■G20の首脳宣言・日本とEUのEPA・運用を指数化に頼るGPIF等
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●輸入制限の根拠となるアメリカの通商拡大法232条の規定
ドイツのハンブルクで7月7日と8日に開かれたG20の首脳宣言では、「保護貿易主義との闘いを継続する」という自由貿易主義の大原則を掲げながらも、「不公正な貿易慣行への対抗措置」を容認する文言も入りました。言葉としてはもっともらしいですが、実際には「不公正な貿易慣行への対抗措置」は保護貿易主義に基づく政策です。にもかかわらず、こうした首脳宣言となったのは、G20の首脳が保護貿易主義を志向するトランプ大統領に配慮したためでした。言い換えれば、超大国アメリカの存在感は非常に大きいし、また、両論併記の首脳宣言にすることで表向きにはG20の結束が一応保たれるからです。けれども、やはりこれは自由貿易主義を中核としてきたG20の国際協調の枠組みにヒビが入ってしまったということにほかなりません。
それに現実面でもトランプ政権は目下、WTO(世界貿易機関)ルールから逸脱した保護貿易主義に基づく鉄鋼輸入制限を新たに検討しています。アメリカの鉄鋼市場では輸入品が3割を占めているため国内の鉄鋼産業の大きな脅威となっている、というのがトランプ政権の認識です。この場合、鉄鋼輸入制限の根拠となるのはアメリカの通商拡大法232条で、国防に必要な産業の供給力が低下したときには関税引き上げなどの措置ができると定められています。また、トランプ政権では鉄鋼ばかりかアルミ製品、半導体などへと次々に輸入制限を広げていく可能性も否定できません。
もちろん、このような輸入制限を許容する国はアメリカ以外では皆無です。EUなどはすでに「実際にアメリカが輸入制限を発動すれば、ウイスキーや酪農製品などを対象に報復措置を取る」と公言しています。
トランプ大統領の保護貿易主義は世界の政治と経済に混乱をもたらすだけです。今の自由貿易体制は、20世紀の経済の歴史を集約して出てきた結論を実行しているものだといえます。これ以外に選択の余地はないのです。逆にいえば保護貿易主義は20世紀の経済の歴史を否定しないと成り立たない経済政策なので、となるとアメリカだけが保護貿易主義を実行しようとしても同調する国などどこにもありません。