すすれ、麺の甲子園
8年前のことになるがある小説誌で突如「麺の甲子園」という連載をしていたことがある。日本は麺類王国である。編集者らと3~4人で全国各地のコレハ!という話題の麺類を食べる旅に出て、地域ごとにうまさの評価を勝手にやっていた。
北海道から沖縄まで、みんな本気で食べ、本気でおなかをでっぱらせ、本気で議論し、地域エリアごとにトーナメント式でランクを決めていった。
取材のためにいつも2~3泊はする。一日4~5店はいくのでとてもすべての店で全部食べるわけにはいかない。
メンバーの一人にオレは絶対みんな食うぞ、という固い意志の人がいて実行していたが毎日夜はくるしいよう!と唸っていた。
ぼくもそうだったがほかのメンバーはもったいないけれど半分ぐらい残していた。
どうにも避けられない(おおげさながら)運命の法則みたいなものがあって、その日最初に食べるのは当然うまい。ホテルに泊まってもみんな通常の朝飯は抜いてきているからこれは当然である。したがって逆にその日最後に食う麺は満腹で食うのだから当然不利である。しかしこれもまた運命だ。
勝手にやっているのだから評価は言いたい放題。世間で話題になっているところは全部行ったから2年ほどかかった。
本当の甲子園大会のようにエリアをわけていった。しかし事情により北海道と東京は「3店」は代表をだせることになった。
連載の最後は地域ごとに優勝した「麺」が一同にあつまり全国大会だ。
一同にあつまり、といったって地域優勝した麺に本当にやってきてもらうわけにはいかないから、東京銀座のそば屋の二階でやはり取材参加関係者による熱い議論による決勝トーナメントを大まじめにやった。
それは『すすれ!麺の甲子園』(新潮文庫)という本になっている。もう絶版になっているかもしれないが。
ぼくは大会委員長であり書き手だから筆によっていろいろ発言操作できたが、二年がかりの真剣取材だったから「勝負」の議論は白熱し、かならずしも「大会委員長」でもあるぼくの意のままにはいかなかった。
そのとき出会った全国の麺(ラーメン、日本蕎麦、うどん、ソーメン、ひもかわ、スパゲティetc.)にはびっくり仰天するほど「うまい」のがあった。うまさの好みは個人個人によって当然違うから大会は紛糾した。
ススレルもの
麺――というものの定義をどうするか、ということも取材途中でたびたび論議された。トコロテンとかクズキリはどうすんだ。という奴がいるかと思えば地味だがキリボシダイコンを無視してはなんねえ、などとお国自慢みたいなことをいう奴もいた。
ハルサメ、糸コンニャク、30センチにもなる細長モヤシなどもエントリーしてきて、収拾がつかなくなり、そのうち「大会参加資格規定」などという役人みたいなことを口走るのが出てきた。