連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」 石内都

5000冊もの写真集からお気に入りを手にとり、美味しいごはんと写真集を味わう。

写真集食堂めぐたまは「写真の楽しさをおいしく味わえる」場所です。

11月22日の日曜日、今年最後の「飯沢耕太郎と写真集を読む」が開催されました。

写真集の持ち主である飯沢さんが“写真集の味わい”についてお話しするこの講座も、今回で18回目になります。(これまでの講座の様子はこちら

この日取りあげた写真家は、石内都さん。

1947年に群馬県で生まれ、1979年には女性で初めて木村伊兵衛写真賞を受賞しています。

今となっては女性の写真家は珍しくありませんが、被写体に対して、時に強い感情をぶつけ、時には大きな受容性を持って捉える彼女は、男ばかりの世界で一目置かれる存在でした。

美大生の頃、染色をしていた彼女は「私にもやれそう」と我流で暗室作業を習得したそうです。

染料を使って布を染めていくように、薬品を使って印画紙に像を定着させていくことに魅せられた初期の作品は、強いコントラストとくっきりと浮かび上がる粒子が特徴的です。

「石内都」は本名ではなく、母の旧姓。

母の名前で活動しながらもその関係は複雑で、母とはなかなか心が通い合わず、1979年に刊行された『絶唱・横須賀ストーリー』は、幼少期に過ごした横須賀を、強い主観的な感情をぶつけるように写しています。

一方で1981年の『Endless Night 2001 連夜の街―石内都写真集』では、日本全国のかつて遊郭として賑わった街をめぐり、寂れた建物のディテールを丁寧にそして客観的に捉えました。

主観と客観。対極的な『絶唱・横須賀ストーリー』と『Endless Night 2001 連夜の街』に共通するのは、過去の痕跡を捉えていく姿勢。

それは、『1・9・4・7』(1990年)へと通じていきます。

『1・9・4・7』は彼女と同じ「1947年生まれの女性」の手と足をクローズアップで捉えた写真集です。

一人一人の皮膚に刻まれた歴史を受け止めるように、1枚1枚を丁寧に写しています。

その後の写真集『1906・to the skin』(1994年)『さわる―Chromosome XY』(1995年)では人の皮膚に関心を強めますが、新たな転機となったのが『Mother’s』(2002年)でした。

彼女は、やっとわだかまりが解けてきた頃に亡くなってしまった母親の下着や口紅、靴などの遺品を「残された皮膚」として、写真に収めていきました。

『Mother’s』の写真は2005年のヴェネツィア・ビエンナーレで展示され、国際的な評価が高まり、石内都は新たな飛躍を遂げます。

その後、広島市現代美術館の依頼で、原爆の被爆者の衣服を撮影した『ひろしま』(2008年)でも『Mother’s』のように、布の物質的な存在感を超え、かつていた、今はもういない存在のただよう気配を感じさせます。

最近では、メキシコの女性画家フリー・ダカーロの遺品をめぐる旅がドキュメンタリー映画になるなど、ますます注目を集める石内都。

1つの写真集が次の作品へとつながっていき、その跡を追っていくことで石内さんの写真をより深く味わえることが、飯沢さんのお話から伝わってきました。

(2015年11月22日開催・写真/文 館野 帆乃花)



「飯沢耕太郎と写真集を読む」はほぼ毎月、写真集食堂めぐたまで開催されています。

2017年1月開催分からは解説のたっぷり入ったロングバージョンをお届けします。

著者フォローとタグ「飯沢耕太郎と写真集を読む」のフォローをお願いします。