吉野家好調の秘訣は「独自」サービス
【飲食店の差別化は値引きより接客】
先月、2016年3-11月期の決算を発表した吉野家ホールディングス。主力の牛丼チェーン「吉野家」の、既存店売上高が1.0%増と、好調だった。
円安傾向にあるため、米国から輸入牛肉を使っている吉野家にとっては、
けして追い風とは言えない状況にあるが、お一人様消費の傾向が強まったりと、吉野家にとって、向かい風ばかりでもない。
【吉野家のポリシー】
なぜ吉野家の収益は好転したのか?を考えていきたい。
吉野家が打つ手を振り返ってみると、昨年ソフトバンクと組んだ、牛丼並盛り1杯が無料になるキャンペーンや、現在やっている、「地域限定ご当地鍋メニュー」、そして、「牛すき鍋膳」が、どれも、目新しく好調だった。
私が、会社員として最後につとめた通販の会社で、マーケティングをしている時に、通販で冷凍パックの吉野家の牛丼セットを、売っていたことがある。
個人的な感想ではあるが、際立って美味しいし、買ってくださるお客様の多くも、「固定のファン」が多かった。
自分で買って自宅で出しても、当時10代だった息子も娘も、喜んでお代わりしていたことを覚えている。
吉野家の牛丼は、もちろん店頭で食べても、昔からの味は変わらなく美味しい。500円前後でのこのボリュームは、「早い、安い。うまい」の、キャッチフレーズ通りだと再認識できる。
吉野家は他の牛丼チェーン店と違い、券売機が無い。
これは創業以来らしく、「お客様に“あい対”して、接客する」というポリシーからだとのこと。「お金を払う時にも、注文を聞く時にも、機械に任せない」ということであろう。
一時期、牛丼チェーン店どうしが、価格競争を行っていたことがあった。
いいものを安く提供することは、けして悪いことではないが、吉野家のこの「人が接客する」という、ポリシーが、ファンに伝わっているのであろう。
通販で吉野家の冷凍牛丼を売っていた時に、販売促進のキャンペーンで、吉野家の人気抜群の「丼」が抽選で当たります、というキャンペーンを企画したことがあった。
しかし、当時の吉野家は、「この丼をけしてプロモーションには使わない」とのことで、実現が叶わなかったことを記憶している。
こういったこだわりにも、吉野家に愛着を持つ人が多い理由なのだろう。
ブランドを構築する、ということの目的は、顧客との良好な関係を創ること。いわゆる忠誠心(=Loyalty)を持ってもらい、他者に浮気されないことを目指すことだ。
そのために、「顧客に有益なことを継続する」ということが、顧客との距離感を縮め、重リピート購入につながる。
吉野家で言えば、値引きでひきつけるのではなく、「お客様に店員が直接注文を聞き、牛丼を運ぶ」というポリシーを貫いていることが、これにあたる。
【中小企業が学ぶべきこと】
中小企業が、吉野家に学ぶべきことは、券売機を置かないこと、ではない。
来てくれるお客様に、相対することが、機械を置くことによる経費削減よりも重要だ、という事業に対する姿勢であろう。
ITの導入や、機械による自動化の流れは、もはや無視できないほど進んでいる。
しかし、人による接客は、逆に機械やITには真似をすることができない。
準レギュラーで出演しているラジオ番組に出た時に、Fintechの話になった。「技術の進化は取り入れなければならないが、同時に中小企業は、ネットにできないことをすべき」と私が言った時に、貴金属の販売チェーンを経営しているナビゲーターは、「私の店では、店長が毎日ピン札をおつり用に用意します」と言っていたが、まさにこういう姿勢が必要だろう。
インターネットに真似できないことで、顧客満足を超える顧客歓喜を提供するのだ。これにより、不毛な値引き合戦からも脱却できる。
そのためには、顧客の行動を観察し、何を喜ぶかを、全従業員で考えていくことが、最初の一歩になるであろう。
■目次
… 1. 特集 「牛丼の吉野家の独自のサービス」
… 2. コラム 「冬でもかき氷:お茶屋さんがやるおやつのお店」
… 3. 書評 「実力派たちの成長戦略」
… 4. ワンポイント時間術「有限の経営資源を重視せよ」
… 5. 著書・イベントのお知らせ
… 6. 編集後記