旧OVA版『BLAME!』推薦文

※講談社さんとご縁があって2003年に書いた『BLAME!(ブラム)』OVA版(初出はWeb)の推薦文です。チラシや広告などに使われたはず。新たな劇場版として再生した記念として再掲します。

題名:果てしなき迷宮の旅路──BLAME!

 幾多にも階層が折り重なり、果ての見えないほど自己増殖した巨大建造物。誰がつくったかも定かではない人工物だけで構成された環境を、主人公“霧亥”(キリイ)はあてどもなくさまよう。階層が変わるごとに改造生物的な敵が襲いかかり、幾多もの出会いを乗り越え、彼は旅を続ける。目的は……「ネット端末遺伝子」の入手である。

──『BLAME!』という作品を要約すると、およそこういった形になるだろう。しかし、どのように言葉で要約しようとも、作品の本質的な魅力に迫ることは至難である。それは原作者・弐瓶勉のつむぎ出した暴力的なまでにサイバー的なビジュアル・イメージが、言葉以上に圧倒的な存在感と説得力を放っているからだ。

 原作コミック『BLAME!』(講談社アフタヌーンKC)は全10巻を数える長編である。その大半はテクノロジーと生物感の融合した奇怪なビジュアルとアクションに満ちているが、同時に極端に寡黙な作品でもある。ほとんどのシークエンスは、会話よりも、突発的に出現する怪物体や、距離や空間を感じさせる風景の変化で進行する。言葉による説明を排除している分だけに、その連なりは非常に映像的であり感覚的でもある。映画『BLADE2』のギレルモ・デル・トロ監督が本作を絶賛しているという事実も、これが言語の違いを超えて伝わりやすいイメージを芳醇に蓄えた作品である証左である。

 これは謎を追い求めそれを解読するというよりは、現実感を濃厚に持った危険なビジュアルに身をゆだね、感覚を体験し、描かれていない部分を妄想することで、作品世界の奥深くへと参加するタイプの作品だ。原作がこういう性質の作品である以上、映像化にはかなりの困難がともなったであろう。

 アニメ化にあたっては、ヒロインのCiboを主役にして記憶を再生するという趣向を軸にして、原作の壮大なる世界が再構築されている。1話約5分、合計6話分(DVDではさらに1話分を追加)で構成されたこのアニメーションは、原作以上に断片的ではあるが、動き、色彩、カメラワーク、そして音楽と音響というマンガにはない映像作品ならではの要素を加え、体験としての濃厚さを増強し、『BLAME!』の記憶を何倍にも増幅する方向性で制作されている。

 監督の井之川慎太郎とビジュアルデザインの鉄羅紀明はTVアニメ『魂狩 THE SOUL TAKER』で鮮烈なるイメージを発揮した先進のアニメ・クリエイターたち。音楽音響プロデュースには『千と千尋の神隠し』等の宮崎アニメや井上陽水ら高名アーティストのレコーディングで知られる大川正義。新たなるビジュアル+サウンドの衝撃が発動する。

 ディスクを手にして再生をはじめた瞬間から、あなたの『BLAME!』ワールド体験はスタートする。残酷で危険にあふれかえる旅路を、ぜひとも生き抜いて欲しい。

【2003年9月4日脱稿】初出:DVD『BLAME!』宣伝材料( レントラックジャパン)