客層分析をやめたセリアに学ぶこれからのCRM=理央周

客層分析をやめたセリアの英断に学ぶこれからのCRM

今号のテーマは「CRM」、ビッグデータ分析をもとに、顧客関係性とのマネジメントすることで、顧客の動きを予測し、販売促進につなげたり、新製品開発に活かしたりする考え方です。

アマゾンのレコメンデーションや、航空会社のロイヤルティプログラムなどが、CRM活用の代表的な事例です。

実践マーケティング入門では、第6章 203ページで説明していますので、参照ください。

年齢性別は顧客分析に必要か?

11月3日の日経MJの一面に、「客層分析、セリアやめるってよ」という記事が載っていました。

記事によると、百円ショップ大手のセリアが、どのような顧客が、いつ、何を、いくら買ったか、という購買データの分析をする中で、「客の性別と年代を集めることをやめた」という内容でした。

顧客データは、再購入・リピートを促すために、必要な要素だと考えられてきましたが、「特定の顧客層にしか刺さらない商品は、自社にとって死に筋とも言える。ヒット商品をつくるには、顔の見えないデータよりも、SNSや街の消費者の生の姿を見ていくことが重要」という判断が基本にあったと記事にあります。

ターゲットとする顧客想定をする場合に、

1. 年齢・性別・職業などの「属性」

2. 住居、働く場所などの「地域」

3. 顧客が重要視するであろう「価値観」

4. 顧客が普段行う「行動」

の4カテゴリーを洗い出すこと、すなわちセグメンテーションから始め、「都心に住む(地域)、健康志向で(価値観)、ダイエットとジム通伊藤をする(行動)20代のOL(属性)」といった具合です。

セリアはこのうちの、性別と年齢データを取得することをやめた、ということなのです。

モノや情報が今ほど溢れていなかった2、30年前では、30代男性が購入する髭剃りの傾向は、ある程度明確に存在したし、20代女性が好む基礎化粧品などもあったはずです。

しかし、画期的な製品カテゴリーが新しく生まれず、商品も出尽くした感がある中、同時に、SNSをはじめとして、情報を世に送り込む「メディア」も、種類が増え、ますます細分化しています。

それにより、消費者の趣味嗜好も同じように細分化されます。こうなると、年齢や性別での購買傾向というよりも、趣味嗜好、好みといった、心理的な傾向や、困っていることを解決したいという、ニーズ中心の購買傾向が高くなってきているのです。

つまり、「40代の女性だからこの商品を買いそうだ」という傾向は必ずしもなく、「アンチエイジングに興味がある人たち」が、年齢や性別に関係なく買う傾向になってきているのです。

セリアの今回の決断はこの点を重視したと思われます。年齢や性別といった数字は、本来の売れ筋商品を見極めるさいのデータとして、逆に「雑音」として社員が受け取ってしまう、ひいては、優先順位を間違えてしまうことにつながる、という理由があったとのことです。

記事にはさらに、ファミマやローソンも同様な措置を取ったとあります。背景には、自社のポイントカードで取れる、顧客情報で十分だ、ということがあるようです。

マーケティングの基本は、売り手側の企業目線ではなく、顧客の視点に立つこと。

そのためには、顧客の本音をいかに吸い取り、その期待を超える製品やサービスが開発できるかが、競争優位の源泉になります。

その出発点になるのが、顧客の行動を観察することで、気づきを得ること。セリアはまさに、これを実践しているのです。

成長企業はセリアから何を学ぶべきか?

ビッグデータ分析という言葉が流行っています。特に、インターネットでの販売をしている企業は、アマゾンや楽天を真似て、「顧客データが重要だ」「分析をしなければ!」と意気込み、多くのデータを取ろうとしがちです。

しかし、データはあくまで、分析のためのツールの一つでしかありません。重要なことは、「平時とは異なる異常値に気づき、収益をあげるためにどのようなアクションを取るべきか」ということです。

したがって、顧客分析やデータ収集においては、何でもかんでも数字を集めて、そこから何かを探し出そう、という演繹的な考え方よりも、売りの現場に出向き、「平時と異なる異常値を発見すること」「そこから気づきを得ること」「次のアクションにつなげること」という帰納的なアプローチの方が、顧客の本音(=インサイト)の発見につながりやすく、ひいては競争優位の源泉になる、独自性を持つ製品開発につながります。

また、この根底には「戦略はやめること」という考え方があります。

企業が持つ、ヒト・モノ・カネ・情報・時間という、経営資源は全て有限です。

経営資源を効率よく活用するためには、やめること、すべきでないことを決め、厳選した戦略の中から、優先順位を決める、選択と集中が不可欠です。

その意味でも、セリアがやめた、顧客データから性別と年齢を削除する決断に、学ぶところは多いと言えます。

■目次

… 1. 特集「客層分析をやめたセリアに学ぶこれからのCRM」

… 2. コラム 「名古屋居酒屋のイノベーション度合い」

… 3. オススメのビジネス書「生産性」

… 4. 時間術「ITは最初と最後に登場させよ!」

… 5. 著作・イベントのお知らせ

… 6. 編集後記

2.コラム:名古屋の古参居酒屋のイノベーション具合

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