけができる独自の価値を中心に考えるのは、いうまでもない。

どの企業も、価格設定には頭を悩ますことが大半である。価格設定は、経営と同義語だ、と言った名経営者もいるくらいだ。

価格設定に関しては、「競合がこれくらいだ。多く売りたいので、少し低くして売るか」と安易に設定するのは得策ではない。

基本は、競合の価格や市況から、自社独自の価値を考慮に入れて、価格を設定する、「上(損益計算書の売上からなので)から」の設定と、管理会計の考え方で、最低限確保したい、限界利益(マージン)から逆算する、「下から」の設定がある。

上記に加えて、PSM分析と呼ばれる、「顧客がその価格を、安いと感じるか高いと感じるか」という顧客視点の分析手法がある。

どれも、それだけが正解というものではない。中小企業としてすべきは、市場、自社、顧客の3方向から設定するという、考え方の上で、決めていくのがよいだろう。

【マクドナルドに学ぶメニューの表現】

次に学びたい点は、顧客価値に訴えかける、コンセプトの明確化と、各メニューの表現だ。

まず、「おいしさ向上宣言」と銘打ち、情緒的な価値に照準を合わせていることで、値段の安さ、という土俵で戦っていかないことを表している。

値引きや安値での勝負では、言うまでもなく営業利益が下がり、体力勝負になるので、企業にとっては得策でないことが多い。

しかし、価格をやみくもにあげるだけでは、顧客が離れる、というジレンマがある。

したがって、マクドナルドもレギュラーより若干高い、グランをだし、顧客単価を上げることをはかったのであろう。しかし、同時に単価200円の低価格帯バーガーはもちろん残し、それを、「おてごろマック」というカテゴリー名にしている。

どうしても、目先の売上を確保するために、「今だけ、2000円引き」などと、値引きをしてしまうケースを見かけるが、その際にも、数量的な値引きを訴求するのではなく、「いいものがお値打ちに手に入る:」という表現をするだけで、顧客が感じる価値が変わってくる。

これからも、マクドナルドの、「おいしさ向上宣言」の、第4弾以降が楽しみだ。

■目次

… 1. 特集  「マクドナルドは高価格帯バーガーから撤退するのか?」

… 2. コラム 「独自化の必要性:名古屋 星が丘テラスに学ぶ」

… 3. 書評  「アメリカで小さいのに偉大だ!と言われる企業の、シンプルで強い戦略」

… 4. ワンポイント時間術「直前のテコ入れが結果そのものを2倍にする」

… 5. 著書・イベントのお知らせ

… 6. 編集後記

2.コラム:「独自化の必要性:名古屋 星が丘テラスに学ぶ」

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