2017年 MLB野球殿堂入り ② 結果発表直前の大予想



前回は、野球殿堂入りのシステムについて説明した。今回は現地時間18日に発表される今年のBBWAA(全米野球記者協会)選出結果の見どころと予想をお伝えしたい。


今回の目玉のひとつが、引退後5年を経て新たに有資格者に名を連ねた、ブラディミール・ゲレーロ、イバン・ロドリゲス、マニー・ラミレスの3人の動向だ。彼ら全員がラティーノであるところに現在のMLBと今後の殿堂入り者のトレンドが窺い知れるのだが、加えて彼らは薬物使用に関し「シロ」「グレー」「クロ」と三様なのも興味深い。

ドミニカ出身で「シロ」(と思う。はっきり言いきれないのは、完全潔白を証明することは不可能だからだ)のゲレーロは、エクスポズ(2004年を最後にモントリオールからワシントンDCに移転し、ナショナルズとなった)を中心に活躍した野生児系の外野手だった。2002年にはあわや40-40の39本塁打&40盗塁を記録、エンジェルスに移籍した2004年にはMVPに輝いた。ただし、「野生児」なのはフィジカルのみで、人柄は素朴そのもの、英語が苦手だったこともあり、メディアの前で多くを語ることはなかった。しかし、”The last great Expo”であったことは間違いなく、2016年開幕直前のモントリオールでのブルージェイズのプレシーズンマッチでは試合前のセレモニーに登場し、大歓声を浴びた。ちょうどぼくも現場に居合わせたので感無量だった。余談だが、帰路のモントリオール空港で彼に出くわした。同じLA行きの便だったのだ。本来なら、ずうずうしく彼に話しかけるところだが、その時ぼくは航空会社の手違いで勝手に次の便に廻されそうになっており、搭乗ゲートが締まる寸前までユナイテッドのスタッフと怒鳴り合いにも近いハードネゴ中だったので、それどころではなかったのが残念だった。

話を戻すと、そんなゲレーロの不安材料は、現役生活が16年と比較的短かったため、通算本塁打は449本、安打数も2590本と、好成績ではあるが、殿堂入りへのパスポートと言われている500本塁打や3000本安打にいずれも届かない点だ。最終的には選出される可能性は高いが、今回The first ballot(初年度での選出のことで、最高の栄誉とされる)はチト難しかろう。

次は、「グレー」のイバン・ロドリゲスだ。プエルトリコ出身の彼は、捕手としての最多出場記録(2427試合)の保持者だ。加えてゴールドグラブも13度受賞しており、史上ナンバーワン捕手に押す声すらある。打者としても、極端な早打ちで出塁率は低かったものの通算2844安打&311本塁打を記録。1999年にはMVPを獲得した。しかし、2005年に発売された球界のお騒がせ男ホゼ・カンセコの暴露本「Juiced」(クスリまみれ)で、ステロイドを使用していたと書かれている。実際に薬物検査で陽性反応を示したことはないが、個人的な印象としてはどちらかと言えば「シロ」より「クロ」に近い。彼への投票を躊躇する記者は少なくないとぼくは思うのだが、一発殿堂入りと予想する向きもある。

最後のマニー・ラミレスは「まっクロけ」だ。2度も薬物検査陽性反応で出場停止処分を受けている。しかも、同じドミニカ出身でもゲレーロとは対照的に我が道キャラ(しばしば、”Manny being Manny”マニーはやっぱりマニー、と称された)の彼は、2度目の処分が決まった際には、反省の言葉を述べるどころか「じゃ、辞める」とあっさり引退を宣言した(その後、復帰を目指すも叶わず)。しかし、打者としては超一流であったことは間違いなく、首位打者(2002年)、本塁打王(2004年)、打点王(1999年)すべての獲得歴があり、通算555本塁打は歴代15位。通算のOPS.996も文句なしだ。この度、日本の独立リーグ球団での現役復帰が決まったようだ。かつて彼を追いかけ台湾まで渡ったことのあるぼくには、来日するなら見に行かないテはない。しかし、今回の投票に関して言えば、「限りなくクロに近いグレー」のバリー・ボンズやロジャー・クレメンスが得た直近の得票率がそれぞれ44.3%と45,2%で、通算609本塁打(歴代8位)のサミー・ソーサに至っては7.0%だったことを考慮すると、悲劇的な低率に終わる可能性もあると見る。

しかし、ロドリゲスはもちろん、ラミレスすら将来殿堂入りすることも決してあり得なくはない。前回のコラムでも述べたように、10年のスパンがあれば、メディアやファンの殿堂入りに対する考えに大きな変化が生じる可能性は低くないからだ。実際、「野球殿堂は聖人の館ではない」として「単純に成績だけで判断せよ」との意見や、「1960-70年代の選手ですでに殿堂入りしている者の多くは、当時蔓延していたとされる興奮剤を使用していたはずであり、不公平ではないか」との声も、FOXのケン・ローゼンタルらの「意識高い系」ジャーナリストからは出ている。また、2016年に、薬物使用の噂が付いて回っていたマイク・ピアッツア(捕手として史上最多本塁打記録の保持者)が殿堂入りを果たし、今回は同じく「噂組」のジェフ・バグウェルの殿堂入りがほぼ間違いないことも、状況の変化を促すかもしれない。

バグウェルの名前が出たところで、ラティーノトリオ以外の候補者の動向も記してみよう。そのバグウェルは、15年間のキャリアで、オールスター選出は4度で、1994年にはMVPに輝いている。前回は得票率71.6%と殿堂入りに必要な75%の得票率にわずか及ばなかった。他にも歴代5位の808盗塁を誇るティム・レインズ(69.8%)、601セーブは歴代2位のトレバー・ホフマン(67.3%)も「もうちょっと組」だった。

この3人に関しては、今回は可能性大だが、逆に言えば、2018年はスイッチヒッターとしては史上唯一の3割&400本塁打のチッパー・ジョーンズ、通算612本塁打のジム・トーミ、19年は歴代1位652セーブを誇のマリアーノ・リベラ、20年はあのデレク・ジーターと、初年度での当選がほぼまちがいない有力な新規の有資格者が控えているだけに、今回で決めておきたいところだ。

レインズは、前回は23票不足で涙をのんだ。彼は、今回が10年目でラストチャンスとなるが、可能性は高いだろう。前回は、一気に15ポイント近くも票を伸ばしているからだ。

その背景には、BBWAAが2年前に資格保持期間をそれまでの15年から一気に10年に短縮したことがある。当時は、その時点ですでに7回も落選を重ねていたレインズは、この変更でもっとも不利益をこうむる候補者だと指摘する批評家も少なくなかった。しかし、実際には彼の得票状況はそれ以降目覚ましく改善された。資格保持期間の短縮は、記者により真摯な投票を促す効果をもたらしたと言うべきだろう。

ホフマンは、初年度の前回は34票不足だった。殿堂入り投票では、救援投手への評価基準は残念ながら確立されていない。長きにわたり通算セーブ1位の座を堅持していたリー・スミスですら、14年目の前回も34.1%しか票を得られていない(彼の場合は、資格保持期間の10年への短縮が発表された時点ですでに10年を超過していたため、15年の有効期間が適用される)。ホフマンも最終的には殿堂入りするだろうが、今回当選できるかは微妙だ。

ここに紹介した3人とはかなり得票実績に差があるが、数年後はかなり有望な候補者が2人いる。

最多勝利2回で2004年ポストシーズンでの「血染めのソックス」での熱投で知られるカート・シリングは、前回は13.1ポイントアップの52.3%、通算270勝のマイク・ムッシーナは18.4ポイントも上げ43.0%だった。今後しばらく先発投手の有力候補が出てくる見込みがないのも好材料だ。



一方で、成績は立派ながら崖っぷちの候補者も少なくない。先に紹介した最終年のスミスや、8年目の「ミスターDH」エドガー・マルティネスと通算493本塁打フレッド・マグリフ、7年目のラリー・ウォーカーらだ。

この中で、前回得票率が最も高かったのはマルティネスで43.4%だった。ウォーカーは気の毒にも15.5%しか得ていない。これでは、今回は次年度以降の資格を保持できる5%を割り込む可能性も否定できない。彼は、首位打者3度に本塁打王も1度獲得しておりMVP選出歴もあるが、その全盛期を空気が薄く打者天国のデンバーを本拠地とするロッキーズで過ごしたため相当割り引かれているのだろう。

果たして、7月30日にクーパースタウンで行われる表彰式に招待されるのはだれか?バグウェルとレインズはまず間違いなしで、ロドリゲスとホフマンは次回に持ち越し、というところか。