特集【アマゾンVSネットフリックス動画配信サイトの未来】
世界配信 笑うのはどっちだという記事が、日経MJ10月3日号に載っていた。どちらも米国の、Netflixとアマゾンドットコムの、動画配信サービスが日本に参入して、3年経ったということだ。
私は、どちらのサービスもとっているが、この2つをマーケターの視点で比較してみたい。
アマゾンとネットフリックスの動画配信サービス
この2社のサービスは似て非なるものだ。eコマースとの組み合わせをビジネスの中心に据えるアマゾンと、動画配信専業のNetflixの戦いというコトである。
どちらのビジネスモデルも、動画を配信する場を提供する、というプラットフォーム型である。
アマゾンは、BtoCの商売をベースにした、小売業が主な事業ドメインだし、Netflixはもちろんながら、映画と自作を中心とした、ドラマとエンターテイメントの「総合」動画配信サービスだ。いわゆる専業業者なのだ。
また、Netflixのほうは特に、基本的にサブスクリプションタイプのビジネスモデルである。
3つのコースの有料課金のコースがあり、1ヵ月の無料配信お試し期間があり、1月800円、1200円、1800円のコースが設けられていて、それぞれによって条件が違う。
一方でアマゾンは、動画配信そのものは、典型的なサブスクリプションタイプのサービスではない。通常のサブスクリプションのように、会員であれば動画を見続けることができるが、アマゾンでは、その会費は動画配信サービスのみでなく、アマゾンが展開する小売業の商品配送の送料無料サービスや、お届け日指定サービスといった、主要ビジネスのトータルの、付帯サービスの中の一環である。
このように、アマゾンとNetflixは、一見同じようなビジネスモデル、同じような有料動画配信サービスを提供しているように見えるが、本来そうなのであろうか、というポイントを、もう少し深堀りしてみたい。
アマゾンとネットフリックスの事業の定義は?
まず、アマゾンの動画配信サービスは、もちろんそれ1つだけを考えても、質の高いサービスである。
かなりの数の動画配信サービスコンテンツを、無料で楽しむことができるし、新しい映画なども1本あたり別途料金がかかるが、楽しむことができる。
また、今の段階でアマゾンの優位性は、その強調フィルタリングを使ったリコメンデーションにある。やはり私が見たい映画、私の視聴履歴に基づいた、オススメ作品のリコメンデーションの精度は、ついクリックしたくなる質の高さだ。
さらに、カスタマーレビューの数も多く、またその内容も的を得ているものが多い。
いくら無料とは言え、約2時間の映画を見るときに、ハズしたくないという気持ちになる。面白そうかどうか、を判断するにおいて、やはりカスタマーレビューの星の数とその信憑性を、第三者の公平な意見として尊重するのだ。
しかしながら、アマゾンの動画配信サービスは、現段階ではあくまで主要な小売サービスの、付随サービスの一環に見える。
もちろんながら、吉本興業とがっちり組んだ、ダウンタウン松本人志さんのオリジナル番組を作成したりと、話題になっている企画も多いが、やはりメインは小売業、すなわち売ってなんぼなのだ。
一方で、Netflixのほうは、専業の動画配信サービスということもあり、サイトの使いやすさや、視聴できる本数も評判通り。
さらに、ネットフリックスの場合は、最初の登録時に、いくつかの映画の中から、好きな映画を3つ選ばせる。それによって、その人にマッチした画面構成にしていく。これは、アマゾンのレコメンデーションと同じ考え方だ。
さらに、見たいコンテンツのキーワードを検索すると、そのキーワードにマッチしている度合いが、マッチ度90%などと数値化されてタイトルの横に出るのもいい。
また私は映画が好きなので、ドラマシリーズのほうはまだそれほど見ていないが、Netflixのラマシリーズの完成度の高さは評判が高いし、さらに自主制作のオリジナル映画にも、同じことが言える。
このオリジナルコンテンツを自主制作し、さらにその質が高い点が、Netflixの最大の強さであり独自性であろう。
日経MJの記事にもあったが、Netflixは製作者側を思いやる会社だという評判だとのことだ。
製作者が作りたくなる、俳優が出たくなるということは、作品に熱がこもり、ひいてはアートとして完成度が高く、エンタテイメントとして重要度が大きい作品ができる。
そしてそれが会員の間で評判になり、新規会員を獲得できる。そして、その利益を制作に投資するという、とても良いループができる。
一方でアマゾンも、日本では吉本興業と組み、松本人志氏のオリジナルコンテンツを作成し、さながら、アマゾンの広告塔のような形となっている。
この2者に共通している点は、どちらもオリジナルのコンテンツを製作することに、注力している、ということだ。
勝てる、選ばれる売り物を創るという、マーケティングの原点に立つ戦略と言える。
これまで、インターネットでの無料配信サービスは、広告をとることによって利益を稼ぐというビジネスモデルだった。
しかし、この2社に関してはそれではないビジネスモデルを構築している。
アマゾンのほうは言うまでもなく、小売業と言う事業ドメインの中での動画配信サービスだし、Netflixのほうは典型的なプラットフォームでありながらの、サブスクリプションタイプの有料配信サービスで、しかも特筆すべきは動画配信の専業モデルを十分活かした戦略をとっている。
ここで最も注目したいのは、両者がそれぞれ強みを生かし、どれだけ他社にない、オリジナルの、質が高い画期的な作品を、生み出せるのか、がこのようなビジネスの場合は勝負であろう。
コンビニエンスストアが、プライベートブランドを出したがるように、やはり、そこでしか見られない制作物や作品があると、当然ながら人はそこに集まる。
競争の中で、選ばれる最大の理由は、今だけ、ここだけ、あなただけなのだ。
この2社はそれぞれのアプローチで、その点をとても強く打ち出している。
これからの1年が楽しみだ。