所属タレントによる闇営業事件は、さらにその営業先が反社会性勢力であったことがわかり大きな問題となりました。売れっ子タレントの謹慎にまで事態は進み、テレビ局も沈静化を待つようなことでは済まない状況です。一方吉本興業は所属タレントや社員へのコンプライアンス研修も実施するなど、これまでも対策を講じていました。ではなぜこんな事態は起こるのでしょう?吉本に代表される大企業・一流企業コンプライアンス研修の穴だと思います。
1.宮迫謹慎の本質
雨上がり決死隊・宮迫さんが本事件の責任を取り謹慎となりました。アメトーーク他、人気番組に出演する超売れっ子の事件だけに、テレビ局も対応に苦慮しています。要するに闇営業自体は所属プロダクションとの問題なのでどうとでもなるとして、その営業先が反社会性勢力であったことが大問題なのです。
反社会性勢力という存在は、その存在を看板を掲げて告知している訳ではなく、また表面的に合法企業の体を取る例もごく普通にあるため、タレントさんらが言っている「反社とはわからなかった」というのはあり得ます。そこで今、大手企業と仕事をする、金銭授受が発生する取引においてはほぼ必ず「反社会的勢力排除に関する誓約書」というものを提出させられます。
排除誓約書があったならば、万一実はそれが反社会勢力だったと後で判明しても、自分はだまされたと主張できる証拠になります。こうしたコンプライアンス対応を取れるのがプロダクション所属のメリットであり強みです。
しかし今回のように闇営業でそんな契約すら不明な中、先輩からの声かけやらトッパライでのギャラなど、イキオイで仕事にいってしまうのは、芸能界の慣例として十分あり得ることではあります。しかし社会がもうそれを認めなくなったことについて、認識させるのが本当のコンプライアンス研修の目的だったのです。
2.大企業の穴
コンプライアンス研修の依頼を受け、いろいろな企業を回っていますと、ほとんどの大組織(大企業・官公庁など)ではコンプライアンス研修はすでに実施されています。吉本興業も警察やマトリ(厚生労働省麻薬取締部)といった専門家を招いての研修をしていたようです。これ自体が悪いことではなく、知識として重要だと思います。しかし、本当に抑止となる研修は「コンプライアンス違反はダメ」と伝えることではありません。
コンプライアンスが大切なことを否定する人間も、そもそも法令を遵守しなくて良いと思っている人間も、普通はいないからです。研修すべきは「コンプライアンスの重要性」や「コンプライアンスを徹底しよう」ではなく、「何がコンプライアンスに反するのか」「合法と非合法の『現実の境界』が何か」を理解させることです。
危機管理にしても、記者会見の開き方など普通のスタッフには関係ありません。一部の上層部や専任部署だけがわかっていれば良いことです。重要なのはもっと日常的な危機が発生することへの備えなのです。
所属タレントさんへ、反社会性勢力が違法薬物などさまざまなアプローチをしてくることは伝えていたようですが、「そもそも芸能界はそんなところだから」という、かつての価値観が大きく変わっていることを理解できていなかったと言わざるを得ないでしょう。
芸能界ではなく、スポンサーの変化です。今回の事件もスポンサー離れが一気に事態を加速させました。
3.形式研修の穴
大企業や官公庁での研修には高名な専門家が呼ばれることが多いのでしょう。しかしコンプライアンスや危機管理対策において、もっとも重要なことは日常性です。常日頃からの業務において、当然起こり得る事態を想定し、それに対してどう行動すべきかという具体性のない研修は意味がありません。
さまざまな法律の説明や大がかりな危機対応など99%の社員には意味がありません。
芸能界と反社会性勢力が持ちつ持たれつの関係であったことは歴史上の事実でしょう。それは芸能界が悪いのではなく、興業という手法において伝統的な必要性があったからです。ここを隠したり、過去を批判することには何の意味もありません。
そうではなく芸能界を含む社会規範が変わってきたこと、ハラスメントに代表される、「かつてはOKだったこと」がもはや認められなくなったことをいかに認識させるかが大切なのです。
かつて運動部の練習中に水を飲むことは厳禁でした。ウサギ跳びも足腰鍛錬とともに根性を養う苦行として広く認識されていました。しかし今、こんなことは絶対に認められません。反社会性勢力との関係性も時代が変わったのです。反社会性勢力自体が、その見た目や組織形態を変え、むしろ芸能界以上に社会適応して存続を図っています。
芸能界、大企業、官公庁といった立場の人たちにこそ、現実を知り、現実的な思考ができる研修がなされなければなりません。