[Pro’s Views] (1)脚本家 小林雄次さん

各界の第一線で活躍するプロフェッショナルの方々の眼には、どのような風景が見えているのか? 様々な世界の最前線で活躍するプロフェッショナルの皆さんへのインタビューコンテンツ「Pro’s Views」。

その仕事術や発想術、またお気に入りの風景など色々なことをお聞きします。その話の中には、私たちの人生に新しい風景を拓くヒントが見つかるかもしれません。

第1回の今回、お話をお聞きするのは、『ウルトラマン』シリーズや『牙狼』シリーズなどの特撮作品、『プリキュア』シリーズや『聖闘士星矢Ω』などのアニメ作品等、数多くの話題作の脚本を手がけ、小説、演劇の演出、漫画原作、映像監督など幅広いフィールドで活躍されている、脚本家の小林雄次さんです。そのお仕事の根底にある発想の源や日々の視野視点など、様々なことをお話し頂きます。(2015年1月にPaddyサイトにて掲載されたインタビュー記事です)

■仕事のこと

昨年(2014年)7月からはシリーズ構成を手がけたアニメ『美少女戦士セーラームーンCrystal』、特撮『ウルトラマンギンガS』の2作品が放送されました。ほぼ同時期のスタートだったので、一昨年から昨年にかけては今までとはかなり違った怒濤の忙しさでした。

近年は子ども向けの作品をたくさん書いたので、複雑な設定や複数の人間をシンプルに書くことに慣れたというか、かなり得意になったんですけど、『監査法人』(NHK/2008年)のような大人の複雑な世界を描く作品から少し離れていたんですね。人間のえぐい内面を描いたような映像作品もまた手がけてみたいです。

スマホは、仕事ではよく使ってますね。打ち合わせのために移動をすることが多いんですが、Dropboxで仕事用のパソコンの書類を共有しているので、出先での空いたスキマ時間に書類を読んだり調べたりできるようにしています。シナリオや企画書などを移動中に読めるというのはとても魅力です。移動中に思いついたアイデアをスマホにメモすることもあります。

またラジオドラマを何本か手がけたんですけど、それらもスマホに入れています。ラジオドラマを聞き返すというよりも、自分の作品がスマホに入っているんだということ自体が嬉しいんですよね。(笑)

■世の中を見ること

人生の中で最も衝撃的だったのは、地元の長野市から東京に出てきた時。渋谷や新宿など各駅が大都市だし、単館系の映画もちょっと電車で行けばいろいろ見に行けるし、とにかく世界観が何倍にも広く感じました。僕からすると東京の人はすごくうらやましかったのですが、東京で生まれ育ってそのまま東京にいる方からは、逆に「田舎があるのがうらやましい」と言われます。

創作をしたい、物書きをしたいという人は、環境を変えることは大きいと思いますね。見える世界ががらっと変わります。環境が変化することを恐れる人は多いけど、今いる場所じゃないところに自分から飛び込んだほうがいろんな発見があるし、いろんな体験、いろんな情報が得られます。

5年前から大学で非常勤講師として脚本専攻の学生たちに教えてるんですけど、今は映画やドラマではなくてアニメや漫画などからこの世界に興味を持つ若者が多いです。そのせいか、世界観の設定から入りたがり、人間ドラマが広がらずにキャラやプロットが設定に負けている学生が多い気がします。

人間ドラマが要らない作品を造るなら、脚本家という職業は必要なくなります。脚本家を目指す人は、作品の研究もいいですが、自分からリアルな世界を広く歩いて見聞を広めたほうがいい。これは若者への提言というより、なかなか出歩く機会が持てない自分への自省でもありますね。

■出かけること

散歩はよく行きますよ。仕事場からちょうど1時間で行って帰ってくることができるルートが2つあるんです。川沿いを通り緑地もあるコースで静かなんですよね。仕事場で仕事をしていて行き詰まった時には、気分によってそのどちらかを選んで歩きます。

それらのルートは「ちょうど1時間」といっても、かなり急がないと間に合わない距離。小走り気味に歩きます。一時期、体重が一気に増えた時期があって、歩かなきゃと思っていた頃に編み出したルートです。何かをじっくり考えるためというより、運動不足解消と気分転換のために1時間を確保するという感じです。

打ち合わせの場所に少し早めに行ってその周辺を歩いてみたり、戻ってきた時にいつもとは違う駅で降りてみたりもします。最近もまた、徒歩圏内に自分の知らなかった銭湯を発見して、うちの周辺にはこんなに銭湯があるものなのかと驚きました。最近は都内の古い銭湯を探して入りに行くのも楽しみの一つになっています。

一緒にお仕事をした監督の中には、散歩をしながら考えたほうがはかどるという方もいらっしゃって、監督と2人で新宿御苑の中を歩きながらドラマの打ち合わせをしたこともあります。クリエイターの方は、何かしら自分なりの散歩の仕方を持っているように思います。

■お気に入りの風景

これは一昨年の秋、宮島の厳島神社に行った時にちょうど陽が沈むタイミングだったので撮った写真です。広島に行った理由ですか? 特に深い意味はないんですけど、そう言えば尾道にも原爆資料館にも宮島にも行ったことがなかったなあって思って。それらを全部巡ってきました。

年に1回ぐらいは旅行に行くようにしています。この仕事をしていると、あらかじめ予定を立てていても急な執筆の仕事が入るし、手がけていた仕事が急に終わったりなくなったり片付いたりします。いきなり「明日から3日間いなくなっても大丈夫だぞ」みたいな日が来ることがたまにあるので、そんな時にふらっと行きます。

行き先を決めるのも、何となくですね。宮沢賢治が好きだからと岩手県花巻市に行って、松島に寄って帰ったり。震災後の様子を見ておこうと宮城県石巻市に行って、猪苗代湖に寄って帰ったり。まずは最初の行き先を決めてそこに行き、着いた後で次の日からどこに行こうかなと考えて移動先を決めることが多いです。次に行ける機会があるとしたら、まだほとんど行ったことがない九州や四国などもいいですね。

■小林 雄次(こばやし ゆうじ)

脚本家。長野県出身。

アニメ『サザエさん』で脚本家デビュー。その後『ウルトラマンマックス』『牙狼 <GARO>』『獣拳戦隊ゲキレンジャー』『宇宙刑事ギャバン THE MOVIE』等の特撮作品、『スマイルプリキュア!』『聖闘士星矢Ω』『美少女戦士セーラームーンCrystal』等のアニメ作品、『監査法人』『オルトロスの犬』等のTVドラマなどの映像作品の脚本をはじめ、小説、舞台、ラジオドラマ、漫画など幅広い分野の作品を手がける。

2016年には特撮『ウルトラマンオーブ』のシリーズ構成・脚本、Amazonオリジナルドラマ『ベイビーステップ』脚本を担当、小説『小説 スマイルプリキュア!』『牙狼<GARO>暗黒魔戒騎士編 文庫版』『牙狼<GARO>妖赤の罠 文庫版』等を上梓。

・公式ブログ:「小林雄次の星座泥棒