[Pro’s View](8)漫画原作者・映画監督 梶研吾さん

様々な世界の第一線で活躍中のプロフェッショナルの方々に、その視点や考え方についてお話をお聞きする「Pro’s View」。

第8回の今回は、漫画原作者、映画監督の梶研吾さんにお話を伺います。他にも脚本家、舞台演出家、小説家、プロデューサーなど多彩な顔を持つクリエイターであり、神奈川工科大学情報学部情報メディア学科の教授として次世代のクリエイターを育てている梶先生に、お仕事のことや風景との出会いのお話など、様々なことをお聞きしました。(2015年7月にPaddyサイトに掲載されたインタビュー記事です)

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■仕事のこと

最近の漫画の仕事は、「乱TWINS」で連載中の『そば屋幻庵』の原作を担当中です。映像では間もなく公開予定の映画『炎 ~HOMURA』の監督、7人の監督が7人の女優さんを主役に据えて撮るオムニバスムービー『薔薇七(バナナ)』の脚本と総監修、ショートムービー『つぎはぎマサコ』の監督を手がけ、大手書店の店頭宣伝用にある小説の新刊予告ムービーといった新しい試みにも挑戦しています。

神奈川工科大学では「キャラクター概論」「キャラクター創作論」「キャラクター制作」の講義が5年目になったのですが、今年は「スマホムービー制作」という演習を行っています。自分たちで脚本を作り、実際にプロの役者さんを呼んで演じてもらって撮影します。最近の学生は入学前からスマホでの撮影にも慣れている世代なので、かなり優秀な子達が多いです。

持ち歩いているスマホはiPhone5で、最近はiTextを使ってよく移動中に原稿を書きます。フリック入力で書くこともあるし、口述筆記をすることもあります。脚本は基本的に話し言葉ですから、口述のほうがうまくいくことが多いんです。他に、映画監督などが使うアングルファインダーのアプリを、ロケハンのためにに使用することが多いですね。

これまでに買い込んできた書籍が膨大な量になったので、それらを電子スキャンしてkindleで読むことも多いです。貴重な書籍や資料も1万点以上あってずっと収納に困っていたんですけど、墓場まで持っていくわけにもいかないし、紀伊国屋書店さんの御協力も得て神奈川工科大学の大学図書館に寄贈させていただいて、今現在もアーカイブのプロの方々に整理してもらっています。図書館ではその一部が「梶コレクション」として展示されていて、学生諸氏だけでなく私と同世代の親御さんたちにも好評のようです。



■世の中を見ること

漫画原作や脚本というと室内に閉じこもって書くものだと思いがちですが、できるだけ外に出ることが大事なんです。いろいろな風景を見たり、いろいろな人を観察したり、いろいろな人に会って話したり、いろいろなものを食べたり。漫画も映画もドラマも、結局は「人」を描く、「人が生きている風景情景」を描くことだからです。

長く続くような作品を生むには、深く考え抜くよりも「とりあえずやってみようか」というぐらいの肩の力を抜いた気楽さで始めるほうがいい。「今流行っているからこれをやってみよう」「逆にブームからすごく外してみよう」などと考えすぎるとダメですね。

今手がけている漫画『そば屋幻庵』も、最初はお試しということで1話だけ載ったのが、予想外に好評だったので連載になり、試しに1巻だけという話が今では12巻も続いています。大先輩たちの例にも、何年も考え続けた作品が全く当たらないのに、編集者と15分話しただけでできたようなものが大ヒットしたというものがたくさんあります。でもそれも、それまでの失敗や蓄積があったからこそうまくいくんだろうなと。

友人のイタリア人作家が言ってたんですが、イタリアの学生が20万円ぐらいでyoutubeだけで公開するマカロニウェスタンの連続ドラマを作ったところ、いきなりハリウッドから「何十億出すから映画にしないか」と連絡があったらしいんですね。やってみるもんだなと。まず試しにやるという行動が大事で、逆に「これで稼いでやろう」と思うと失敗する。僕も学生達と何か手掛けようかなと考えていて実行に移しつつあります。



■出かけること

以前は都心の表参道に住んでいたんですけど、今は湘南地区ののどかな場所に引っ越しています。都心の頃は自動車の騒音で眼が覚めていたのが、今では小鳥のさえずりで起きますから、気持ちがいいですよ。涼しい和室で寝転んで好きなだけ本を読みながらウトウトするのが楽しいです。

創作は環境を選ばないというか、今は世界のどこにいても物書きはできるし情報は得られるので、クリエイター仲間にも九州とか外国など都会から離れて生活をしている人がけっこういます。街から車で何時間の里山で自給自足で暮らしているなんていう友人もいますよ。

神奈川県に移ってから、東京での打ち合わせの時の移動がけっこう長時間になったので、わざわざ散歩のために外に出かけるということはなくなりました。それに、移動時間に原稿を書いているから、自宅の室内で原稿を書くことがほとんどなくなりました。バスでの移動も多くなりましたが、様々な乗客の皆さんの人間模様を目にすることができて勉強になります。

今こうしてサングラスをかけているのは、別に監督面して気取っているわけじゃなくて、眼の治療中なんです。まあ、長年の不養生と運動不足と老化現象でしょうね(笑)。これからはもうちょっと歩いたり走ったりしなきゃいけないなあと思ってます。



■お気に入りの風景

これは神奈川工科大学のキャンパス内の桜並木です。この大学周辺は市街地から離れていてのどかですし、キャンパスの中もこのように自然が多くて、研究室からの眺めがすごくいいんですよ。夏の夜に見上げると満天の星空が広がっていて、教え子たちと撮影後にキャンパスの中央緑地の真ん中にみんなで寝転がってその星空を眺めるのがとても気持ちいいんです。

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■梶研吾 (かじ けんご)

漫画原作者、映画監督。三重県出身。1987年に『危めのヴィーナ』で漫画原作者デビュー。『交通事故鑑定人 環倫一郎』『”殺医”ドクター蘭丸』など数多くの漫画原作を手がけ、 現在「乱TWINS」(リイド社)にて連載中の『そば屋幻庵』のシナリオを担当中。『ウルトラマン』シリーズの監督をはじめ、映画監督、脚本、舞台演出、小説、映画プロデュースなど幅広い分野で活躍。2011年4月より神奈川工科大学情報学部情報メディア学科特任教授に着任。キャラクター創出造形、キャラクター工学を研究・指導する。

公式twitterアカウント



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