人事的にあり得ない「テレビあるある」“You're Fired!(キサマはクビだ!)”

テレビでよくあるシーンに、「正義感にかられた刑事が上司に辞表を叩きつける」とか、「社命に反抗した主人公が社長や重役から『貴様はクビだ!』と宣告される」シーンがあったります。少し前までのトレンディドラマ(死語?)でも、個人デスクにパソコンがないオフィスが映ったりしていました。会社員なら誰もが感じる違和感を人事的に検証してみました。

1.「貴様はクビだ!」を創始した人

そんなの昔からあるだろ、と思うでしょうが、もちろんクビ宣告は昔からありました。ここでは「キサマはクビだ!」を決めゼリフにした人のことです。ちなみに英語では“You're Fired!”となります。アメリカに詳しい人なら、それはトランプ大統領とご存知の方もいるかも知れません。

トランプ氏は大統領になる前、NBCテレビのバラエティ番組「アプレンティス(The Apprentice)」司会として、参加者にこの言葉を言うのが見せ場だったとのこと。そこで一般人気を得て、バラエティタレントから大統領まで上り詰めたというのは、タレント上がりの政治家も多い日本の政治家の比ではないかも知れません。こうして一般的知名度を獲得し、政治家として土台を作った戦略は素晴らしい成果をもたらせました。

ところが、そのトランプ氏より先にこの言葉を売り物にしていた有名人がいます。世界最大のプロレス団体WWEのチェアマン/CEO、ビンス・マクマン氏です。WWEを世界最大のプロレス団体に育てた人物で、経営だけでなくプロレスラー並みの体格で自らリングに上がり、「悪のオーナー」という役どころを演じます。オーナーなので、正義のチャンピオンを勝手な理屈をつけてクビにしたりもします。その時に発するのが“You're Fired!”です。

トランプ氏は何度もWWEのリングに上がり、ついには“Battle of the Billionaires”と称して、マクマンCEOと負けたら髪の毛を剃ることを賭けて戦ったりします。実際にはこの二人が直接プロレスをするのではなく、レスラーがサポートして勝負がつくのですが、WWEのレスラーは「スーパースター」と呼ばれ、バラエティタレントを超えるほどのシャベリができます。トランプ氏もWWEではレスラーや元プロレス実況アナウンサーだったマクマン氏に比べれば、むしろ寡黙な(ちゃんとしゃべってるけど)くらいでした。

2.「クビだ!」と言ったらどうなるか?

プロレスの話だけで終わっては怒られてしまいます。まだジョー・ロウリネイティスの本名でロードウォリアーズ、アニマルの弟、ジョニー・エースがWWE幹部だったこととか、エースクラッシャーとダイヤモンドカッターについて語れていませんが、これは一人で山に向かって語りたいと思います。

人事に話をやっと戻します。

日本では「クビ」にはできないのです。つまりテレビやドラマの世界だけの話で、刑法犯罪のような反社会的行為を働いたりしない限り、会社が社員を辞めさせることはできません。「ん?じゃ、リストラは?」と言われるでしょうが、リストラは正確に言うならクビにするのではなく、自ら退職することを促す行為なのです。「退職勧奨」とも呼ばれます。「勧奨」なので強く勧めるだけで、物理的に解雇はできません。

もしクビにされたとしたら、裁判に訴えれば普通は労働者が勝てます。犯罪のような反社会的行為がない限り、成績が悪い程度での解雇は法律が認めません。もっとも、実際には勧奨自体は行うことができますから、会社や上司から強くそんなことを勧められても居残るにはかなりのメンタルな強さが要るでしょうし、いやがらせのような作業を命じて自ら退職に追い込む行為も行われます。「追い出し部屋」のように肉体的ではなく精神的に追い込むひどい会社もあるようです。

3.辞表を破り捨てる人情家上司

インターネットのおかげでだいぶ人事知識も広まり、「辞表」というものが一般社員ではなく取締役など経営者や公務員、公的組織の役職者が退職の意思を表すものであることも以前より知られてきました。しかし今でも普通の会社員が退職する場合に「辞表を出す」という表現は使うことがあります。これはおそらく刑事ドラマで、主人公の刑事が法律ギリギリの手法で犯人を捕らえたり、法律違反を犯してまで被害者を救ったりという場面でよく「辞表を出す」という言葉がポピュラーになったのでは?と推測しています。刑事は公務員だから辞表で良いんですね。

役員でもない一般社員が退職時に出すのは「退職届」や「退職願い」です。これまたネットの知識では「届」は退職確定、「願い」は未定などと言われますが、実際には同じと考えられます。会社は裁判所ではないので、実体や意思の方が重要です。書類のタイトルが「届」か「願い」かでその効力が大きく変わることは普通ありません。

ドラマでは上司である人情家の課長が「これは預かっておく」とフトコロにしまい込んで、結局刑事は辞めずに「辞表」は上司が破り捨てたりします。退職届であれ願いであれ、「労働契約終了の意思表示」のための文書ですから、これを勝手に破く行為は当然法律違反です。普通は懲戒を受けるような違反になります。

4.「お前なんかは給料半分だ!」は?

ヘマをやらかした社員に上司が「月給無し!」とか「ボーナス出さないぞ」と脅すシーンがあります。これはどうでしょう?

労働基準法に規定があります。

懲戒として減給する場合は上限として、1回の減給額が平均賃金の半日分、総額が一賃金支払い期における賃金総額の10分の1までと規定なっています。また1回の懲戒では、平均賃金の半日分までしか減給できず、懲戒対象が複数あっても、1か月の賃金支給額の10%までしか減給できないのです。「ボーナス無し」も就業規則や給与規定でボーナス支給基準が定められていれば、そこから外れることはできません。自由に査定で決められたり、法人利益に応じて支給があったりなかったりする規定であれば、「ボーナス無し」は可能です。

いずれにしても、コンプライアンスが厳しく問われるようになった今の会社環境。「昔はOKだった」では済まない事だらけです。ここ数年財務省のトップやキャリア官僚、政治家によるセクハラ、パワハラなどが頻発しているのは、こうした社会環境の変化についていけていないからです。「ちょっとやりすぎでは?」と個人的に思うところはあり、何でもかんでもハラスメントだと騒ぐことには疑問も感じます。しかしそうした個人の感覚ではなく、社会がコンプライアンス徹底を求めるようになってしまいました。

政治家がセクハラなどで必ずする「相手も了承済み」とか「相手も嫌がっていない」という言い訳は、もはや言い訳にならなくなっているのです。こうした変化を知らずに、会社の宴会で「女の子は部長の隣に座って」とか言えば一発アウトです。社員を「女の子」と呼ぶだけでもだめなのに、なぜ特定の社員が幹部のそばに座らなければならないか、裁判になっても正々堂々とその正当性を主張できるだけの根拠がないならば、そうした違法なことには関与しないことが「今」の会社環境だといえるでしょう。

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5.「ハラスメントだ!」騒がれたらどうする?

ちょっと厳しめに注意すればパワハラ!、お愛想のつもりで褒めただけなのにセクハラ!と息苦しい世の中になってしまいましたが、もしそのように全く意図しないにも関わらず「ハラスメント!」と言われたらどうすれば良いでしょうか。

私はあちこちでハラスメントに関する研修なども行っていますが、そもそもハラスメントが何であるか認識していないのは無防備すぎです。

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