メジャーのスプリングトレーニングは日本のキャンプとどこが違うのか(連日の試合、観光資源としての集客力、招待選手)

日本では2月1日から全球団がキャンプインし、今がたけなわだ。そして、メジャーリーグでも今週から各球団のバッテリー組が順次、フロリダとアリゾナでキャンプ(あちら流に言えば、スプリングトレーニング)に入る。そして、下旬には野手組も合流し、実際にゲームも始まる。今回は、メジャーリーグのスプリングトレーニングの位置付けや構成を日本のキャンプと対比し、解説したいと思う。

「スプリングトレーニングは希望の一語につきる」。これは、野球に関する名作が多い『ニューヨーカー』誌元エディターのロジャー・エンジェルの言葉だ。

これについては、全く同感だ。実際には、多くの選手にとって生き残りを掛ける場なのだが、全ての選手や球団、ファンが夢を抱くことが許される季節でもある。冬の寒さから解放され、降り注ぐ日差しを一杯に浴びる。そして、飛び交う白球。また、ベースボールのシーズンが戻って来たのだ。日本では千本ノックや投げ込み、地獄のマラソンなど「鍛錬」のイメージが付きまとうが、メジャーのそれはあくまで開放的な「希望」の季節だ。

ぼくも経験があるのだが、この時期アリゾナ州フェニックスの空港からレンタカー会社の合同配車センターに向かう無料シャトルバスは、全米各地から訪れた贔屓球団のジャージを着たファンで一杯だ。バスの中では、見知らぬ者同士が「オレはシカゴから来たんだ」「今年こそウチがいただきだよ」などと話が弾み、とても良い雰囲気だ。

外野の芝生席で陽光を浴びながら、ゲームを肴におしゃべりに興じる。

これこそ、スプリングトレーニングの楽しみ方だ。
駐車場で過ごす時間すら、楽しみの一部だ。

スプリングトレーニング(以下ST)地は、フロリダとアリゾナの2地区に分かれ、それぞれグレープフルーツ・リーグとカクタス・リーグと呼ばれている。かつては、1957年以前には西海岸にメジャーリーグが存在しなかったということもあり、「元祖」のフロリダに対し、アリゾナは球団数も少なく「後発」のイメージは拭えなかった。1949年公開のフランク・シナトラ主演映画「私を野球に連れてって」も、舞台はフロリダでのSTだ。

しかしこの状況は少しずつ変化した。特にここ10年のアリゾナの「躍進」は目を見張るものがある。その中で、2009年にドジャースが48年から使用していたフロリダのベロビーチから、アリゾナへ移転したことは象徴的な出来事だった。かつてV9時代の巨人が合同キャンプを張り、95年には野茂英雄がマイナー契約からのメジャー挑戦の出発点となったベロビーチのドジャータウンは、STの「聖地」でもあったからだ。そのドジャースは、フェニックス郊外のグレンデールにホワイトソックスと共用の施設を手に入れた。また、この年にはインディアンスが、翌年にはレッズがフロリダから「リーグを移転」して来た。これで、アリゾナはフロリダと同じ15球団と数で対等になったのだ。

ここまでアリゾナが隆盛になってきた理由としては、まずは地理的要因が挙げられるだろう。広いフロリダ半島に各球団の施設が点在する「グレープフルーツ」では、移動にバスで数時間掛かる。一方、「カクタス」は比較的狭い範囲に集中しているのだ。今季から上原浩治が所属するカブスのメサと、ダルビッシュ有のレンジャーズとロイヤルズが共用するサプライズが、最も距離が離れていると言えるが、それでも渋滞がなければクルマで1時間の距離だ。また、フロリダとは異なり、雨がほとんど降らない気候もアドバンテージと言えるだろう。

「カクタス・リーグ」の由来は、アリゾナ名物のサボテンだ。

そして、忘れてはならないのがアリゾナの熱心な誘致活動だ。その背景には、STの経済効果がある。少々古いデータで恐縮だが、2012年12月にNPO法人の「カクタス・リーグ・ベースボール・アソシエーション」(MLB機構とは直接的な関係はない)は、「2012年のSTの地元への経済効果は6億3200万ドルだった」と発表している。したがって、前述のカブスなどは、2014年に新ST施設へ移転しているのだが、この時はフロリダへの転出をちらつかせ、メサ市に新設備の建設を迫ったのだ。結局、メサは約1億ドルもの公費を投じて新施設を作ったのだが、カブスが転出した場合の経済損失は、1年で1億3800億ドルと報じられており、致し方なしということだったのだ。そう、STは立派な観光資源なのだ。

多くの施設が複数球団に使われている。

メインの球場だけでなく、サブグラウンドが大量に併設されているためだ。

観光資源という点では日本の南九州や沖縄も同様なのだが、両国のST地には決定的な違いがある。

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