アメリカの野球殿堂は日本のものと何が違うのか① ロケーションと野球環境

過去2回、野球殿堂について述べて来た。その仕組み今年の選出の予想だ。投票結果については19日に明らかになった。ぼくの予想が当たっているものもあれば、見事に外れているものもある。どっちにしても、旬が短いウェブ媒体でくどくどと記す必要はないだろう。ここからは、野球殿堂の最終シリーズとして、アメリカの殿堂は日本のそれと何が違うのかを、2回に分けてお伝えしたいと思う。残念ながら、アチラの素晴らしさを述べれば述べるほど、日本の殿堂が残念に思えてしまうのだが、それは致し方なしとご容赦いただきたい。

違いその1「ロケーション」

ご存知の通り、日本の野球殿堂は都心のど真ん中にある、と言えば聞こえは良いが、物理的には東京ドームという一球団の本拠地の施設の一部となっている。公共交通機関でのアクセスは申し分なく、後楽園という場所は日本のプロ野球の歴史上「聖地」であることは間違いないが、ドラマ性には欠けると言わざるを得ない。

一方のアメリカである。殿堂があるクーパースタウンは一応ニューヨーク州に属しているが、日本人のわれわれがイメージするマンハッタンに代表されるニューヨークとは全く異なる牧歌的な田園地帯だ。実際、遠い。マンハッタンのポートオーソリティ・バスターミナルからグレイハウンドのバスが出ているが、一日一便しかなく片道6時間くらい掛かる。したがって、現地でのモビリティも考慮すると、レンタカー以外の手段はお勧めできない。そのレンタカーでも、距離は約200マイル(約320キロ)なので、途中休憩を含めると4時間以上は必要だ。タイトなスケジュールをやり繰りして訪れるには、それなりにハードルは高い。

クーパースタウンまでのカントリーロードと街並み

ただし、その行程はそれ自体がひとつのエンターテイメントとも言える。取るべきルートは何種類かあるが、基本的にはハイウェイ走行は中間地点までで、そこから先はスコットランドの丘陵地帯を思わせる美しい草原や農地を抜ける一般道を走ることになる(信号はほとんどない)。また、この辺りの気候は都会とは全く異なる。ぼくがクーパースタウンを訪れたのは2012年の8月の一度のみだ。その日は、レンタカーでクイーンズ区のラガーディア空港を出発した朝8時過ぎの時点で、すでに東京の真夏並みの暑さと湿気だったのだが、クーパースタウンに近づくころにはクルマのエアコンを切って窓を開けると快適極まりなく、ふんだんに車内に入って来る風には冷たさすら感じた。

避暑地としてのクーパースタウン、森と湖の街
ぼくが泊まったモーテル、湖のほとりに在った

もともと、クーパースタウンは森と湖に囲まれた避暑地だ。ぼくは、野球殿堂からクルマで20分くらいの場所に位置するモーテル(デイズインだとかスーパー8だとかのチェーン系ではなく、それこそ古い映画の「サイコ」の舞台になったような、家族経営の独立系だ)に泊まったのだが、窓からは敷地内の芝生に野生のリスを多く見つけることができ、オッセゴ湖を望むことができた。周囲には相当間隔を空けてポツンと別荘が建っているのみ。ジョギングすると別世界感がハンパない。野球に全く興味がない人がひと夏をここで過ごす価値すら、十分にあると思う。もっとも、この辺りは真冬は豪雪地帯であることは付け加えておく必要があるだろう。

モーテルの部屋の窓から(1)
モーテルの部屋の窓から(2)



違いその2「周囲の野球度」

クーパースタウンのメインストリート

クーパースタウンを訪れる価値は、野球殿堂博物館のみにあるのではない。それを囲む周囲の野球環境が素晴らしい。殿堂から数百メートルの場所に在るダブルディ・フィールド(十数年前まで毎年夏にMLB球団による献納試合が行われていた)までのメインストリートには、ありとあらゆる野球関係のグッズショップが並ぶ。それも、各球団のロゴ入りのオフイシャルもののような「無味乾燥」なものを扱う店舗ではなく、古い野球カードやイヤーブック、サインボールなどのいわゆるメモラビリアのショップが中心だ。また、それらの価格もリーズナブル(と言うか、店舗が多いためそれなりに競争原理が働いているのだと思う)で、ぼくが訪れた際には戦前のカードもそれこそ10数ドルから流通していた。また、サインボールもイチローのものですら、30ドルくらいであった(その分、認定証は付いていなかったかもしれない)。

ダブルディ・フィールドでは高校生の試合が行われていた
メインストリートには多くのメモラビリアショップが並ぶ
カードショップには戦前のカードも多数陳列されていた
「イチローはホント偉大だな、間違いなく初年度に殿堂入りすると思うよ」

また、古い用具を専門とする店もあり、ヒンジ部分のないキャッチャーミットはもちろん、「アミ」がなく四本の指の部分も結び付けられていないグラブなどがゴロゴロしている。それらの価格も100ドル未満でもかなり選ぶものがあり、この環境に舞い上がり金銭感覚がマヒしていると、思わず財布の紐が緩んでしまう。

昔の用具も多数売られていた

ここでは、野球殿堂博物館の見学以外に丸一日は確保しておく必要がある。日本の野球殿堂も、周囲は後楽園で違う意味でエンターテイメントが溢れているが、どちらが野球好きの琴線に触れるかは言うまでもないだろう。



<次回予定>

違いその3「博物館の充実度」

違いその4「殿堂入りの名誉」